5 / 222
我儘令嬢は推しに優しくしたい・後
しおりを挟む
「申し訳ありません。お嬢様」
マクシミリアンのおデコこつん…もとい、ヘッドバッドを受けわたくしが悶絶していると、彼がわたくしの額にそっと手を添えてきた。
おてて冷たい…そして意外と手が大きくてゴツゴツとしている。
庭師を手伝っている姿も見るし、今世のわたくしと違ってちゃんと働いている人の手なのだなとしみじみ思う。
前世のわたくしの手は、マクシミリアンより農作業で荒れてたけどね。
女子としては自慢にならないけど第一次産業従事者としては誇っていいと思うの。
(…人の手の感触って、安心出来るのね)
そんな事を思いながらマクシミリアンの手を自分の手で取り、猫のように頬を摺り寄せる。
するとビクリ、と彼が動揺したのが手から感じる振動から伝わった。
嫌いな相手からいきなりこんな事をされたら、嫌だろう。
推しと会えて浮かれていた気持ちが、スッと冷えた。
「…謝って許される事じゃないけれど。わたくし今まで我儘ばかりだったわ。…ごめんなさいね」
手を握ったまま、気持ちを込めて彼を見つめる。
驚きすぎて見開いた彼の目が零れそうだ。
それはそうだろう。昨日まで我儘放題で振り回していたお子様がこんな事を言い出すのだから。
(ゲームの貴方のようにはしたくないから、せめて嫌いにならないで)
復讐を胸に、苦しむ貴方にはしたくない。
「お嬢様…本当にどうしたのですか?」
驚いた表情のままの彼の口から、掠れるような声が出る。
「溺れた馬鹿なわたくしを助けてくれた事、少しは恩に感じてるのよ。そして…反省したの」
前世を思い出したからトラウマを植え付けたくなくて優しくしたいし仲良くしたいです、なんて言えない。
苦しい言い訳だと思いながらもそんな言葉で誤魔化す。
ふふっと笑って手を離すと、彼も少し微笑んだので安心した。
(さて…これからどうしよう)
推しに会えた喜びをもっともっと噛みしめたいけれど、これからの事を考えないと。
バッドエンド(わたくしにとっての)は、現在思い出せていない2キャラ分は置いておいて、
ヒロインを虐めさえしなければ発生しないもののはず…だけど念には念を押したい。
まず、フィリップ王子の婚約者になる事は極力避けたい。
バッドエンドの可能性を出来るだけ取り払っておきたいのもあるけれど、
前世の記憶を思い出したわたくしにとって王宮暮らしなんて窮屈にしか思えない。
ヒロインがフィリップ王子を選ばなかった時、王妃になってしまうのは嫌なのだ。
以前のビアンカは少なからず王宮暮らしに憧れていたみたいだけど。
マクシミリアンの場合はこれから仲良くなれば復讐されるいわれも生じないし、ヒロインを虐める気もないから大丈夫…よね?多分。おそらく。
彼の事は推しだし大好きだけど、恋愛と推しへの気持ちは別のものってちゃんとわきまえているから。ヒロインとの仲を応援するわ。
イエス推しノータッチ!
ゲームの強制力や転生者ヒロインに嵌められる…なんて事態が発生した場合、どれだけ仲良くしていてもゲーム期間に入った瞬間に無駄になる可能性も否めないけれどそればかりは恐れていても仕方がない。
万が一ボコボコ娼館ルートに入った時は、せめて手加減してね、マクシミリアン。
自分の周囲の人間との関係も改善したい。
いざと言う時変な噂を流されないように…もあるけれど、周囲の人間と不仲なのって気持ちがいいものじゃないもの。
我儘なわたくしが壊して失ってしまった信頼を、まずは取り戻そう。
家庭教師の先生にも謝って、きちんと勉強を教えて貰って。
庭師のジムにお花を咲かせてくれていつもありがとうって言って。
メイドにも、コックにも。父様にも、お兄様にも。
ちゃんとありがとうって言いながら生きて行こう。
3歳の時に亡くなった母様にも、ちゃんと毎月お花を供えに行こう。
悪役令嬢にならずに、出来れば前世で住んでいた島みたいな、あったかい日々が過ごせたらいいな。
(清く正しく過ごしてもゲームの強制力が働いて国外追放される可能性を考えると…。
国外追放に関しても色々と前向きに検討しないとね)
地図を見ながら追放される土地の候補を絞りたい。
前世の島みたいに、豊かで自給自足出来るような土地がいい。出来れば南国。
魔法を自在に使えるようになれたら尚いい。
火魔法で火をつけられたら便利だし、土魔法で木を育てたり出来たら更に便利だ。
ゲーム内のビアンカは不真面目だったから魔法の勉強も碌にせず、指先に火を灯す程度しか使えなかったのよね。
魚を銛で捕まえられるように、泳ぎと剣術も覚えたい…けど侯爵令嬢の身の上でこれは許可が下りないわよね…こっそり誰かに習えないかしら。
今から真面目に勉強したらきっと、いっぱい魔法が使えるし、剣の腕も上達する。
以前のわたくしは勉強が大嫌いだったけど、今は勉強が出来る事にワクワクしている。
お勉強が嫌いじゃなかった前世の影響ね。
……あれ?
国外追放プラン…なんだか楽しそうじゃありません事?
これはどうしたものかしら?
