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45 次代の担い手
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三週間後
「先生! またいないわ。先生ーー?」
オーウェン領で過ごして早三週間が過ぎようとしていた。
剣が守っていたとはいえ、魔素を浴びてしまったジャスパーの療養をしながら、リーヴァイがタウとダリア、そしてクレイシーの罪状を纏める時間が必要だったからだった。
あの日オーウェン領を襲った魔獣達はクレイシーを連れ去ると共に姿を消したらしく、被害と言えば背中に大きな傷を負った猟師の男と、修道長が背中の打撲と足の骨を折っただけとを調書を取っていたリーヴァイから教えられた時には、怪我人には申し訳ないが思いのほか被害が小さくて驚いたものだった。
ダリアはクレイシーが魔獣と共に去る場に鉢合わせしたらしく、そのままクレイシーと共に行く事を決めたとの事だった。ダリアはクレイシーに恋慕の念を抱いていたようだったとジャスパーは言っていた。
「またここにいたんですね。先生? 大丈夫ですか?」
メリベルは大きな木の下で横になっている銀色狼の尻尾にそっと触れた。その瞬間、物凄い速さで尻尾が仕舞われる。ちらりとだけこちらに視線を移したが、またすぐに目を瞑ってしまった。
あの時ルナ神はクレイシーの体から抜けると、自らの意志でどこかに消え去ってしまった。先生はといえば最後の浄化で力を使い果たしてしまったのか、気が付いた時にはこの姿になっていた。
「あ! イーライ! ずるいぞメリベル嬢にだけ触らせて!」
ヒョイッと顔を覗かせたのは少し前にオーウェン領に到着したノルン大公だった。イーライは心底嫌そうな溜息を吐くと、もう諦めているのか、ノルン大公が背中を撫でようが尻尾を撫でようがじっと寝た振りを決め込んでいた。
「それにしても王都まで魔獣に襲われていたなんて驚きでした」
「でも街の中にまでは入って来なかったし、今思えば王都で我々の気を引いている間にルナ神が復活する手はずだったのだろうね。全く恐ろしいものだよ、魔素というのは」
そう言う声と動きが合っていない。ノルン大公は嬉しそうに背中を撫で続けていた。
「ルナ神はじわじわと魔素に取り込まれていったのだろうね。それでもこれまで保っていられたのは神だったからなのだと思うよ。今王都では、ルナ神のみを祀る聖堂の建設が始まっているんだよ。今まではどうしてもソル神を中心に祀ってしまっていたからね」
「それは喜ばしい事ですね」
「今回の事はルナ神への信仰を疎かにしたせいで起きた事だったと陛下はお考えで、これからは改めてソル神とルナ神を同等の尊い二神として信仰していくお考えのようだよ」
「それならもうルナ神も魔素に飲まれる心配は無いんですよね?」
「信仰は何よりの浄化だと信じよう。でも急にソル神と同等の神というのは納得しない者達も出てくるだろうね。いくらソル神とルナ神が同時に世界を作ったと言っても、魔素と共にある神を嫌がる者もいるだろう」
「そんなのおかしいです! ルナ神が魔素の大半を引き取って下さったから私達は今こうして生きていられるのに」
すると先生を撫でていた手がふわりと頭に乗った。
「君は本当にいい子だね。もう何も心配せずに後は大人達に任せなさい」
「人の婚約者に触れるのは止めてもらいたいのですが、叔父上」
いつの間に来ていたのか、後ろにはジャスパーが立っていた。ノルン大公の手を払うと、間に割って入ってきた。
「嫉妬深い婚約者は嫌われるよ」
「俺は嫉妬深くなどありません」
「ははッ。それでもう体調はいいのかい? 随分と魔素を浴びたのだろう?」
魔素が充満していた場所にいて無事だった理由は唯一つ。メリベルが付与した剣を持ち歩いていたからだった。剣に付与した力が結界となり持ち主を守っていた。力を付与した時はまさかジャスパーの剣だとは思いもしなかったのだが。
「お陰様で。あのあと王都から駆け付けてくれた魔術師達の浄化も受けましたし、そろそろ王都に戻ろうと思います」
ふと後ろで繋がれていた手の力が強くなる。顔が熱くなり、空いている手でそっと頬を押さえた。
「メリベル嬢も一緒に戻るんだろう? アークトゥラス侯爵も首を長くして待っているだろうしね」
「はい、手紙でも随分心配しているようでしたのでそろそろ帰らないと、痺れを切らして本人が来そうですから」
ノルン大公は声を上げて笑うと頷いた。
「実際に来る事は難しいだろうけど、仕事に身を入れてもらう為にも帰った方がいいだろうね。クレリック侯爵家の分家の地下室から魔素を濃縮した石や、地下通路から続く祈りの為の部屋であろう空間を発見したんだよ。おそらく遥か昔からクレリック侯爵家の一族は公には出来ない神を祀っていたのだろうね」
「黒い石ってまさかアークトゥラス夫人の故郷の村で発見された物ですか?」
ノルン大公は深く溜息を吐くと口元を擦った。
