上 下
58 / 67

58・偽装

しおりを挟む
 墓は同じ街の霊園にあった。
 ブラインド レディとトミオカ氏、メイドの三人は家族の墓を見付ける。
「画家の方は何の変哲もない墓でしたが、家族の方は霊廟と行った方がいいですね」
 トミオカ氏の感想通り、肖像画に描かれた家族の墓は、小さな小屋ほどの大きさの、霊廟だった。
 扉を開けて中に入ると、骨壺が置いてあり、その周りには日本人形などが置かれていた。
「死者への供物か」
 トミオカ氏が美術品鑑定士として、そういったものへ興味があった。
 そこにメイドが怪訝な声を上げる。
「お嬢さま、骨壺が四つしかありません」
 四つ。
 確かに一つ足りない。
 家族は五人のはず。
 ブラインド レディは告げる。
「妻と娘の骨壺だけ。父親は埋葬されていない。
 父親は、親族のところに逃げ込んで 自殺したとされているけれど、それは偽装ね。父親はまだ生きている」


 企業の諜報部に連絡して、市役所の死亡届のデータをハッキングして入手した。
 確かに父親の死亡届は出されていない。
 そして親族の周辺を探ったところ、高級介護施設を突き止めた。
 それは隣街にあった。


 担当の介護士が話をする。
「彼は もう何年も意識不明のままだ。ここが ちょっとした病院並みの設備があったから延命できたが、普通の介護施設なら もうとっくに亡くなっていただろう。
 だが、それももうすぐ限界だ。今、医師が診ているが、ちゃんと病院に移すかどうか 検討している」
 そこに、別の介護士がやってきた。
「容体が急変しました。危篤状態です」
「ちょっと見てきます」
 介護士は父親の所へ行った。
 ブラインド レディたちは しばらく待っていることに。
 そして二時間が過ぎた頃、介護士がやってきた。
「残念ながら、医師が死亡宣告をしました」


 介護施設を出て、トミオカ氏はブラインド レディに訊く。
「これで事件は解決したんですか?」
「念の為、肖像画を確認しましょう」


 昨夜の殺人現場に到着した。
 メイドが外で待機して、ブラインド レディとトミオカ氏が中に入る。
 被害者の遺体はすでに親族が引き取った後だが、おびただしい血痕が生々しい。
 そしてトミオカ氏は肖像画を見て愕然とした。
「これは どういうことだ?」
 父親が手を離し正面を向いている。
 そして左下の少女の姿が、肖像画から消えていた。
 確かに左端には三人目の少女の姿が描かれていたはずなのに、なにも描かれていないのだ。


 バタンッ!バタンッ!バタンッ!
 突然 家中の玄関や窓がしまり 鍵がかかった。
 二人が家に閉じ込められる。
「なんだ!? なにが起きている!?」
 ブラインド レディは白杖を刀に変えた。
「あまり声を上げないで」
 そこに 肖像画から白い霧のようなものが漂い始めた。
 それは人の形となり、大きなカミソリを手にした少女となる。
 少女はニタリと笑う。
 だが その姿は半透明で実態がなかった。
 ブラインド レディは異能力の正体を見抜く。
「能力者はすでに死んでいた。異能力だけが肖像画に取り憑いていたのね」
「こんなものどうやって倒せばいいんだ!?」
「肖像画は燃やしても再生する。力の源は別にあるわ」
「力の源って……あっ! もしかして!」
「なにか気付いたの?」
「霊廟にあった日本人形。あれがそうかもしれません。
 死者の供物に捧げる人形には、亡くなった本人の亡骸を利用されることもある。例えば髪など」
 ブラインド レディはすぐに外のメイドに連絡を取る。
 ワンコールでメイドがスマホに出た。
「お嬢さま! ご無事ですか!?」
「聞いて。今から霊廟に行って、日本人形を、いいえ、供えられたものは全て燃やしなさい。それが異能力の源泉よ」
「お供え物が異能力の……わかりました。直ちに向かいます」
 メイドは通話を着ると、リムジンを走らせた。
 ブラインド レディはカミソリを手にした少女と対峙する。


「さて、彼女が燃やすまで、時間稼ぎをしないといけないのだけれど」
 少女を斬り付けたが、霧散する。
 そして 再び少女の姿となる。
 その少女が カミソリの刃を煌めかせる。
 ブラインド レディは刀で受け止める。
「カミソリは実体を持っている。厄介ね」
 不意に椅子が宙を飛んで攻撃してきた。
 ブラインド レディは刀で切断。
 だが椅子だけではなく、家中の家具が宙を飛び始めた。
 ブラインド レディはそれらを迎撃して回り、トミオカ氏はひたすら逃げ回っていた。


 そして メイドは リムジンを走らせ 霊園に到着した。
 オイルとマッチを手に走り、霊廟に入ると、日本人形を始めとする供物を、外に放り投げるようにして 一ヶ所に集めた。
 そして オイルを撒き、マッチで火をつけようとする。
 だが、こんな時に限ってなかなかマッチの火が付かない。
「もう! どうしてこんな時に!」
 何度もやって、火が付いた。
「やった!」
 日本人形などの供物が一斉に燃え上がり始め、そして 一分もしないうちに全て燃え尽きたのだった。
「……お嬢さま。お嬢さまはどうなったの?」
 メイドはスマホでブラインド レディに連絡を取った。
 ワンコールで応答した。
「ありがとう。間に合ったわ」
「よかった」



 その後、ホテルで例の少女について調査した。
「あの少女は実子ではなく、養女よ。友人の子供を引き取ったそう。
 そして その理由が、あの子の家族が何者かに全員 殺されたから。喉を掻き切られたのが死因。
 そして犯人は見つかっていない」
 トミオカ氏は察した。
「つまり、あの少女が犯人。
 父親が犯人にされた家族の殺害も、真犯人はあの少女」
 そして疑問に思う。
「でも、どうしてでしょう? なぜ無邪気な子供が殺人などするのか?」
「それに関しては永遠に謎ね。可能性としては、生まれつき重度のサイコパスだったとしか考えられないけれど、今となっては突き止めることはできない」
 トミオカ氏はそれでブラインド レディと別れを告げることにした。
「もしまた、呪われた美術品などの噂があったら、連絡します」


 これが トミオカ氏から取材した事件の内容だった。
 世界中に呪われた品という物は存在するが、もしかするとその正体は能力者が異能力を付与させたものなのかもしれない。
 そうなると、世界中の呪われた品は、本物ということになる。
 果たして真相は……
しおりを挟む

処理中です...