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執事はお嬢様とお出かけする・前(マクシミリアン視点)

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「ねぇ……マクシミリアン、お願いがあるの」

宿泊先のパラディスコ王家別邸で2人きりになったタイミングで、お嬢様が深刻な顔でそう切り出してきた。
……どんなお願いなのだろうか……お嬢様の真剣な顔に私にも緊張感が走る。
お嬢様を椅子に座らせると、私は先を促した。

「あのね、ミルカ様にお聞きしたのだけど。明日と明後日の早朝に、市場で野菜の苗の市があるそうなの。その、それを見に2人でお出かけ出来ないかしら?こんな事、わたくしの夢を知っているマクシミリアンかユウ君にしかお願い出来ないから……」
「行きましょう、ぜひ」

ここで受けなければお嬢様はサイトーサン伯爵にお願いをするつもりなのだろう。
それだけは避けなければならない。
サイトーサン伯爵はとても良いお方だ……だがお嬢様の事に関しては私も譲るつもりは全くない。
お嬢様と2人で出かけるとなるとフィリップ王子を説得に骨が折れそうだが……。
申し訳ないがミルカ王女にお願いしてお任せしてしまおうか。
お嬢様との両想いの為だと説明したら面白がってホイホイと引き受けてくれそうな気がする。

――――ミルカ王女は上手くやってくれたらしく。
翌朝、私とお嬢様はぶすっとしたフィリップ王子と、それを宥めるノエル様。
そしてにやにやしながらガッツポーズで見送るミルカ王女と、何故かキラキラした目でこちらを見つめるゾフィー様とマリア様に見送られ2人で出かける事となった。
馬車に乗り込んでお嬢様と二人きりになると、お嬢様はとても楽しそうに鼻歌を歌いながら窓の外を見ていた。
野菜の苗との出会いを想像されているのだろう。
お嬢様と向かい合って座っていた私は……馬車が走り出してしばらくしてから、お嬢様の隣にそっと移動した。
すると彼女は少し驚いた顔でこちらを見て少し頬を染めて微笑んだ……とても可愛らしい。

「久しぶりのデートですね、お嬢様」
「マクシミリアン……!」

お嬢様の銀色の髪を一房取りながらそう言うと、お嬢様の顔が赤くなった。
そうだ……もっと、意識をして欲しい。
隣に居るのは貴女を欲しがっている男だという事を。
そして私を、選んで欲しい。

「……そんな事を言われたら、恥ずかしいわ……」
「恥ずかしがって頂けて嬉しいです。お慕いしている方に意識をされないのは、困りますから」

そう言いながらお嬢様の手をそっと握るとお嬢様は更に真っ赤になって固まった。
……嫌がられてはいないだろうか、と少し心配になってお嬢様の様子を伺うと。
お嬢様はぎゅっと私の手を握り返し真っ赤になって俯いて、私が見つめている事に気付くと表情を隠すように私の肩に顔をくっつけた。
……うん。これで脈が無かったら、割とショックだ。
お嬢様はそんな小悪魔でないと信じたい。
本当はお嬢様の気持ちが固まるまで、もっとゆっくり待ってあげたいのだけれど……。
お嬢様と親密なサイトーサン伯爵の登場で、私も随分と焦っている。
……焦って暴走しないように、気を付けたいところだ。
馬車が市場に着くまで、私達は寄り添ったまま無言だった。
正確に言うとお嬢様が時折『推しが……推しがずるい……』とうわ言みたいにおっしゃっていたが……。
『推し』とは前世の言葉なんだろうか?いずれ意味をお伺いしてみよう。

馬車は市場に到着し、私はお嬢様の手を取って馬車から降ろした。
早朝にも関わらず市場には随分と人が多い。
数々のテントが出ており威勢のいい声があちこちから飛び交っている。
突然市井に舞い降りた天使のようなお姿のお嬢様は……すっかり市場の注目の的だった。
主に、男達の視線がお嬢様に突き刺さっている……とても不快だ。

「マクシミリアン、朝なのに随分と人が多いのね」

お嬢様は男達の視線に気付かず無邪気に笑う。
その笑顔を見て顔を赤くしお嬢様を凝視する男達の存在が不快で、私はこっそり闇魔法を使い影から『犬』を出して男達の尻を噛ませた。
彼らは何かに突然噛まれ驚き周囲を見回すが、『犬』の姿はとっくに影に潜み男達には認識出来ない。
その慌てる姿を見て私は少し溜飲を下げた。
お嬢様は……何故か自分があまり人に好かれていないと思っていらっしゃる節がある。
そのせいか人の好意にとても疎いというか、特に男からの好意を含む視線を自らが向けられるとは思っていないようで、とても危なっかしい。
サイトーサン伯爵からの前世からの好意にも気付いておられなかったし……お嬢様はとにかく鈍いのだ。
だからうっかり変な輩に付いて行かないように私が注意せねば。
決して下心ではなく……そんな想いを込めてお嬢様の手を握ると、お嬢様はキョトンとした顔をした後に頬を赤く染めて微笑むと。
私の手をぎゅっと握り返して、少し肩を寄せた。

…………お嬢様、そんな反応をされると私は、自惚れてしまいますよ?
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