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2 初めて人を殴った日
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部屋の準備や荷解きなどの新生活に必要な事は全てレイナが行ってくれている為、部屋に戻ったテアはレイナの邪魔をしないよう、鞄から小説を取り出すと行き先を告げてから談話室へと向かった。
「あの、隣りいいですか?」
とっさに振り返った時、立っていたのは見知らぬ女子生徒だった。談話室は広く、正直まだ座る所は沢山ある。現に他の女子生徒達が遠巻きに話し掛ける機会を伺っているのが分かったから、敢えて窓側に向いている一人掛けの席に座り、本を開いていたのだ。暗に集中しているから話し掛けて欲しくないという空気を出しているつもりだった。
「えぇ、もちろん。お好きな席にどうぞ」
立っていた女子生徒はこの国に多い金髪に青い瞳の、所謂普通の容姿だった。それでも表情や仕草に可愛らしさが滲み出ている。例えば持っている鞄は前でぎゅっと抱えているし、二つに緩く結んだ髪の毛は触れてみたくなるくらいに柔そうだ。そして少し下がった眉は、女のテアであっても庇護欲を唆られるものだった。
「新入生のテア・ヴァイスバルトよ」
「新入生? 私もなの! クラリッサ・バウムよ。よろしくね」
すると警戒を解いたのかクラリッサはまじまじとこちらを見つめてきた。不躾な視線を避けるように視線を逸らすと、クラリッサはとっさに頬を赤らめて小さく頭を下げた。
「あんまり綺麗だから見惚れちゃった。でも良かった、大人っぽいからもしかしたら三年生かもって声を掛けたから」
「だから最初に敬語だったのね。よろしくクラリッサさん」
「呼びづらいでしょう? クラリッサでいいよ。私もテアでいいかな?」
その時、こちらの様子を伺っていた女生徒達が立ち上がる気配がした。さすがにまずいと思ったのはテアも一緒だ。ここは普通の学園とは違い貴族のみが入学出来る場所。そこで爵位が格上の令嬢相手に呼び捨てにしていいかなど、あり得ない発言だった。テアはこちらに歩いてくる生徒達が到着するよりも先にクラリッサに向かって言った。
「呼び難くはないからクラリッサさんと呼ばせてもらうわ。あなたも私の事はテアさんと呼んでくれるかしら」
するとクラリッサは明らかにしょんぼりとし、そして頷いた。
「それじゃあ仲良くなったら呼び方を変えてもいいかな?」
「いいわ。これからお互いを知っていきましょう」
珍しい事だがヴァイスバルト公爵家を知らない者がいてもおかしくはない。むしろ王都から遠く離れれば、爵位こそあるものの平民に近い生活をしている貴族も僅かだがいると聞く。実際バウムという名にテアも聞き覚えがない。小説に視線を落とした時だった。影が落ち、そっと見上げるとクラリッサが開いていた小説を覗いていた所だった。
「クラリッサさん? 何をしているの?」
「ごめんなさい! どんな小説を読んでいるのか気になっちゃって。テアさんが読む物なら王都の人にも人気かなって」
「そんな事ないわ。私用事があるからこれで失礼するわね」
するとクラリッサは立ち上がって手首を掴んできた。さすがに驚きを隠せないでいると、大きな瞳を潤ませて見上げてきた。
「またお話してくれる? ここに入学するのを機に王都に来たばかりだから知り合いがいないの。もちろんテアさんが良かったらだけど」
「いいわ、機会があったらご一緒しましょう」
その瞬間、クラリッサの顔に笑みが満開になった。
「良かった! ここには許嫁しかいないし、女の子の友達が欲しかったの」
「という事はクラリッサさんもアイファー科なのね? 今日教室にはいなかったように思えたけど?」
