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王子は戸惑い怒りを覚える
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ビアンカの頬が薄桃色に染まっている。ちらりと見える白い首筋が吸いつきたくなるくらいに綺麗で、俺は思わずそこから目を逸らしてしまう。
「すまない。……つい夢中に」
謝罪しながらビアンカの白い頬を撫でると彼女は気持ちよさそうに目を閉じた。そしてなにかを決意したかのような表情で目を開き、俺の顔をじっと見つめる。
「わたくし、フィリップ様になら……なにをされてもいいと思っていますわ」
潤んだ瞳で俺の服をぎゅっと掴みながらビアンカは言った。こ、これは……もしかしなくても手を出してもいいという許可なのだろうか。
いや、先走ってビアンカを傷つけるようなことをしてはならない。断じてならないのだ!
「ビ、ビアンカ」
「……フィリップ様?」
「俺は欲望のままに君を傷つけるようなことは……したくないんだ」
頬が熱くなり心臓がドクドクと大きく鼓動を打っている。
ビアンカは俺の手を取ると、その滑らかな頬に当てて悲しげな顔で頬ずりをした。
「わたくしではダメなのですね……」
そ、そうではない! ビアンカの言葉に俺は内心頭を抱えてしまう。
本音を言うと好きな女性には触れたいし欲のままに貪ってしまいたい、それは男として当たり前だ。
だけど触れた結果彼女が傷つき俺から離れていったら……俺はそんなことには耐えられない。
「違うんだ、ビアンカ。俺たちの関係は……ゆっくりと進めたいんだ。俺はもう君の信頼を失いたくない」
俺がそう言うとビアンカはその澄んだ湖面の色の瞳からぽろりと涙を零しながら身を離そうとした。その体を慌てて抱きしめると、腕の中の彼女が嗚咽を漏らしながら泣くのでどうしていいのかわからなくなってしまう。
「やっぱりフィリップ様は……シュミナ嬢のところに行くのだわ」
震える声で彼女がそんなことを呟くので、俺は宥めようと背中をさすった。
「ビアンカ、俺はどこにも行かないから」
「嘘です」
ビアンカから即座に返ってきた言葉に心をナイフで切り裂かれたような気持ちになる。だけど俺には傷つく権利なんてない。
……俺は彼女を、一度は裏切ったのだから。
「ビアンカ、落ち着いてちゃんと話そう」
そう言いながら華奢な背中を撫でてできるだけ優しく彼女の耳元で囁く。だけどビアンカの涙は止まらない。
「……少し、我慢してくれ」
そう断って俺は彼女の体を横抱きで抱き上げた。
抱き上げた彼女の体は想像していた以上に軽い。ちゃんと食事は取っているのだろうか、そんなことが心配になってしまう。
「フィ、フィリップ様!?」
ビアンカが真っ赤になり俺の名前を呼ぶ。うろたえる表情まで彼女は愛らしい。愛おしさが込み上げ額に数度キスをすると、彼女は頬を淡い赤に染めた。
俺は庭園にあるベンチまでビアンカを運び抱えたままで腰を下ろした。
「ビアンカ」
名前を呼びながらまた額に口づけると、彼女はくすぐったそうな顔をする。頬に、唇に。顔中にキスを落とす。そうしているうちにビアンカの表情が幸せそうな蕩けたものになる。
そんな彼女の表情を見ていると俺の心にも安堵が広がった。
「愛してる、ビアンカ」
そう言いながら唇に長く口づけて彼女を見つめる。するとビアンカは恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべた後に、俺の胸に顔を埋めてしまった。
「わ、わたくしもです。愛しております、フィリップ様」
消え入るような声で彼女は言った。ああ……彼女からの愛の言葉はなんて甘美な響きなのだろう。
「君との関係は、その。性急な形ではなく六年間の溝をちゃんと埋めた上で進めたいと思っている。君を大事にしたいんだ」
言葉選びを間違えないように慎重に言葉を紡ぐ。それを聞いたビアンカはその綺麗な形の眉を悲しそうに下げた。
「でも、わたくしは……フィリップ様に愛されているという証が欲しいのです」
そう言うと彼女は、また涙を零した。
……これは、どうすればいいのだろうな。ビアンカの美しい涙を唇で拭いながら俺は思案する。
彼女の発言は愛情が高じて……ではなく不安から出ているように思える。愛し合うためではなく彼女の不安を解消するために抱くのは、それが良い結果を招くとは俺には思えない。
まずは彼女に根付いた不安や俺への不信感を取り除いた上で、幸福な結末を俺は彼女と迎えたいのだ。
「……シュミナ嬢にはもう触れたのだと……。お聞きしました」
小さくビアンカから発せられた言葉に俺の目は丸くなる。シュミナには確かに過去に心を奪われたが、その気持ちを伝えることすら俺はしていない。
「シュミナには、気持ちすら伝えていなかったのだが。それで彼女に触れるなどということが、起きるわけがないだろう」
例え彼女に気持ちを伝えていたとしても、触れることはしなかっただろう。
俺は王太子だ。シュミナに手を付け孕ませでもしたら、それが要らぬ火種を王宮に招くことくらい理解している。それこそ彼女を王妃として迎える準備ができない限りは、そのような接触をするつもりは毛頭なかった。
……そして今は、そんな気持ちは霧散しどこにもない。
俺はもう、目の前の少女にしか触れたくないのだ。
俺の言葉にビアンカは大きな瞳から涙を零しながら目を丸くする。
「あれ……。でも、シュミナ嬢が」
「シュミナがなにか言ったのか? ビアンカ、聞かせてくれないか」
ビアンカの目を見つめ俺が促すと、ビアンカは恐る恐る昨日あった出来事を教えてくれた。
……その内容は、俺の怒りを激しく煽るに十分な内容だった。
「すまない。……つい夢中に」
謝罪しながらビアンカの白い頬を撫でると彼女は気持ちよさそうに目を閉じた。そしてなにかを決意したかのような表情で目を開き、俺の顔をじっと見つめる。
「わたくし、フィリップ様になら……なにをされてもいいと思っていますわ」
潤んだ瞳で俺の服をぎゅっと掴みながらビアンカは言った。こ、これは……もしかしなくても手を出してもいいという許可なのだろうか。
いや、先走ってビアンカを傷つけるようなことをしてはならない。断じてならないのだ!
