悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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閑話23・短編まとめ10

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活動報告にアップしている短編まとめその10です。
少し加筆したりしております。
近頃は文字数の関係で近況ボートに短編を上げておりません。申し訳ないです…!
分割でアップする心の余裕ができましたら短編上げを再開いたします。

『メイドとコックのお話』(ジョアンナと旦那様のなれそめ)
『あなたとの日常』(マクシミリアンの大事な日常の話)

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『メイドとコックのお話』

 俺、シュラット侯爵家のコックであるラヨシュは女にモテる方ではない。
 背がでかくて体もごつく、不愛想で口下手だ。顔も色男というものには程遠い。
 俺は家族というものに執着もないし別にこのまま一生独身でもいいと正直思っていた。
 だがお嬢様の料理作りをお手伝いしたのがきっかけで一人の女が俺に絡んでくるようになった。

「ラヨシュ、明日一緒に買い物に行きましょうよ」

 それはジョアンナ・ストラタス。同じ邸に勤めるメイドだ。
 綺麗な水色の髪のこの女は見た目がとにかく美しく快活で頭も切れ、そしてよくモテる。金に汚く業突く張りなところは玉に瑕だが。
 ジョアンナに惚れ込んだ子爵家の令息からの縁談の話もあったくらいだ。……何故か彼女は断っていたが。
 まぁそんなモテる女だから、一時の気の迷いで珍しいものを味見してみたいのだろうと俺は判断した。

「……無駄な時間の浪費をする気はない」
「あーら失礼ね、ラヨシュ!」

 素っ気ない俺の態度もジョアンナは笑顔で受け流し、ニコニコと後ろを付いてくる。
 ……なんなんだ、この女は。

「ラヨシュ、明日の正午に邸の正門で待ってるから。明日は休みだったでしょう? 私もなのよ」

 そう言ってジョアンナは笑顔で手を振りながら自分の持ち場へと戻って行った。
 おいおい、一方的な約束事を決められても俺は困るぞ。
 面倒なことになったな……俺はそう思いながらジョアンナの背中を見送った。

 次の日、俺は邸の正門に居た。
 ……自分よりも一回り以上若い娘に何を踊らされているんだと馬鹿な自分にため息が出る。

「ラヨシュ! お待たせ!」

 息を切らせてこちらに駆け寄って来るジョアンナを見て、思わず息を飲んだ。
 白い動きやすそうなワンピース、赤いエナメルのヒール。
 いつも一つに括っている髪は可愛らしいシニョンにして後ろでまとめている。
 顔には薄い化粧をしていてそれがよく似合っていた。
 普段お仕着せの彼女ばかり見ているからか、その姿はとても眩しく見えた。

「ほら、どこから行く? 私はね……」

 俺の腕を取って身を寄せながら彼女は微笑む。
 ……当たってるんだが。彼女のとても立派なものが。
 最近の若い娘は距離感がおかしいのか?

「お前な。若い娘が恋人でもない男にそんなにくっつくな」
「……あのね、ラヨシュ。私、恋人にしたい人以外にこんなことしないわ。私に目をつけられたら最後なのよ、観念しなさい?」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする俺に、ジョアンナは悪い顔でにやりと笑った。

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『あなたとの日常』

 お嬢様を膝の上に乗せ柔らかな体を抱きしめながら、彼女の髪に頬をすり寄せる。
 すると彼女がくすぐったそうに声を上げて笑う。そんな日常を今日も私は楽しんでいた。
 日常は、幸せで溢れている。お嬢様といるとそんな実感で満たされ温かな気持ちになる。

「マクシミリアン、そんなにされるとくすぐったいわ」

 お嬢様はそう言いながらも嫌がってはいない様子で、くすくすと笑いながら軽く身じろぎをした。彼女が動くたびに鼻先を繊細な質感の髪が掠めて、彼女の匂いがふわりと香る。

「お嬢様……」

 私は囁きながらお嬢様を強く抱きしめた。そしてその頬に唇を寄せ口づけると、彼女の白い頬に薔薇色が差す。

「マクシミリアン! お昼間っからいかがわしいわ!」

 お嬢様は可愛らしい抗議の声を上げた。
 ……抱きしめて、頬にキスをしただけなのに。お嬢様は時々私を『やらしい』と言うのだが、いかがわしい行為はしていないと思うのだ。
 健全の範囲内を守った、節度あるお付き合いをしているはずだ。

「頬にキスをしただけでございます、お嬢様」

 私がそう言うと彼女はなんだか不満げな顔でこちらをじろりと睨んだ。そんな可愛いお顔で睨まれても、ちっとも怖くないのだが。

「マクシミリアンは雰囲気がやらしい。やらしいのよ!」

 ……本当に言いがかりもよいところだ。雰囲気がと言われてしまうと正しようなんてないしな。
 そんなお嬢様の言いがかりまで愛おしいと感じてしまう自分は、相当お嬢様に惚れ込んでいるのだと思う。
 本当に、幸せだ。彼女と共にあることが、その日常が。

 ――……私はこの日常を『なにをしてでも』守らなければならない。
 
 犬たちをこっそりと放ち、得た情報を脳内で素早く整理する。
 シュラット侯爵家と王宮で対立している家の者の動きが近頃不穏である、だの。どこぞのクラスの伯爵家の息子がお嬢様に告白するつもりらしい、だの。
 犬たちは日常を脅かしそうな情報を色々と持ってきてくれる。

 さて、どれから潰していこうかな。

 私がそう思いながらお嬢様の体をさらに強く抱きしめると、お嬢様から不満の声が上がった。
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