アイファー科は花嫁修業の科だった。勝手にクラリッサの事を侍女や使用人を育てるフェルディグング科だと思っていた事は口に出さないでいると、嬉しそうに頬を染めて言った。
「事情があって明日が初登校なの。それに私ずっと好きだった男の子の許嫁になれたのよ! 正式に選ばれるのは来年まで待たないといけないみたいなんだけど、絶対に私が選ばれるようにしてみせるんだ」
「……という事はお相手には複数の許嫁がいらっしゃるのね」
嫡男が複数の妻や側室を持つ事は当たり前のこの国で、テアの周囲にいる者達は皆一夫一婦の為、あまり自分以外に妻候補がいるという状況の話を聞いた事がなく、少しだけクラリッサの事が気の毒になってしまった。
「許嫁には最近なったのかしら?」
本来許嫁は産まれてすぐになってもおかしくない。現に大体の者が初等部の年齢には許嫁が一人がおり、その後増やしていくのだ。しかし来年には婚約者を決めるという期間に入っても許嫁を増やすという事は、相手の男性はそれなりの立場の者か、もしくは多妻を望む男性なのかもしれない。それでも恋に頬を染めているクラリッサを見る限り、きっと素敵な男性のように思えた。
「実を言うとね、私が貴族になったのは中等部の時なの。それまでは普通の生活を送ってたんだ」
「中等部の頃にバウム男爵の養子に入ったという事?」
立ち入った事を聞き過ぎたかとも思ってしまったが、クラリッサは嬉しそうに続けた。
「そうなの! バウム家の人達はとてもよくしてくれるし、好きな人の許嫁にはなれるし、私今がとっても幸せよ!」
「それは良かったわね」
テアは今度こそ席を立つと談話室を後にした。
✳✳✳
「あの、お嬢様にお客様がいらしております」
朝の準備を終えたテアは、扉の前で困惑しているレイナを見た。昨日入寮してからというもの、ヴァイスバルト公爵家と繋がりを持とうとする令嬢達が部屋の前に並び、その全てへ毅然とした態度で断りを入れていたレイナにしては妙な様子だった。
「誰なの?」
「ご友人だと仰っております。クラリッサ・バウム様だそうですがご存知ですか?」
「友人ではないけれど知り合いよ。大丈夫だからもう行くわ」
確かに部屋の前にはクラリッサが立っていた。もじもじとした様子で扉の方を伺っていたが、テアの姿が見えた瞬間嬉しそうに数歩駆け寄ってきた。
「テアさんおはよう! 良かったら一緒に教室まで行かない?」
「おはようクラリッサさん。あのね、こんな風に待つのはよくないわ。事前に侍女に申し入れをしてもらわないと」
「えっと、ごめんなさい。私まだそういうのが分かっていなくて……本当にごめんなさい」
クラリッサの大きな目に次第に涙が溜まっていく。テアは溜め息を耐えて細いクラリッサの肩に触れた。
「初登校だったわね。今日は一緒に登校するけれど、明日からはこうして待っては駄目よ。いいわね?」
「うん! ありがとうテアさん!」
後ろで心配そうに立っているレイナに手を振ると、周囲の視線が突き刺さりながらも嬉しそうに歩くクラリッサを連れて馬車へと乗り込んだのだった。
そして教室に入った瞬間、室内が静まり返っている事に気づき足を止めた。クラリッサも何事かと室内を覗き込んでくる。最初に話し掛けて来たのは入り口付近にいた女子生徒だった。
「おはようございます、テア様」
「おはようナディア。何かあったの?」
中等部から一緒のロイス子爵家のナディアは、茶会や舞踏会でもよく会う仲だった。そのナディアが言いにくそうに、それでもテアの少し後ろに立っているクラリッサに視線を移した。
「テア様は平気なのですか?」
「何の事?」
「まさか一緒にご登校されるとは思いませんでした。いくらお優しいとはいえ私は納得出来ません!」
