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第1話
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物心ついたときから、ぼくはスラム地区で暮らしていました。
パンやリンゴといった食事を食べられれば最善で、あとはゴミをあさるか、広場へ行き誰かが捨てようとした軽食の残飯をもらう日々。
だから、もう、みんな目が濁ってしまいます。腐ってしまいます。
そのうちに、盗みを働いてしまいます。
行きていくには仕方のないことだから。
それでもぼくは、盗みを犯しませんでした。
ちょっとずつ……ちょっとずつでいいから、バカにされようと、お金を恵んでもらい、ドブさらいをして、お手伝いをして、必死にお金をためて、ある日、ついに、冒険者ギルドに登録するだけの銅貨をためました。
ギルドに登録さえできれば、戦うことはできなくても、常時受けているという薬草などの植物を採集してお金に替えたり、配達や店番、ドブさらい以外の掃除をしたり、そういった、ぼくでもできる仕事を引き受けることができるからです。
「ここが冒険者ギルド……」
もう、何度も建物の前を通り、案内板の文字は読めないから、親切そうな人に登録の仕方、かかる費用などを聞いていましたが、中に入るのは初めてです。
胸がドキドキします……。
――カランコロン。
扉を開けて中に入ると、ドアベルが鳴りました。
一瞬、内側の喧騒が静まり返り、みんなの視線がぼくの方を向きますが、すぐにまたワイワイ騒ぎ始めました。
体の大きな男性に、緑の衣装を着た耳の尖ったエルフ、ひげもじゃのドワーフなんかも椅子に座ってエールをあおっています。
もう、誰もぼくのことなんて気にしていません。
スラムとはまた違ったゴチャゴチャ感や、独特の匂いは、今までぼくが嗅いだことのないものでした。
ここから新しい世界が始まるんだ。
以前、親切な人に教わった通り、真っ直ぐカウンターへ向かいます。
受付にいる若いお姉さん――冒険者ギルドの制服が目印だと聞いています――に声をかけました。
「あ、あの……」
近くで見上げたとき、一瞬スゴい寝癖かと思ってしまいました。
頭の天辺を盛ったような、スラムでは見たことがない複雑で、ボリュームのある髪型をしていたからです。
とはいえ、これまでのぼくの一生の中で、深く関わったことがない、見栄えがいいメイクに、身だしなみを整えた若い女の人を前にして、ぼくはドギマギしてしまいました。
ですが、受付嬢のお姉さんは聞こえていないのか、こちらを見向きもしません。
「あの!」
「……」
「あのう!」
「…………」
「聞こえてますか!」
「……はぁ……なんですか、依頼でしたら隣のカウンターに並んでくださーい」
パンやリンゴといった食事を食べられれば最善で、あとはゴミをあさるか、広場へ行き誰かが捨てようとした軽食の残飯をもらう日々。
だから、もう、みんな目が濁ってしまいます。腐ってしまいます。
そのうちに、盗みを働いてしまいます。
行きていくには仕方のないことだから。
それでもぼくは、盗みを犯しませんでした。
ちょっとずつ……ちょっとずつでいいから、バカにされようと、お金を恵んでもらい、ドブさらいをして、お手伝いをして、必死にお金をためて、ある日、ついに、冒険者ギルドに登録するだけの銅貨をためました。
ギルドに登録さえできれば、戦うことはできなくても、常時受けているという薬草などの植物を採集してお金に替えたり、配達や店番、ドブさらい以外の掃除をしたり、そういった、ぼくでもできる仕事を引き受けることができるからです。
「ここが冒険者ギルド……」
もう、何度も建物の前を通り、案内板の文字は読めないから、親切そうな人に登録の仕方、かかる費用などを聞いていましたが、中に入るのは初めてです。
胸がドキドキします……。
――カランコロン。
扉を開けて中に入ると、ドアベルが鳴りました。
一瞬、内側の喧騒が静まり返り、みんなの視線がぼくの方を向きますが、すぐにまたワイワイ騒ぎ始めました。
体の大きな男性に、緑の衣装を着た耳の尖ったエルフ、ひげもじゃのドワーフなんかも椅子に座ってエールをあおっています。
もう、誰もぼくのことなんて気にしていません。
スラムとはまた違ったゴチャゴチャ感や、独特の匂いは、今までぼくが嗅いだことのないものでした。
ここから新しい世界が始まるんだ。
以前、親切な人に教わった通り、真っ直ぐカウンターへ向かいます。
受付にいる若いお姉さん――冒険者ギルドの制服が目印だと聞いています――に声をかけました。
「あ、あの……」
近くで見上げたとき、一瞬スゴい寝癖かと思ってしまいました。
頭の天辺を盛ったような、スラムでは見たことがない複雑で、ボリュームのある髪型をしていたからです。
とはいえ、これまでのぼくの一生の中で、深く関わったことがない、見栄えがいいメイクに、身だしなみを整えた若い女の人を前にして、ぼくはドギマギしてしまいました。
ですが、受付嬢のお姉さんは聞こえていないのか、こちらを見向きもしません。
「あの!」
「……」
「あのう!」
「…………」
「聞こえてますか!」
「……はぁ……なんですか、依頼でしたら隣のカウンターに並んでくださーい」
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