悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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令嬢13歳・新学期とヒロインの復活・前

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 パラディスコからの旅行から無事帰宅し、明日新学期を迎える事となった。
 わたくしは少し埃っぽくなった部屋をジョアンナとマクシミリアンが一生懸命掃除しているのをソファーに腰掛けてまったりとした気分で眺めていた。
 ……この部屋に帰るの、本当に久しぶりだわ。
 パラディスコ旅行、楽しかったなぁ……ユウ君にも会えたし。
 前世の友人に出会えた喜びは、本当に筆舌に尽くしがたいものだった。
 また会えるといいな……来年もパラディスコに旅行に行こうかしら。
 思い返すと王子からとんでもない事を言われかけたり、マクシミリアンの事が好きだって気付いたり。
 本当に色々あったなぁ……王子の件はどうしたものだか。
 王族と駆け落ちは本当にご遠慮願いたいですよ……。

「お嬢様~ちょっと失礼致しますよ」

 そう言いながらジョアンナがわたくしの足元の絨毯にブラシをかける。
 ジョアンナはパラディスコの旅でちょこちょこと姿を消していたのだけど、沢山の商売の契約を取ってきたようで帰る頃にはニコニコとご満悦だった。
 ……ジョアンナってば最早下手な貴族家よりお金持ちなんじゃないかしら。
 この子本当に、どうしてメイドをしてるの……?

「さて、お嬢様。お茶の時間にしましょうか?」

 掃除を終えたマクシミリアンがそう言って、黒曜石のような瞳を細めて笑った。
 冷たい印象の端正な顔が柔らかく微笑むのを見て心臓がドキリと跳ねる。
 ……好きだと気付くと以前よりも、もっと彼が素敵に見えて本当に困るわ。
 好きな人を見ると興奮で瞳孔が開く、なんて話を聞いた事があるけれどわたくし開きっ放しだったらどうしよう。

「お嬢様?」
「……マクシミリアンのお顔って、素敵よね」

 口からぽろりとそんな本音が出てしまう。
 マクシミリアンの目が大きく見開かれたかと思うと、頬を染めて嬉しそうな顔でこちらへと近付いて来た。

「私の顔は、お嬢様のお好みなのですか?」

 そう言って彼はソファーの横に腰掛けて、わたくしの顎を指でクイッと流麗な動作で持ち上げた。
 ひゃっ……推しの顎クイ……!!!
 視界にマクシミリアンの綺麗な顔しか入らなくなって……どうしていいのか分からなくなってしまう。
 そりゃ、好きですよ。だって前世でも全力で推してたのよ?!
 グッズを買おうと〇mazonだって沢山したし、アニメグッズ専門店にも通い詰めたわ。コラボカフェでもマクシミリアンのコースターが出るまでお腹いっぱいになるまでコラボメニューを食べたりもした。舞台版の俳優さんの追っかけもしていたのよ。
 海女の収入は貴方の為につぎ込んだわ、父母には生温かい目で見られたけど。
 わたくしが死んだ後、あの大量のグッズどうなったのかなぁ……。
 ……そんな推しと両想いとか、それだけでもわたくしには色々と荷が重すぎるのに。
 現実のマクシミリアンは前世で想像していたよりももっと素敵だから困るの。

「……大好きよ。決まってるじゃない……」

 わたくしがそう呟くと彼は一瞬驚いた顔をして、うっとりとした表情でこちらを見つめた。

「……お嬢様、可愛すぎます。キスしても?」
「ジョアンナが居るし、ダメ!!!」
「お嬢様~。今日って半休でしたよね? 掃除も終わりましたし、私旦那に会いに行ってきますね」
「ジョアンナ!!」

 ジョアンナは潔くわたくしを見捨てすぎじゃなくて!?
 『バカップルには付き合ってられませんよー』なんて堂々と呟かないで!
 わたくし本当に恋愛に慣れていないのよ……! 見捨てないで!
 ジョアンナの遠ざかる背中に手を伸ばすけれど、彼女は『ご武運を!』と口パクで言って去って行った。
 二人きりになってしまい涙目でマクシミリアンの方を見ると、妖しく微笑まれて頬が引き攣る。

「お嬢様。唇への許可は頂けていないので頬と額にしかしませんよ?」
「……お手柔らかにお願いします」

 マクシミリアンを涙目で見上げると、早速額に唇が落ちてきて思わず身を竦める。
 続けて頬に唇が降って、その唇は耳元へ寄せられた。

「承知しました。マイマスター」

 色気たっぷりの声で囁かれてどうしていいか分からない……。
 やっぱりマクシミリアンは、いやらしいと思う!
 マクシミリアンに唇以外の場所に沢山キスをされてへろへろになって。
 これ以上一緒に部屋に居たら唇も危ないと思い気分転換にお外を散歩したいわ、とマクシミリアンにお願いして寮の外に出たら……。

 校門の近くで数か月振りの……シュミナ・パピヨンと鉢合わせてしまった。
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