ナディアの顔は何故か青白い。その原因がクラリッサである事はその態度からも明白だった。不穏な空気にクラリッサを見ると、目が合ったがとっさに逸らされてしまった。
「クラリッサは何か知っているの?」
「私の口からは言えないの。ごめんね」
「あなたテア様に何て口を聞くの? それにあの事を伝えていないなら、テア様を欺いたままお側にいるのね!?」
「あなたには関係ないじゃない!」
その瞬間、ナディアが手を振り上げた。とっさに押さえた手首と手首がぶつかり、痛みで頰を食い縛った。
「申し訳ございませんテア様! お怪我はございませんか!?」
確認しようと手を伸ばしてくるナディアからとっさに距離を取ると、ナディアは唇を震わせながら言った。
その言葉はテアが今までの人生で聞いた中で、一番最悪なものだった。
✳✳✳
「テア!? どうしたんだ?」
一番前の席に座っていたカレイアは、突然キューンハイト科の教室に飛び込んできたテアを見て驚きの声を上げた。しかしテアは教室を見渡すと、窓側の一番後ろに座っていたアベルの前に歩いて行った。
テアはアベルと目が合った瞬間、体の血が引いていくのが分かった。ここに来るまでの間、もしかしたらナディアが言った言葉は嘘かもしれないと心のどこかで思っていた。アベルに話せば、たちの悪い噂話だと笑い飛ばしてくれるとそう思っていた。でもこちらに気が付いたアベルは固まり目を逸らせないのか、真っ直ぐにこちらを見たままどこか怯えているように見えた。
「アベル、少しいいかしら」
「もう授業が始まるから話があるなら後にしよう」
「今じゃないと駄目よ」
「テア落ち着いてくれ。ここで話すような話じゃない」
テアは目を瞑って深呼吸をした。
「クラリッサ・バウムさんはあなたの許嫁になったの?」
声に出した瞬間、心臓がバクバクと大きな音を立てて動き、自分の体が震えているのではないかと思う程に足元が揺れている気がした。
「あぁ、そうだよ」
その瞬間、テアは思い切りアベルの頬を拳で殴っていた。ゴッというような重たい音がしたかと思うと、アベルがよろけて蹴った椅子が倒れる大きな音がした。
「あの、隣りいいですか?」
とっさに振り返った時、立っていたのは見知らぬ女子生徒だった。談話室は広く、正直まだ座る所は沢山ある。現に他の女子生徒達が遠巻きに話し掛ける機会を伺っているのが分かったから、敢えて窓側に向いている一人掛けの席に座り、本を開いていたのだ。暗に集中しているから話し掛けて欲しくないという空気を出しているつもりだった。
「えぇ、もちろん。お好きな席にどうぞ」
立っていた女子生徒はこの国に多い金髪に青い瞳の、所謂普通の容姿だった。それでも表情や仕草に可愛らしさが滲み出ている。例えば持っている鞄は前でぎゅっと抱えているし、二つに緩く結んだ髪の毛は触れてみたくなるくらいに柔そうだ。そして少し下がった眉は、女のテアであっても庇護欲を唆られるものだった。
「新入生のテア・ヴァイスバルトよ」
「新入生? 私もなの! クラリッサ・バウムよ。よろしくね」
すると警戒を解いたのかクラリッサはまじまじとこちらを見つめてきた。不躾な視線を避けるように視線を逸らすと、クラリッサはとっさに頬を赤らめて小さく頭を下げた。
「あんまり綺麗だから見惚れちゃった。でも良かった、大人っぽいからもしかしたら三年生かもって声を掛けたから」
「だから最初に敬語だったのね。よろしくクラリッサさん」
「呼びづらいでしょう? クラリッサでいいよ。私もテアでいいかな?」
その時、こちらの様子を伺っていた女生徒達が立ち上がる気配がした。さすがにまずいと思ったのはテアも一緒だ。ここは普通の学園とは違い貴族のみが入学出来る場所。そこで爵位が格上の令嬢相手に呼び捨てにしていいかなど、あり得ない発言だった。テアはこちらに歩いてくる生徒達が到着するよりも先にクラリッサに向かって言った。