「ビ、ビアンカ」
「……フィリップ様?」
「俺は欲望のままに君を傷つけるようなことは……したくないんだ」
頬が熱くなり心臓がドクドクと大きく鼓動を打っている。
ビアンカは俺の手を取ると、その滑らかな頬に当てて悲しげな顔で頬ずりをした。
「わたくしではダメなのですね……」
そ、そうではない! ビアンカの言葉に俺は内心頭を抱えてしまう。
本音を言うと好きな女性には触れたいし欲のままに貪ってしまいたい、それは男として当たり前だ。
だけど触れた結果彼女が傷つき俺から離れていったら……俺はそんなことには耐えられない。
「違うんだ、ビアンカ。俺たちの関係は……ゆっくりと進めたいんだ。俺はもう君の信頼を失いたくない」
俺がそう言うとビアンカはその澄んだ湖面の色の瞳からぽろりと涙を零しながら身を離そうとした。その体を慌てて抱きしめると、腕の中の彼女が嗚咽を漏らしながら泣くのでどうしていいのかわからなくなってしまう。
「やっぱりフィリップ様は……シュミナ嬢のところに行くのだわ」
震える声で彼女がそんなことを呟くので、俺は宥めようと背中をさすった。
「ビアンカ、俺はどこにも行かないから」
「嘘です」
ビアンカから即座に返ってきた言葉に心をナイフで切り裂かれたような気持ちになる。だけど俺には傷つく権利なんてない。
……俺は彼女を、一度は裏切ったのだから。
「ビアンカ、落ち着いてちゃんと話そう」
そう言いながら華奢な背中を撫でてできるだけ優しく彼女の耳元で囁く。だけどビアンカの涙は止まらない。
「……少し、我慢してくれ」
そう断って俺は彼女の体を横抱きで抱き上げた。
抱き上げた彼女の体は想像していた以上に軽い。ちゃんと食事は取っているのだろうか、そんなことが心配になってしまう。
「フィ、フィリップ様!?」
ビアンカが真っ赤になり俺の名前を呼ぶ。うろたえる表情まで彼女は愛らしい。愛おしさが込み上げ額に数度キスをすると、彼女は頬を淡い赤に染めた。
俺は庭園にあるベンチまでビアンカを運び抱えたままで腰を下ろした。
「ビアンカ」
名前を呼びながらまた額に口づけると、彼女はくすぐったそうな顔をする。頬に、唇に。顔中にキスを落とす。そうしているうちにビアンカの表情が幸せそうな蕩けたものになる。
そんな彼女の表情を見ていると俺の心にも安堵が広がった。
「愛してる、ビアンカ」
そう言いながら唇に長く口づけて彼女を見つめる。するとビアンカは恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべた後に、俺の胸に顔を埋めてしまった。
「わ、わたくしもです。愛しております、フィリップ様」
消え入るような声で彼女は言った。ああ……彼女からの愛の言葉はなんて甘美な響きなのだろう。
「君との関係は、その。性急な形ではなく六年間の溝をちゃんと埋めた上で進めたいと思っている。君を大事にしたいんだ」
言葉選びを間違えないように慎重に言葉を紡ぐ。それを聞いたビアンカはその綺麗な形の眉を悲しそうに下げた。
「でも、わたくしは……フィリップ様に愛されているという証が欲しいのです」
そう言うと彼女は、また涙を零した。
……これは、どうすればいいのだろうな。ビアンカの美しい涙を唇で拭いながら俺は思案する。
彼女の発言は愛情が高じて……ではなく不安から出ているように思える。愛し合うためではなく彼女の不安を解消するために抱くのは、それが良い結果を招くとは俺には思えない。
まずは彼女に根付いた不安や俺への不信感を取り除いた上で、幸福な結末を俺は彼女と迎えたいのだ。
「……シュミナ嬢にはもう触れたのだと……。お聞きしました」
小さくビアンカから発せられた言葉に俺の目は丸くなる。シュミナには確かに過去に心を奪われたが、その気持ちを伝えることすら俺はしていない。
「シュミナには、気持ちすら伝えていなかったのだが。それで彼女に触れるなどということが、起きるわけがないだろう」
例え彼女に気持ちを伝えていたとしても、触れることはしなかっただろう。
俺は王太子だ。シュミナに手を付け孕ませでもしたら、それが要らぬ火種を王宮に招くことくらい理解している。それこそ彼女を王妃として迎える準備ができない限りは、そのような接触をするつもりは毛頭なかった。
……そして今は、そんな気持ちは霧散しどこにもない。
俺はもう、目の前の少女にしか触れたくないのだ。
俺の言葉にビアンカは大きな瞳から涙を零しながら目を丸くする。
「あれ……。でも、シュミナ嬢が」
「シュミナがなにか言ったのか? ビアンカ、聞かせてくれないか」
ビアンカの目を見つめ俺が促すと、ビアンカは恐る恐る昨日あった出来事を教えてくれた。
……その内容は、俺の怒りを激しく煽るに十分な内容だった。
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