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第六話 最後の選択
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クリスマスツリーにはエバーグリーン、常緑樹を用いられるというのはよく耳にする話だ。一年中、葉を落とさないで四季折々移ったとしても変化しない。「永遠」を象徴するともされている。イルミネーションは元より常緑樹に飾り付ける物であって、それを彼女が理解していたとなると、つまりそういうことだったのかもしれない。または、自分がそういった存在であると必死に俺に伝えていたのかもしれない。
ペットショップで二匹の猫を見つめていたあの悲しそうな目も。もし、そうだったとしたら。
俺はとんでもなく千葉に、辛い思いをさせてしまっているのだろう。無意識に、他人を傷つけているのだろう。
それなのに、何も感じていないという表情をそれこそ作り出しているのに、俺に察してもらおうと行動を起こしているとなると一見、矛盾しているように見えるけれど、それ自体が彼女の苦しみだったとしたら。
俺はもう、ここで決めなくてはならない。
何も言わず、ただ帰るとだけ伝え、千葉の手を引っ張りながら俺は帰路につく。が、それも今の帰路ではない。すべてはあの時の帰路に。
すると、千葉は気兼ねたように、言いづらそうに聞いてきた。
「ねえ・・・どこに向かってるの?」
俺は無言で歩き続ける。握った掌はそのままで絶対に放さないように。
「あのさ。たぶんこの調子ならもう気付いたのかもしれないけれど」
無言だったけれど、この時ばかりは、彼女だけに言わせるわけにはいかなかった。これは俺の問題。俺がどうするかの問題だ。
「知ってる。全部知ってる。だから言わないでくれ。これは頼み事じゃなく、俺からの願い事だ」
「何を言おうとしているのかはもう大体わかってる。だから最後ぐらい、決めるときぐらいは俺に言わせてくれ、せめて聞いてくれ」
千葉はこくりとうなずくと別人のように黙り続けた。
そして俺はあの日、あの時、千葉が目の前でトラックに轢かれた、あの場所にたどり着き、ようやく引っ張っていた手を放した。
俺はゆっくりと振り向き、押し黙っていた千葉を目の前にする。千葉は今までしてこなかった、壊れそうな姿で、少しでも触ったら倒れてしまいそうな脆さを内包しているようだった。
それは今まで俺の前では表してこなかった彼女の一面でもあることが、さらに俺の心を突きつけた。首の一寸先には包丁が構えているように、今すぐにでも俺は死んでしまいそうで、本当に情けなかった。
そして、俺は今までの、ここまでの、話を全て語ることとした。
溜まった唾を呑み込み、一度深呼吸をして、再度目の前の女性を見つめる。
ケジメだ。そしてケジメは付けなくてはならないものだ。
なら、なおさら、この世界の真実を聞かなくては、言わなくてはならないはず。
「この世界は・・・・」
「つまり夢だ」
夢。そしてつまりこれは俺が見ている夢。抱いている夢。願っている夢。
「夢ってさ、あたかも現実だと認識しちゃうのが夢なんだがな」
「さすがに自分の願い通りになりすぎると自覚が現れるもんなんだな」
千葉は笑っているわけでも、悲しんでいるわけでもなかった。ただ現実がそのまま過ぎ去って、当たり前のことが目の前で起こっているかのように、見慣れた目つきをしていた。
「でしょ?」
だから俺に同意を求めてきたのは、彼女なりのポリシーというか、アイデンティみたいなものなんだと思うことにした。どうしたって、辛いという感情は目に見えていたのだから。
「これは俺がこうなるようにと、願った理想郷。終わらない現実だ」
冬休みを目前にして喫茶店『アッティモ』へ向かおうとした下校最中。突如、猛進してくるトラックに千葉が轢かれたという事実は、見間違いではなかったようだった。俺の頭は常に正常で、だから願ったのだ。こんな事実は無かったんだと。
過程は分からない。なぜ、こんな世界が、事故が起きた時を境に人生の分岐ルートが確立されたのかは分からない。事実、俺が何故ここにいるのかさえも把握していないのだから。
「それで・・・?トモはどうするの?このままでいいの?」
そう、俺は決断しなくてはならない。この世界を終わらせるか、それとも続けるか。それは俺が決めなくてはならないはずだ。分岐したのは俺の身勝手な願いであり、問題を終結に向かわせるのは他でもない当事者の俺しかいないのだから。