「呼び難くはないからクラリッサさんと呼ばせてもらうわ。あなたも私の事はテアさんと呼んでくれるかしら」
するとクラリッサは明らかにしょんぼりとし、そして頷いた。
「それじゃあ仲良くなったら呼び方を変えてもいいかな?」
「いいわ。これからお互いを知っていきましょう」
珍しい事だがヴァイスバルト公爵家を知らない者がいてもおかしくはない。むしろ王都から遠く離れれば、爵位こそあるものの平民に近い生活をしている貴族も僅かだがいると聞く。実際バウムという名にテアも聞き覚えがない。小説に視線を落とした時だった。影が落ち、そっと見上げるとクラリッサが開いていた小説を覗いていた所だった。
「クラリッサさん? 何をしているの?」
「ごめんなさい! どんな小説を読んでいるのか気になっちゃって。テアさんが読む物なら王都の人にも人気かなって」
「そんな事ないわ。私用事があるからこれで失礼するわね」
するとクラリッサは立ち上がって手首を掴んできた。さすがに驚きを隠せないでいると、大きな瞳を潤ませて見上げてきた。
「またお話してくれる? ここに入学するのを機に王都に来たばかりだから知り合いがいないの。もちろんテアさんが良かったらだけど」
「いいわ、機会があったらご一緒しましょう」
その瞬間、クラリッサの顔に笑みが満開になった。
「良かった! ここには許嫁しかいないし、女の子の友達が欲しかったの」
「という事はクラリッサさんもアイファー科なのね? 今日教室にはいなかったように思えたけど?」
アイファー科は花嫁修業の科だった。勝手にクラリッサの事を侍女や使用人を育てるフェルディグング科だと思っていた事は口に出さないでいると、嬉しそうに頬を染めて言った。
「事情があって明日が初登校なの。それに私ずっと好きだった男の子の許嫁になれたのよ! 正式に選ばれるのは来年まで待たないといけないみたいなんだけど、絶対に私が選ばれるようにしてみせるんだ」
「……という事はお相手には複数の許嫁がいらっしゃるのね」
嫡男が複数の妻や側室を持つ事は当たり前のこの国で、テアの周囲にいる者達は皆一夫一婦の為、あまり自分以外に妻候補がいるという状況の話を聞いた事がなく、少しだけクラリッサの事が気の毒になってしまった。
「許嫁には最近なったのかしら?」
本来許嫁は産まれてすぐになってもおかしくない。現に大体の者が初等部の年齢には許嫁が一人がおり、その後増やしていくのだ。しかし来年には婚約者を決めるという期間に入っても許嫁を増やすという事は、相手の男性はそれなりの立場の者か、もしくは多妻を望む男性なのかもしれない。それでも恋に頬を染めているクラリッサを見る限り、きっと素敵な男性のように思えた。
「実を言うとね、私が貴族になったのは中等部の時なの。それまでは普通の生活を送ってたんだ」
「中等部の頃にバウム男爵の養子に入ったという事?」
立ち入った事を聞き過ぎたかとも思ってしまったが、クラリッサは嬉しそうに続けた。
「そうなの! バウム家の人達はとてもよくしてくれるし、好きな人の許嫁にはなれるし、私今がとっても幸せよ!」
「それは良かったわね」
テアは今度こそ席を立つと談話室を後にした。
✳✳✳
「あの、お嬢様にお客様がいらしております」
朝の準備を終えたテアは、扉の前で困惑しているレイナを見た。昨日入寮してからというもの、ヴァイスバルト公爵家と繋がりを持とうとする令嬢達が部屋の前に並び、その全てへ毅然とした態度で断りを入れていたレイナにしては妙な様子だった。
「誰なの?」
「ご友人だと仰っております。クラリッサ・バウム様だそうですがご存知ですか?」
「友人ではないけれど知り合いよ。大丈夫だからもう行くわ」
