異世界で姪が勇者になったけれど、俺はのんびり料理屋を開く

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
33 / 57

未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~9

しおりを挟む
 甘めに味付けたアナグマ肉のコンソメ煮を作り終えてから、コンソメをベースにして塩と胡椒で味付けしたシンプルなうどんスープを作成する。
 そして寝かせているうどん生地の様子を見に行くと、寝かせはじゅうぶんのようだった。
 ──さて、今度はのしていくか。
 のし板なんてものはないので大きめのまな板に打ち粉を振って生地を置き、さらに生地にも打ち粉を振る。俺の周囲には『異世界料理』に興味津々という顔の料理人たちの人垣が出来、その中にはアリリオ殿下とパルメダさんの姿もあった。

「よっ……と」

 寝かせた生地を両手で押し、広げ。そして畳む。
 綿棒を生地の上でころころと転がし、生地を薄く広げていく。生地を満足のいく薄さに伸ばし終ったら今度はそれを丁寧に畳み、あとはよい感じの細さに切ったら麺の完成である。

「椛音。今日は太麺と細麺どっちがいい?」
「お腹が空いてるから、食べ応えのある太麺がいい!」

 椛音に訊ねると、元気のいい答えが返ってくる。
 ふむ、濃厚な味わいのオボロアナグマの肉とは太麺の方が相性がいいかもしれないな。

「わかった。椛音の口に合う美味いうどんを作ってやるから待ってろよ」

 にやりと笑ってみせつつそう言ってから、俺は生地に包丁を入れた。そしてトントンというリズミカルな音を立てつつ、椛音好みの太麺になるよう生地を刻んでいく。そうしながら、そろそろお湯を沸かしておくかと思い立つ。

「アリリオ殿下、大鍋にお湯を沸かしてもらっていいですか?」
「なぜ、僕が」

 殿下に手伝いを頼めば、彼は思い切り顔を顰める。その隣で、パルメダさんはぷっと小さく吹き出した。

「ふふ。殿下に手伝いを頼むなんて怖いもの知らずですねぇ」

 パルメダさんがそう言いながらくすくすと笑う。
 アリリオ殿下が『いい子』なのがわかっているのでついつい頼んでしまったが、冷静に考えると王族にあれこれ頼むのはよろしくないな。

「魔法が得意な殿下に頼めば一瞬で沸騰したお湯ができるかなぁと思ったもので、つい。申し訳ありません、自分で準備します」
「やらないとは言っていないだろう」
 
 アリリオ殿下はため息をつきつつ言うと、料理人がさっと用意した大鍋に手を翳す。そして、小さくなにかを呟いた。すると瞬きをする程度の時間で、鍋は熱湯で満たされた。

「すごい、一瞬だ」
「当然だ。僕は天才だからな」

 何度見ても魔法というものは不思議な存在だ。俺は思わず声を漏らしてしまう。するとアリリオ殿下は小さく鼻を鳴らしながら、胸を張った。熱湯で満たされた鍋は、料理人がコンロに移動し火をつけ保温をしてくれた。

「ありがとうございます、アリリオ殿下」
「……これくらい、礼などいらん」

 アリリオ殿下はそう言うと、ぷいと横を向いてしまう。
 そんな殿下を目にしたパルメダさんと料理人たちは、孫を見るような顔で頰を緩めた。

「叔父さん、生地を切る手が止まってるよ~」
「ああ、すまんすまん」

 椛音に言われて、俺は慌てて手を動かす。
 長い同居生活で椛音の好みは完璧と言っていいくらいに把握している。椛音と暮らすようになってから、俺の料理は客に出すための料理から椛音のための料理になった。この可愛い姉の忘れ形見が喜ぶようにと、そればかりを考えていた。

 ──この姪が喜ぶ料理を作らせたら、俺はたぶん世界一の腕前だ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...