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王子は覚悟を決める
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ビアンカから昨日起きたことを聞いて俺は激しい後悔に囚われた。
なぜ、俺はシュミナの本性に気づくことができなかったのか。
思い返すと苦悩している時『なぜか』適切なタイミングに適切な言葉をかけてくるシュミナに俺は甘え、目が眩んでいただろう。
隠していた本性には気づきもせずに偽りの美酒に酔っていただなんて……我ながら節穴としか言いようがない。
腕に抱いたビアンカは不安げな顔でこちらを見上げている。少し怖い顔になっていたかもしれないな。
額にキスをして強く抱きしめるとビアンカはまた湖面の色の瞳から涙を零した。
「ビアンカ、体は大丈夫なのか?」
「ええ、女性の力なので大したことはありませんわ」
「そうか……。俺のせいだ、本当にすまない」
階段からビアンカが落ちていたら……そのことを考えると本当にぞっとする。一歩間違えば彼女を失っていたかもしれない。
――あの女は、排除しなければ。
一度は好いた女だが……愛おしい婚約者に手を出した報いは受けてもらわねばならない。
残っていたシュミナへの申し訳ないという気持ちはどこかへ消し飛び、心には黒い炎が灯る。
「あの、フィリップ様。本当に……シュミナ嬢には触れていないのですわね?」
ビアンカがおずおずと訊ねてくる。その訊ねる声は震えていてとても痛々しい。
「ああ、触れてなどいない。そして俺は一生君にしか触れるつもりはない、信じてくれないか?」
我ながら乞うようなみじめな声音だと思う。きっと表情もノエルが見たら大笑いしそうな情けないものになっているだろうな。
ビアンカは俺の頬に小さな手を添え……噛みつくように唇を重ねた。
思いもしなかった彼女からの口づけに驚愕し体を硬直させてしまう。ビアンカはそんな俺をその大きな瞳で見つめると、覚悟を決めたような表情になった。
「では抱いてくださいフィリップ様。わたくしのことを一生側に置き捨てる気がないのであれば、孕んでも問題ありませんわよね」
そう言いながら彼女がドレスに結ばれたリボンを解く。ドレスの前がふわりと開きコルセットに包まれたささやかな胸が姿を現した。
それを見て……俺の頭は真っ白になる。
「ビ……ビアンカ!? だからそれはまだ早いと……!!」
「ではいつまで待てばよいのですか。またわたくしに六年待てと? 気持ちの溝が埋まるのを待っている間に、また貴方の心が移ろわない保証なんてありませんのに!」
ドレスの前はすっかり開かれ、白い手が肩からはらりと布地を落とす。華奢で細い肩が現れ、その肌は驚くほどに白く美しい。その肩に繊細な質感の銀糸の髪が落ちさらさらと胸へ流れていく。
「わたくしはもう待つことにはうんざりなのです。一時の気まぐれではないと……わたくしを愛していると証明してくださいませ、フィリップ様」
以前の苛烈なビアンカはもうどこかに消えたものかと思っていた。
――けれど目の前にいるのは激しい愛にその身を焦がす苛烈で……とても美しい月だった。
そっと無防備な首筋に触れる。その肌は温かくそして小さく震えている。
ビアンカの目は強い力でこちらを見つめているが、その瞳は不安や恐れの感情を隠せず涙で潤んでいた。
「フィリップ様、お願い。もう不安にさせないで……わたくしを捨てないで」
水面が揺れるようにビアンカの瞳が揺らめき、透明な雫が溢れた。
「ビアンカ……」
抱きしめると柔らかな体が腕の中で震え、縋りつくように背中に小さな手が回る。
そっと口づけると彼女は銀色の睫毛を震わせ目を閉じた。何度も唇を触れ合わせながら少しずつ口づけを深いものにしていくとビアンカの頬は上気し熱い吐息が漏れた。