確かに部屋の前にはクラリッサが立っていた。もじもじとした様子で扉の方を伺っていたが、テアの姿が見えた瞬間嬉しそうに数歩駆け寄ってきた。
「テアさんおはよう! 良かったら一緒に教室まで行かない?」
「おはようクラリッサさん。あのね、こんな風に待つのはよくないわ。事前に侍女に申し入れをしてもらわないと」
「えっと、ごめんなさい。私まだそういうのが分かっていなくて……本当にごめんなさい」
クラリッサの大きな目に次第に涙が溜まっていく。テアは溜め息を耐えて細いクラリッサの肩に触れた。
「初登校だったわね。今日は一緒に登校するけれど、明日からはこうして待っては駄目よ。いいわね?」
「うん! ありがとうテアさん!」
後ろで心配そうに立っているレイナに手を振ると、周囲の視線が突き刺さりながらも嬉しそうに歩くクラリッサを連れて馬車へと乗り込んだのだった。
そして教室に入った瞬間、室内が静まり返っている事に気づき足を止めた。クラリッサも何事かと室内を覗き込んでくる。最初に話し掛けて来たのは入り口付近にいた女子生徒だった。
「おはようございます、テア様」
「おはようナディア。何かあったの?」
中等部から一緒のロイス子爵家のナディアは、茶会や舞踏会でもよく会う仲だった。そのナディアが言いにくそうに、それでもテアの少し後ろに立っているクラリッサに視線を移した。
「テア様は平気なのですか?」
「何の事?」
「まさか一緒にご登校されるとは思いませんでした。いくらお優しいとはいえ私は納得出来ません!」
ナディアの顔は何故か青白い。その原因がクラリッサである事はその態度からも明白だった。不穏な空気にクラリッサを見ると、目が合ったがとっさに逸らされてしまった。
「クラリッサは何か知っているの?」
「私の口からは言えないの。ごめんね」
「あなたテア様に何て口を聞くの? それにあの事を伝えていないなら、テア様を欺いたままお側にいるのね!?」
「あなたには関係ないじゃない!」
その瞬間、ナディアが手を振り上げた。とっさに押さえた手首と手首がぶつかり、痛みで頰を食い縛った。
「申し訳ございませんテア様! お怪我はございませんか!?」
確認しようと手を伸ばしてくるナディアからとっさに距離を取ると、ナディアは唇を震わせながら言った。
その言葉はテアが今までの人生で聞いた中で、一番最悪なものだった。
✳✳✳
「テア!? どうしたんだ?」
一番前の席に座っていたカレイアは、突然キューンハイト科の教室に飛び込んできたテアを見て驚きの声を上げた。しかしテアは教室を見渡すと、窓側の一番後ろに座っていたアベルの前に歩いて行った。
テアはアベルと目が合った瞬間、体の血が引いていくのが分かった。ここに来るまでの間、もしかしたらナディアが言った言葉は嘘かもしれないと心のどこかで思っていた。アベルに話せば、たちの悪い噂話だと笑い飛ばしてくれるとそう思っていた。でもこちらに気が付いたアベルは固まり目を逸らせないのか、真っ直ぐにこちらを見たままどこか怯えているように見えた。
「アベル、少しいいかしら」
「もう授業が始まるから話があるなら後にしよう」
「今じゃないと駄目よ」
「テア落ち着いてくれ。ここで話すような話じゃない」
テアは目を瞑って深呼吸をした。
「クラリッサ・バウムさんはあなたの許嫁になったの?」
声に出した瞬間、心臓がバクバクと大きな音を立てて動き、自分の体が震えているのではないかと思う程に足元が揺れている気がした。
「あぁ、そうだよ」
その瞬間、テアは思い切りアベルの頬を拳で殴っていた。ゴッというような重たい音がしたかと思うと、アベルがよろけて蹴った椅子が倒れる大きな音がした。
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