腕組みをして悩み始めたわたくしを、マクシミリアンが不思議そうな目で見ている事にわたくしは気付いていなかった。
マクシミリアンのおデコこつん…もとい、ヘッドバッドを受けわたくしが悶絶していると、彼がわたくしの額にそっと手を添えてきた。
おてて冷たい…そして意外と手が大きくてゴツゴツとしている。
庭師を手伝っている姿も見るし、今世のわたくしと違ってちゃんと働いている人の手なのだなとしみじみ思う。
前世のわたくしの手は、マクシミリアンより農作業で荒れてたけどね。
女子としては自慢にならないけど第一次産業従事者としては誇っていいと思うの。
(…人の手の感触って、安心出来るのね)
そんな事を思いながらマクシミリアンの手を自分の手で取り、猫のように頬を摺り寄せる。
するとビクリ、と彼が動揺したのが手から感じる振動から伝わった。
嫌いな相手からいきなりこんな事をされたら、嫌だろう。
推しと会えて浮かれていた気持ちが、スッと冷えた。
「…謝って許される事じゃないけれど。わたくし今まで我儘ばかりだったわ。…ごめんなさいね」
手を握ったまま、気持ちを込めて彼を見つめる。
驚きすぎて見開いた彼の目が零れそうだ。
それはそうだろう。昨日まで我儘放題で振り回していたお子様がこんな事を言い出すのだから。
(ゲームの貴方のようにはしたくないから、せめて嫌いにならないで)
復讐を胸に、苦しむ貴方にはしたくない。
「お嬢様…本当にどうしたのですか?」
驚いた表情のままの彼の口から、掠れるような声が出る。
「溺れた馬鹿なわたくしを助けてくれた事、少しは恩に感じてるのよ。そして…反省したの」
前世を思い出したからトラウマを植え付けたくなくて優しくしたいし仲良くしたいです、なんて言えない。
苦しい言い訳だと思いながらもそんな言葉で誤魔化す。
ふふっと笑って手を離すと、彼も少し微笑んだので安心した。
(さて…これからどうしよう)
推しに会えた喜びをもっともっと噛みしめたいけれど、これからの事を考えないと。
バッドエンド(わたくしにとっての)は、現在思い出せていない2キャラ分は置いておいて、
ヒロインを虐めさえしなければ発生しないもののはず…だけど念には念を押したい。
まず、フィリップ王子の婚約者になる事は極力避けたい。
バッドエンドの可能性を出来るだけ取り払っておきたいのもあるけれど、
前世の記憶を思い出したわたくしにとって王宮暮らしなんて窮屈にしか思えない。
ヒロインがフィリップ王子を選ばなかった時、王妃になってしまうのは嫌なのだ。
以前のビアンカは少なからず王宮暮らしに憧れていたみたいだけど。
マクシミリアンの場合はこれから仲良くなれば復讐されるいわれも生じないし、ヒロインを虐める気もないから大丈夫…よね?多分。おそらく。
彼の事は推しだし大好きだけど、恋愛と推しへの気持ちは別のものってちゃんとわきまえているから。ヒロインとの仲を応援するわ。
イエス推しノータッチ!
ゲームの強制力や転生者ヒロインに嵌められる…なんて事態が発生した場合、どれだけ仲良くしていてもゲーム期間に入った瞬間に無駄になる可能性も否めないけれどそればかりは恐れていても仕方がない。
万が一ボコボコ娼館ルートに入った時は、せめて手加減してね、マクシミリアン。
自分の周囲の人間との関係も改善したい。
いざと言う時変な噂を流されないように…もあるけれど、周囲の人間と不仲なのって気持ちがいいものじゃないもの。
我儘なわたくしが壊して失ってしまった信頼を、まずは取り戻そう。
家庭教師の先生にも謝って、きちんと勉強を教えて貰って。
庭師のジムにお花を咲かせてくれていつもありがとうって言って。
メイドにも、コックにも。父様にも、お兄様にも。
ちゃんとありがとうって言いながら生きて行こう。
3歳の時に亡くなった母様にも、ちゃんと毎月お花を供えに行こう。
悪役令嬢にならずに、出来れば前世で住んでいた島みたいな、あったかい日々が過ごせたらいいな。
(清く正しく過ごしてもゲームの強制力が働いて国外追放される可能性を考えると…。
国外追放に関しても色々と前向きに検討しないとね)
地図を見ながら追放される土地の候補を絞りたい。
前世の島みたいに、豊かで自給自足出来るような土地がいい。出来れば南国。
魔法を自在に使えるようになれたら尚いい。
火魔法で火をつけられたら便利だし、土魔法で木を育てたり出来たら更に便利だ。
ゲーム内のビアンカは不真面目だったから魔法の勉強も碌にせず、指先に火を灯す程度しか使えなかったのよね。
魚を銛で捕まえられるように、泳ぎと剣術も覚えたい…けど侯爵令嬢の身の上でこれは許可が下りないわよね…こっそり誰かに習えないかしら。
今から真面目に勉強したらきっと、いっぱい魔法が使えるし、剣の腕も上達する。
以前のわたくしは勉強が大嫌いだったけど、今は勉強が出来る事にワクワクしている。
お勉強が嫌いじゃなかった前世の影響ね。
……あれ?
国外追放プラン…なんだか楽しそうじゃありません事?
これはどうしたものかしら?
腕組みをして悩み始めたわたくしを、マクシミリアンが不思議そうな目で見ている事にわたくしは気付いていなかった。
28
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる