悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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令嬢13歳・パラディスコで海水浴・前

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パラディスコ王国へ到着したわたくし達は。
今回はプライベートな旅行という事で、ミルカ王女のご両親にご挨拶だけしたら王宮に引き留められる事はなく、すぐに王女が用意して下さった王家の別邸に移動する事になっていた。
……フリップ王子以外は。
流石に王子は完全に旅行です、という体で付いて来る訳にもいかずパーティに参加したりの外交の日程が組まれており着いて2日は別行動なのだ。
パーティのパートナーを頼まれたけれど……丁重にお断りした。
するとすごく悲しそうな顔をされて罪悪感で思わず引き受けそうになったけれど、気力で踏みとどまった。
王子……パートナーになって一緒に外交って完全に婚約者のお仕事ですよね……?
そんな特大の既成事実を捻じ込もうとされてもそりゃお断りしますよ!

そんな訳でミルカ王女にどこか似たほわほわとした雰囲気の王様とスレンダー美女な王妃様とのご挨拶を済ませたわたくし達は、パラディスコ王家の別邸に居る訳です!
国王夫妻との謁見は緊張はしたものの、終始和やかな雰囲気でほっとした。
ミルカ王女がお耳に入れたのかメイカ王子の件について国王夫妻に謝られてしまって少し焦る場面もあったけれど。
王妃様のこめかみには青筋が立っていてメイカ王子、こっぴどく怒られそうだなぁ……と冷や汗を掻きながらそれを見てしまった。
別邸への移動中馬車から見えたパラディスコの街は異国情緒が溢れていて。
マクシミリアンの許可が出たらわたくしも街を散策したい……!と胸が華やいだ。
後で甘えてみよう、うん。マクシミリアンは甘えたらなんだかんだで言う事をきいてくれるのだ。
その分の見返りも最近は求めてくるけれど……。
別邸は瀟洒な白い建物で、シュラット家の邸よりも広さがあって驚いた。流石王家……!
そして……なんとオーシャンビューなのです!!

「マリア様!ゾフィー様!オーシャンビューですわよ!」

テンションが上がったわたくしがリビングルーム兼応接間の窓の前で海を見ながらぴょんぴょんしていると、『オーシャンビュー……?』とお二人に小首を傾げられ今世ではない言葉だったのか……!とちょっと冷や汗を掻いた。
それにしてもはしたなくテンションを上げ過ぎてしまった気がする……恥ずかしい。

「ごめんなさいね、つい楽しくなってしまって……はしゃぎすぎましたわ」
「ふふ。はしゃぐビアンカ様も、とても可愛らしいです」
「ええ、とても可愛いらしいですわ!まるで子兎のようで……食べてしまいたいですわ!」

マリア様の発言はともかく、ゾフィー様の発言が……何か不穏だ。
食べないで下さいね……??

「お嬢様、皆さま。マルウリという食べ物を地元の方に頂きましたのでお食べになりませんか?」

買い出しに行っていたジョアンナが、地元の方から頂いたというマルウリ……前世で言うスイカを切り分けてリビングルームに持ってきた。
皮を剥いたりせずちゃんと三角の状態で持って来るのが……!ジョアンナ貴女分かってるわね!

「わ~すごい!立派なの貰ったね!」
「すごいですわ!赤く熟れていて美味しそう!」
「ビアンカ様。こちら食べ物なのですか……?」
「なんかすごい、やっばい色してますわよ!?」
「ビアンカ嬢……これ、食べるの??」

テンションが上がるわたくしとミルカ王女。
対してマリア様、ゾフィー様、ノエル様は不審な物を見る目で赤くて沢山の黒い種が埋まった謎の食べ物……マルウリを遠巻きに見ている。
……うん、味を知らないとそんな顔になるのも分かるわ。配色が結構独特だもんね。
マクシミリアンは、

「お嬢様が食べろと言うなら私は何でも食べますので」

というある意味危ない事を言っている。
止めて、わたくしの為なら毒でも喰らいそうよ貴方。

「いっただきまぁす!」

ミルカ王女がカットされたマルウリを両手で手に取り、シャクシャクと小気味良い音と立てて食べる。
それに倣ってわたくしもマルウリを手に取り前世のようにはパクつかず……あくまで令嬢らしく上品に口にした。
あ……甘ぁい……!!幸せの味がする!

「美味しいですわ……!」

指に付いた果汁を舌で拭いながら言うとマクシミリアンが赤いような苦いような顔をしてわたくしの手を綺麗な布で拭う。

「お嬢様、舐めとるなんて品がありませんよ……」
「うう……ごめんなさい……」

マクシミリアンはナイフでマルウリを小さく切ると、フォークでわたくしの口に運んだ。
ああ……折角三角だったのに……。
仕方なく小さくカットされてしまった果肉を、マクシミリアンに口に運ばれ咀嚼する。
これはこれで、美味しいのだけど……。
そんな横でミルカ王女は豪快にマルウリを食べ続けていて、ハウンドに時折布で口を拭かれていた。

「ひゃだ……主従いい……!!ゾフィーさん尊いわ……」
「ああ……マリアさん!この旅に来た甲斐がありましたわね!」

手と手を取り合ってマリア様とゾフィー様がうわ言のように呟いている。
……この2人からはビッ〇サイトに集う勇者達と同じ波動を感じるんだけど……。
ノエル様は恐る恐るという感じでマルウリに口を付け……カッと目を開くと一心不乱に食べ始めた。
お口に合ったようで良かったわ。

「ねぇ、この後海で泳ごうよ~。この辺りは王家所有の土地だから変な輩もいないし、警備もちゃんとしてるからさぁ。水着もちゃんとあるから!」

ミルカ王女がマルウリの種をぷっとお皿に出しながら提案する。
ハウンドが上手く皿に乗らず床に落ちてしまった種をやれやれ、という顔で拾った。
……どこの執事も主人の世話に甲斐甲斐しい。
マクシミリアンにマルウリを口に運ばれながらそう思う。

「泳いでみたいですわ!……ちなみに水着って……どんなものなのです?」

そうわたくしが訊くとミルカ王女はふふん!と得意気な顔をしてパンパン!と手を叩いた。
すると別邸のメイド達が鮮やかな色の布を携えてリビングルームに入ってきた。

「まぁ!素敵!!」

流石にビキニ……とはいかないが、前世で言うワンピースタイプ水着をさっとメイド達が広げていく。
南国の空に似合う鮮やかな色の水着達に心が躍る。

「わたくし、この赤の水着がいいですわ。普段あまり着ない色なので……」
「ビアンカ嬢は肌が白いから似合いそうね!あ~んでもこの青も捨てがたいなぁ。似合いそう!」
「えっえっ。ビアンカ様……露出がすごくないですか?足がまるっと出ますよこれ」
「マリアさん覚悟なさって。郷に入っては郷に従えなのですわ!私このピンクのやつにしますわ!」
「えっ。ビアンカ嬢そんなに足を出すの?それって見ていいの!?役得!?」
「お嬢様、せめて、せめて腰に何かをお巻き下さい……!!」
「ミルカにはオレンジが似合うと思うっス」

きゃっきゃと黄色い声を上げながら水着を選ぶ女子達と何やら焦るノエル様とマクシミリアン。
そしてマイペースなハウンド。
ノエル様の発言が、なんだか青少年っぽい。そんな風に言われると足を出し辛いじゃない……。
マクシミリアンが言うように泳ぎ辛いけど腰に何かを巻こう。
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