唇を離し指で軽く顎を上げて彼女の顔を見つめる。欲望に蕩けたビアンカの顔は……とても綺麗だ。
「酷くして傷つけてしまうかもしれない。君に……嫌われないだろうか」
「まだそんなことをおっしゃっていますのね」
往生際が悪い俺の言葉に、彼女は頬を膨らませた。
「六年つれなくされてもフィリップ様のことが好きなままでしたのよ? なにをされても嫌いになんてなりませんわ。……してくれない方が、嫌いになります」
……それは、困るな。うん。
しない方が嫌いになる、か。六年の溝を埋めようとしていたつもりで、俺は逆に溝を深めようとしていたらしい。
「わかった。今から……君を抱く」
ビアンカの乱れた衣服を整え、細い体を抱き上げる。
そしてそのまま薔薇園を抜け王宮の廊下を足早に歩く。なにか言いたげな騎士や文官の視線を無視し、俺は私室へと向かった。
「フィ……フィリップ様……!」
「どうした? ビアンカ」
「あの、あの。別に庭園でも……っ」
「初めてが外というのも情緒がないだろう。せっかく、俺とビアンカの記念すべき日なのだしな。俺の私室でたっぷり愛し合おう」
言いながら頬に口づけすると、ビアンカは『ああ……』と小さく声を上げて恥ずかしそうに顔を覆ってしまう。
「ですが、こんな姿を多くの人に見られたら妙な噂に……」
「そうだな、妙な噂が立つ前に婚姻しよう。式は卒業後がいいだろうが、書面の上だけでも結ばれた後すぐにでも済ませてしまうか」
「フィリップ様……!」
どうせ婚姻するのだから数年前倒しになっても不都合はないだろう。父上と母上も怒るまい。
「三日間この部屋は人払いしろ。箝口令も敷け。シュラット侯爵家にも使いを出しておくように」
俺が私室の前にいる騎士にそう声をかけるとビアンカは真っ赤になって俺の胸をポカポカと叩き始めた。
「三日!? フィ、フィリップ様は、極端から極端すぎなのです……!!」
……どうして怒るんだろうな。怒っているビアンカも可愛いからよいのだが。
「……君がもう不安になる隙がないくらい、愛し合おう」
耳朶を軽く食んで囁くとビアンカはさらに真っ赤になり口をパクパクとさせた。
なぜ、俺はシュミナの本性に気づくことができなかったのか。
思い返すと苦悩している時『なぜか』適切なタイミングに適切な言葉をかけてくるシュミナに俺は甘え、目が眩んでいただろう。
隠していた本性には気づきもせずに偽りの美酒に酔っていただなんて……我ながら節穴としか言いようがない。
腕に抱いたビアンカは不安げな顔でこちらを見上げている。少し怖い顔になっていたかもしれないな。
額にキスをして強く抱きしめるとビアンカはまた湖面の色の瞳から涙を零した。
「ビアンカ、体は大丈夫なのか?」
「ええ、女性の力なので大したことはありませんわ」
「そうか……。俺のせいだ、本当にすまない」
階段からビアンカが落ちていたら……そのことを考えると本当にぞっとする。一歩間違えば彼女を失っていたかもしれない。
――あの女は、排除しなければ。
一度は好いた女だが……愛おしい婚約者に手を出した報いは受けてもらわねばならない。
残っていたシュミナへの申し訳ないという気持ちはどこかへ消し飛び、心には黒い炎が灯る。
「あの、フィリップ様。本当に……シュミナ嬢には触れていないのですわね?」
ビアンカがおずおずと訊ねてくる。その訊ねる声は震えていてとても痛々しい。
「ああ、触れてなどいない。そして俺は一生君にしか触れるつもりはない、信じてくれないか?」
我ながら乞うようなみじめな声音だと思う。きっと表情もノエルが見たら大笑いしそうな情けないものになっているだろうな。
ビアンカは俺の頬に小さな手を添え……噛みつくように唇を重ねた。
思いもしなかった彼女からの口づけに驚愕し体を硬直させてしまう。ビアンカはそんな俺をその大きな瞳で見つめると、覚悟を決めたような表情になった。