夢から覚めれば、あのトラックで轢かれた事故は過去の事実となる。取り返しのつかない過去に。
それはつまり、千葉の・・・彩花のいない世界に戻るということ。
「俺は・・・」
A.この世界に残り続ける。
B.この世界を終わらせる。
ペットショップで二匹の猫を見つめていたあの悲しそうな目も。もし、そうだったとしたら。
俺はとんでもなく千葉に、辛い思いをさせてしまっているのだろう。無意識に、他人を傷つけているのだろう。
それなのに、何も感じていないという表情をそれこそ作り出しているのに、俺に察してもらおうと行動を起こしているとなると一見、矛盾しているように見えるけれど、それ自体が彼女の苦しみだったとしたら。
俺はもう、ここで決めなくてはならない。
何も言わず、ただ帰るとだけ伝え、千葉の手を引っ張りながら俺は帰路につく。が、それも今の帰路ではない。すべてはあの時の帰路に。
すると、千葉は気兼ねたように、言いづらそうに聞いてきた。
「ねえ・・・どこに向かってるの?」
俺は無言で歩き続ける。握った掌はそのままで絶対に放さないように。
「あのさ。たぶんこの調子ならもう気付いたのかもしれないけれど」
無言だったけれど、この時ばかりは、彼女だけに言わせるわけにはいかなかった。これは俺の問題。俺がどうするかの問題だ。
「知ってる。全部知ってる。だから言わないでくれ。これは頼み事じゃなく、俺からの願い事だ」
「何を言おうとしているのかはもう大体わかってる。だから最後ぐらい、決めるときぐらいは俺に言わせてくれ、せめて聞いてくれ」
千葉はこくりとうなずくと別人のように黙り続けた。
そして俺はあの日、あの時、千葉が目の前でトラックに轢かれた、あの場所にたどり着き、ようやく引っ張っていた手を放した。
俺はゆっくりと振り向き、押し黙っていた千葉を目の前にする。千葉は今までしてこなかった、壊れそうな姿で、少しでも触ったら倒れてしまいそうな脆さを内包しているようだった。
それは今まで俺の前では表してこなかった彼女の一面でもあることが、さらに俺の心を突きつけた。首の一寸先には包丁が構えているように、今すぐにでも俺は死んでしまいそうで、本当に情けなかった。
そして、俺は今までの、ここまでの、話を全て語ることとした。
溜まった唾を呑み込み、一度深呼吸をして、再度目の前の女性を見つめる。
ケジメだ。そしてケジメは付けなくてはならないものだ。
なら、なおさら、この世界の真実を聞かなくては、言わなくてはならないはず。
「この世界は・・・・」
「つまり夢だ」
夢。そしてつまりこれは俺が見ている夢。抱いている夢。願っている夢。
「夢ってさ、あたかも現実だと認識しちゃうのが夢なんだがな」
「さすがに自分の願い通りになりすぎると自覚が現れるもんなんだな」
千葉は笑っているわけでも、悲しんでいるわけでもなかった。ただ現実がそのまま過ぎ去って、当たり前のことが目の前で起こっているかのように、見慣れた目つきをしていた。
「でしょ?」
だから俺に同意を求めてきたのは、彼女なりのポリシーというか、アイデンティみたいなものなんだと思うことにした。どうしたって、辛いという感情は目に見えていたのだから。
「これは俺がこうなるようにと、願った理想郷。終わらない現実だ」
冬休みを目前にして喫茶店『アッティモ』へ向かおうとした下校最中。突如、猛進してくるトラックに千葉が轢かれたという事実は、見間違いではなかったようだった。俺の頭は常に正常で、だから願ったのだ。こんな事実は無かったんだと。
過程は分からない。なぜ、こんな世界が、事故が起きた時を境に人生の分岐ルートが確立されたのかは分からない。事実、俺が何故ここにいるのかさえも把握していないのだから。
「それで・・・?トモはどうするの?このままでいいの?」
そう、俺は決断しなくてはならない。この世界を終わらせるか、それとも続けるか。それは俺が決めなくてはならないはずだ。分岐したのは俺の身勝手な願いであり、問題を終結に向かわせるのは他でもない当事者の俺しかいないのだから。
夢から覚めれば、あのトラックで轢かれた事故は過去の事実となる。取り返しのつかない過去に。
それはつまり、千葉の・・・彩花のいない世界に戻るということ。
「俺は・・・」
A.この世界に残り続ける。
B.この世界を終わらせる。
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