異世界で姪が勇者になったけれど、俺はのんびり料理屋を開く

夕日(夕日凪)

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未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~11

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 なにはともあれ、飯である。
 厨房にある長テーブルにうどんを運んで、食べる皆で腰を下ろす。
 スープと肉のいい香りが鼻腔をくすぐり、食欲が激しく刺激される。

「ショウ殿。ご相伴に与ります!」
「本当に、ありがとうございます!」
「まさか、あのアボロアナグマが食べられるなんて……」
「ああ、今年の運を使い果たしたな……。しかし、悔いはない」
「異世界料理を食べる機会に恵まれるなんてなぁ」

 くじ引きで肉うどんが当たった料理人五人は、興奮した様子で口々に言う。いつもは険しい顔をして料理と向き合っている男たちが目を輝かせているその様子は、少しばかり微笑ましい。
 リズベスさんも彼らの隣に腰を下ろし、今か今かとうどんを食すタイミングを計らっている。そわそわと待ち切れない様子で可愛いな。

「どうぞ、食べてください」
「はいっ!」

 うどんを勧めると彼らは元気に返事をしてから、早口で食前のお祈りをしはじめた。
 前にパルメダさんも高速で祈ってたけど……こういうお祈りって短縮していいんだな。

「いただきます」
「いただきます!」

 俺がパンと手を合わせて言えば、隣に座る椛音も手を合わせつつ勢いよく言う。
 ──椛音の手のひら同士が触れ合った瞬間。
 風圧を感じたのは、気のせいではない。視線をやると椛音の皿がぶわっと浮き上がりそうになっていたので、俺は慌てて彼女の前から皿をよける。
 椛音の勇者としての能力は『腕力』特化らしい。こののほほんとしたタヌキ顔からは想像ができないが、そのへんの騎士が何十人束になっても椛音には敵わないのだとか。ある程度までの魔法も、その力でねじ伏せてしまえるようだ。

「椛音、気をつけてくれ。……お前が力を入れると皿が割れそうだな」
「大丈夫だよ。三十枚くらい割って、力加減はもう掴んだから」
「……すでに割ってたのか。怪我はしなかったか?」
「してないよ? なんか体も丈夫になってるみたいだから。アリリオ、分けっこしよ~」

 怪我をしなかったのはいいことなんだが、割れた皿で傷つかない体ってどんなだよ。
 姪はこれから、どんな『勇者』になっていくのだろう。
 アリリオ殿下の皿に麺を移す椛音を眺めながら、ぼんやりと考える。
 案外凛々しく成長したりするのだろうか。……うーん、それはないか。
 これから先椛音がどんな稀有な能力を手にしたとしても、この呑気なタヌキ顔が変わるような気がしない。
 いや、これは可愛い姪のままでいてほしいという俺の願望なのかもしれないな。
 ……どんなふうになっても、椛音は椛音か。
 そう結論づけてから、麺をフォークで巻取り肉と一緒に口に入れて──俺は目を瞠った。

「う、うまっ」

 舌の上で蕩ける濃い味わいのオボロアナグマの肉。太くコシの強い麺に絡む、程よい肉の脂。旨味が溶け込んだスープの、これ以上にないくらいのバランスのよい味の仕上がり。これは、なかなかのものだ……!
 周囲をちらりと見れば、皆も無心にうどんを食べている。
 
「はぁ、これは……。すごい、蕩けますっ……!」

 リズベスさんが感想の言葉と同時にほうと深い息を吐く。その額には珠のような汗が浮かんでおり、張りのある白い頰は淡く紅潮している。
 ……綺麗な形の顎を伝う汗を目にして、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。俺だって、男の子だし。うん。

「本当に美味いな。この異世界の麺もいい。弾力があって、肉とよく合う」

 額に浮かぶ汗をハンカチで上品に拭いながら、アリリオ殿下が呟く。殿下にも満足いただけたようでよかったな。

「でしょ! 叔父さんの料理はね、世界一優しい味でとっても美味しいんだよ!」

 ぺろりと『半分こ』の肉うどんを平らげた椛音が、ぱっと花が咲いたような笑顔で言う。……嬉しくなることを言われて、目頭がちょっと熱くなってしまった。
 うどんを食べ終えた俺は食事が半分こになった椛音とアリリオ殿下、そして恨みがましい顔でこちらを見ているパルメダさんのために追加の料理を作った。
 振る舞ったのは、オボロアナグマの肉のミンチと野菜を入れたミートオムレツだ。
 ……うどんにありつけていない料理人たちの視線に負けて、皆の分まで作ることになったのは御愛嬌である。

「ところで、ショウ。話があるから、あとで俺の執務室に来てくれ」

 食器を片づけ伸びをしていると、アリリオ殿下からそんなふうに声をかけられた。

「話……ですか?」
「ああ、そうだ。店の件でちょっとな」

『ちょっとな』の声音は少しばかり意味深なものだ。これはきっと、俺のスキルの件の話もあるんだろうな……。
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