「では抱いてくださいフィリップ様。わたくしのことを一生側に置き捨てる気がないのであれば、孕んでも問題ありませんわよね」
そう言いながら彼女がドレスに結ばれたリボンを解く。ドレスの前がふわりと開きコルセットに包まれたささやかな胸が姿を現した。
それを見て……俺の頭は真っ白になる。
「ビ……ビアンカ!? だからそれはまだ早いと……!!」
「ではいつまで待てばよいのですか。またわたくしに六年待てと? 気持ちの溝が埋まるのを待っている間に、また貴方の心が移ろわない保証なんてありませんのに!」
ドレスの前はすっかり開かれ、白い手が肩からはらりと布地を落とす。華奢で細い肩が現れ、その肌は驚くほどに白く美しい。その肩に繊細な質感の銀糸の髪が落ちさらさらと胸へ流れていく。
「わたくしはもう待つことにはうんざりなのです。一時の気まぐれではないと……わたくしを愛していると証明してくださいませ、フィリップ様」
以前の苛烈なビアンカはもうどこかに消えたものかと思っていた。
――けれど目の前にいるのは激しい愛にその身を焦がす苛烈で……とても美しい月だった。
そっと無防備な首筋に触れる。その肌は温かくそして小さく震えている。
ビアンカの目は強い力でこちらを見つめているが、その瞳は不安や恐れの感情を隠せず涙で潤んでいた。
「フィリップ様、お願い。もう不安にさせないで……わたくしを捨てないで」
水面が揺れるようにビアンカの瞳が揺らめき、透明な雫が溢れた。
「ビアンカ……」
抱きしめると柔らかな体が腕の中で震え、縋りつくように背中に小さな手が回る。
そっと口づけると彼女は銀色の睫毛を震わせ目を閉じた。何度も唇を触れ合わせながら少しずつ口づけを深いものにしていくとビアンカの頬は上気し熱い吐息が漏れた。
唇を離し指で軽く顎を上げて彼女の顔を見つめる。欲望に蕩けたビアンカの顔は……とても綺麗だ。
「酷くして傷つけてしまうかもしれない。君に……嫌われないだろうか」
「まだそんなことをおっしゃっていますのね」
往生際が悪い俺の言葉に、彼女は頬を膨らませた。
「六年つれなくされてもフィリップ様のことが好きなままでしたのよ? なにをされても嫌いになんてなりませんわ。……してくれない方が、嫌いになります」
……それは、困るな。うん。
しない方が嫌いになる、か。六年の溝を埋めようとしていたつもりで、俺は逆に溝を深めようとしていたらしい。
「わかった。今から……君を抱く」
ビアンカの乱れた衣服を整え、細い体を抱き上げる。
そしてそのまま薔薇園を抜け王宮の廊下を足早に歩く。なにか言いたげな騎士や文官の視線を無視し、俺は私室へと向かった。
「フィ……フィリップ様……!」
「どうした? ビアンカ」
「あの、あの。別に庭園でも……っ」
「初めてが外というのも情緒がないだろう。せっかく、俺とビアンカの記念すべき日なのだしな。俺の私室でたっぷり愛し合おう」
言いながら頬に口づけすると、ビアンカは『ああ……』と小さく声を上げて恥ずかしそうに顔を覆ってしまう。
「ですが、こんな姿を多くの人に見られたら妙な噂に……」
「そうだな、妙な噂が立つ前に婚姻しよう。式は卒業後がいいだろうが、書面の上だけでも結ばれた後すぐにでも済ませてしまうか」
「フィリップ様……!」
どうせ婚姻するのだから数年前倒しになっても不都合はないだろう。父上と母上も怒るまい。
「三日間この部屋は人払いしろ。箝口令も敷け。シュラット侯爵家にも使いを出しておくように」
俺が私室の前にいる騎士にそう声をかけるとビアンカは真っ赤になって俺の胸をポカポカと叩き始めた。
「三日!? フィ、フィリップ様は、極端から極端すぎなのです……!!」
……どうして怒るんだろうな。怒っているビアンカも可愛いからよいのだが。
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