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もののけ執事とお座敷少女14
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「佐助。芽衣様がお風邪をひかないように、しっかりとお体を温めるのですよ」
「はい、夜音様。きちんとお勤めをさせていただきます」
佐助君はキリリと表情を引き締めつつしっかりとした返事をする。本当に……いいのだろうか。
動物虐待にあたるんじゃないかとか内心ハラハラしてしまうけれど、夜音さんも佐助君もさも当然という顔をしている。『もののけ』たちにとって、これはふつうのことなのかな。
「芽衣様。お風呂の用意ができておりますので、体の芯まで温まってきてくださいませ。冷えは健康の大敵です。それと風呂上がりには水分をちゃんと摂るんですよ。ハーブティーを作って冷蔵庫に入れておりますので、よければそれをお飲みください」
食べ終えた食器を重ねつつで発された夜音さんの言葉に、私は目を丸くした。
いつの間にお風呂やお茶の準備までしてくれていたんだろう。周到というか、なんというか。
……さっとシャワーで済ませて寝るかと思っていたのだけれど、そんな私の思惑は夜音さんには見透かされていたようである。
「聞いていますか、芽衣様」
「は、はい。ありがとうございます」
「佐助は芽衣様の入浴の間に、寝所の支度を整えておきなさい」
「わかりました」
「あとは……」
夜音さんは懐をごそごそと探ると……一匹の栗毛のハムスターを取り出した。なぜ、そんなところにハムスターが。
「貴女は座敷童子の様子を見ていなさい。彼女の目が覚めて湯豆腐を食べられそうであれば、温めて食べさせるように」
ぽんと夜音さんの手から飛んだハムスターは、くるりくるりと空で回転する。
そして畳に降り立つ頃には、栗色の髪と頭から出た小さな耳が愛らしいメイド姿の美幼女になっていた。
「夜音様、承知致しました。芽衣様。わたくしは夜音様の部下をしております、メイドの根津と申します」
美幼女は夜音さんに了承の意を伝えた後に、私に向き直って自己紹介をした。
……ハムスターの女の子は『根津』という名前らしい。
佐助に根津か。まるで真田十勇士みたいだ。残りの八人も居たりするんだろうか。
彼女は大きな茶色の瞳をこちらに向けながら、ぴるぴると小さな耳を震わせた。
「芽衣様、隣の部屋に居ることをお許しくださいませ」
「すごく助かるよ。ありがとう。……根津ちゃん」
呼び捨てというのはどうにもしにくいけれど、幼女に『さん』というのも違う気がする。だけどここまで大人びていると『ちゃん』は嫌かな。そう思いながら根津ちゃんの反応を待っていると……
「では、失礼を」
襖を静かに開けて、彼女は隣の部屋へと消えて行った。嫌がっている様子ではなかったし、呼び方は『ちゃん』でいい……のかな。
座敷ちゃんのことが心配だったので、正直助かるなぁ。
『人』の私では対応が難しいこともあるだろうし。
襖が再び閉じるのを見届けてから、私はお風呂に入る準備をできるだけ物音を立てないようにしながらはじめた。
「はい、夜音様。きちんとお勤めをさせていただきます」
佐助君はキリリと表情を引き締めつつしっかりとした返事をする。本当に……いいのだろうか。
動物虐待にあたるんじゃないかとか内心ハラハラしてしまうけれど、夜音さんも佐助君もさも当然という顔をしている。『もののけ』たちにとって、これはふつうのことなのかな。
「芽衣様。お風呂の用意ができておりますので、体の芯まで温まってきてくださいませ。冷えは健康の大敵です。それと風呂上がりには水分をちゃんと摂るんですよ。ハーブティーを作って冷蔵庫に入れておりますので、よければそれをお飲みください」
食べ終えた食器を重ねつつで発された夜音さんの言葉に、私は目を丸くした。
いつの間にお風呂やお茶の準備までしてくれていたんだろう。周到というか、なんというか。
……さっとシャワーで済ませて寝るかと思っていたのだけれど、そんな私の思惑は夜音さんには見透かされていたようである。
「聞いていますか、芽衣様」
「は、はい。ありがとうございます」
「佐助は芽衣様の入浴の間に、寝所の支度を整えておきなさい」
「わかりました」
「あとは……」
夜音さんは懐をごそごそと探ると……一匹の栗毛のハムスターを取り出した。なぜ、そんなところにハムスターが。
「貴女は座敷童子の様子を見ていなさい。彼女の目が覚めて湯豆腐を食べられそうであれば、温めて食べさせるように」
ぽんと夜音さんの手から飛んだハムスターは、くるりくるりと空で回転する。
そして畳に降り立つ頃には、栗色の髪と頭から出た小さな耳が愛らしいメイド姿の美幼女になっていた。
「夜音様、承知致しました。芽衣様。わたくしは夜音様の部下をしております、メイドの根津と申します」
美幼女は夜音さんに了承の意を伝えた後に、私に向き直って自己紹介をした。
……ハムスターの女の子は『根津』という名前らしい。
佐助に根津か。まるで真田十勇士みたいだ。残りの八人も居たりするんだろうか。
彼女は大きな茶色の瞳をこちらに向けながら、ぴるぴると小さな耳を震わせた。
「芽衣様、隣の部屋に居ることをお許しくださいませ」
「すごく助かるよ。ありがとう。……根津ちゃん」
呼び捨てというのはどうにもしにくいけれど、幼女に『さん』というのも違う気がする。だけどここまで大人びていると『ちゃん』は嫌かな。そう思いながら根津ちゃんの反応を待っていると……
「では、失礼を」
襖を静かに開けて、彼女は隣の部屋へと消えて行った。嫌がっている様子ではなかったし、呼び方は『ちゃん』でいい……のかな。
座敷ちゃんのことが心配だったので、正直助かるなぁ。
『人』の私では対応が難しいこともあるだろうし。
襖が再び閉じるのを見届けてから、私はお風呂に入る準備をできるだけ物音を立てないようにしながらはじめた。
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