【完結】異世界の記憶を思い出した幼馴染で自称(大)聖女の姉が「魔王退治に行く!」と言い出しました。

野良豆らっこ

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第22話

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 姉さんの拳に秘められた聖女の魔力は、間違いなく魔物やアンデッドを一撃で浄化するに相応しい右ストレートになって、ベルディナット王子に叩きこまれた。

 ――いや、叩きこまれたはずだった。


「まさか!?」


 王子の全身を覆う黒衣が、これまでにないくらい膨れ上がり、闇の手のひらとなって姉さんのパンチを受け止めていた。



『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』



 そのまま狼のように大きな口を開けて、姉さんを飲みこもうとする。


「ひゃっ!」

「姉さんっ!? ……それは燃え走る炎の射手!」


 黒衣の王子目がけて炎の矢が降り注ぐ。
 ホーンラビットのときと違い、まったくダメージを与えていないようだけど、気を逸らす効果くらいはあったのだろう。
 王子が姉さんを取り落した。
 その隙に駆け寄ると、姉さんの手をつかんだ。


「姉さん立って! 走るよ!」

「う、うん!」


 しばらく走って振り返ると、



『ウガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアゴレエェェェェェェガアアアアアアアアアアアアア!』



 さらに狂ったように暴れ出す姿が見えた。


「姉さん、さっきのパンチ、少しは浄化できたの?」

「ダメね。あの黒いマントみたいなのが受け止めたのよ。あれが聖女の魔力を握り潰したみたい。そうなると、トールを殴るときと変わらない、たいして威力のない、ただの物理パンチだもの」

「僕は十分痛いけどね。すぐ回復するけど。じゃあ、直接、王子の本体を殴らないと浄化できないってこと?」

「それができればいいんだけど……」


 冒険者としては初心者の僕らの身のこなしでは、今の王子の懐に飛びこむなんて不可能だろう。


「姉さん、パンチでもナックルでもいいんだけど、他に何かスキルはないの?」

「そうね……城ごと……」

「城ごと!? 城ごと浄化するって冗談じゃなかったの!?」

「無理、無理、無理、流石にまだレベルが低すぎて魔力が足りないから、干からびて死んじゃうわよ!」


 干からびるんだ、でも出来るんだ……と思ったが、突っこんでいる余裕はない。


「姉さん、王子が追ってきてるよ!」

「うわわわ、わかってるわよ! とにかく城ごとは無理だけど、一部屋ぐらいならいけるから!」


 マジですか!


「だから10分時間をちょうだい。大広間の床に大きな聖印を描くから、合図を送ったら王子を誘導して!」

「わかった。それまで上の階で逃げ回ってるから!」


 僕は赤のルベライトを持ったまま廊下を直進し、姉さんだけが曲がって階段を下りた。

 瞬間移動こそ出来ないものの、王子はゴーストらしく、時々壁をすり抜けては現れる。

 魔法で牽制しつつ、どうにか捕まらずに逃げ回っていると、階下から大きな声が響き渡った。


「トール! いいわよ!」


 よし――


 グルリと方向転換。

 あえて王子の脇を駆け抜けると、王子を引き連れるようにして、階段を飛ばし飛ばしに下っていく。

 踊り場の絵画の前を通過。


「こっちよトール!」
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