「おそらく奪った魔廻に溜まった魔素を濃縮する技術を持っていたのだろう。ある程度親しければ、アークトゥラス侯爵家の者でなくても、ジャスパーとメリベル嬢が決まった日に外出をするという情報は得られるだろうしね」
確かに隠していてもどこからから話が漏れる事はあるだろう。それに例えばそれが人からだとは限らない。
「うちにあるお母様の肖像画なんですけれど、あの絵はもしかしたら叔父様が描いた物なのではと思っていたんです。あの肖像画を使って家の内情を知る事も出来たのかと思うと恐ろしいですよね」
「夫人は弟と二人暮らしだったというし、王家としてもミーシャ殿を王都に呼んで姉弟を引き裂いたようなものだから、今回の件は感慨深いね。ただあの時は陛下も即位したばかりで魔術団の質を高める事に躍起になっていた時期だったんだ。何より王都にまで名が届くような魔術師を放っておくのは危険だという認識だったんだよ」
「……王都に帰ったら、父に母や叔父様の事を聞いてみようと思います」
「それがいいね。約束は出来ないがいつかタウに面会が出来るよう取り計らおう。もちろん君が望めばだが」
「その時はぜひお願い致します」
ふと、今まで眠っている振りをしていたイーライがぴくりと動き、立ち上がった。
「先生? どうしたの?」
先生が向かった先には、銀色の美しい髪を輝かせながら立つルナ神の姿があった。先生はルナ神の周囲を忙しなく回るとその掌に鼻先を当てている。ルナ神もそんな先生を優しく見つめていた。
『世界を見て回ってきたが、私が思っていたよりも美しい世界のようね』
「すっかり元のお姿に戻られたのですね」
『ほれこの通り。それであの娘は?』
メリベルは首を振った。クレイシーはまるで抜け殻のようだった。何を話し掛けても返事はなく、食事もほとんど取らなかった。濃い魔素をその身に受けて生きているだけでも奇跡だっが、果たして今の姿が生きていると言えるのだろうか。例え以前のように話せるようになったとしても、今後はオーウェン辺境伯の元で一生軟禁生活を送る事になる。その監視が、オーウェン辺境伯に課せられた今回の罰でもあった。
オーウェン辺境伯は爵位を返上すると言い張ったが、この地を任せられる後任が現状いないという事と、息子であるダリアの行動は突発的なものであり、オーウェン辺境伯は知り得なかったというのが陛下の下した決断だった。
「いつか話が出来る日が来ると信じています」
『その祈りはきっといつか通じるでしょう。私が邪神に落ちずに済んだのはお前達のお陰よ。とはいっても、魔素事態が悪い訳ではないの』
「え?」
全員が目を丸くする中、ルナ神は優しい笑みを浮かべて言った。
『言うならば、魔素は剥き出しの本能そのものなのよ。そこに意思が加わるから大抵のものが悪となってしまうだけの事で、悪いのは魔素を悪と化してしまう意思ある者達の方なのかもしれないわね』
「魔素は悪くない……私もそう思います」
『ほう?』
「確かに魔素で命を落とした人達は沢山います。でもそれは災害も同じで、魔素もそういった類の物なんじゃないかと。私達が上手く付き合っていくものだと、今はそう思っています。もしですけど、私達が魔素と上手く付き合っていけるようになったら、ルナ様のいる場所は少しでも過ごしやすくなりますか?」
するとほんのり光を放つ表情が驚いたような気がした。
『私のいる場所には生き物がいない。今回は私が飲まれてしまった、ただそれだけの事よ』
「でもそこはお寂しい場所ではありませんか?」
『お前は優しい子だね。さあもう行くとしよう。イーライ、留守を頼んだよ』
追いやるようにイーライの背を押した。するとルナ神の足元が割れていく。その下からは魔素が吹き出ようとしていた。しかしルナ神の輝きが魔素を圧している。誰ともなく、その場にいた全員が頭を下げた。
その瞬間、軽い足音がして顔を上げた。こちらに戻り掛けていた先生はルナ神のそばに駆け寄ると、ルナ神と共に割れた足元に飲まれていく。ルナ神は最初こそ驚いたようだったが、すぐに笑ってその頭を撫でた。先生はどこか誇らしげにこちらを見た。
“鍵はお前に託した”
「託したって? どういう事ですか先生!」
「なんだって? イーライが何か言ったのかい!?」
慌てるノルン大公を押しのけると、メリベルは走り出そうとした。
“来るな! それ以上は進むな”
びくりとして足を止めると、先生の綺麗な緑色の瞳が優しく細まった。
“お前になら視えるはずだ。クレアボヤンスの力を受け継ぐ僕の愛弟子”
そういうと二つの姿は地に飲み込まれていき、やがてそこはただの地面に戻っていた。
「メリベル大丈夫か!?」
気が付くと、涙が溢れていた。
「先生! またいないわ。先生ーー?」
オーウェン領で過ごして早三週間が過ぎようとしていた。
剣が守っていたとはいえ、魔素を浴びてしまったジャスパーの療養をしながら、リーヴァイがタウとダリア、そしてクレイシーの罪状を纏める時間が必要だったからだった。
あの日オーウェン領を襲った魔獣達はクレイシーを連れ去ると共に姿を消したらしく、被害と言えば背中に大きな傷を負った猟師の男と、修道長が背中の打撲と足の骨を折っただけとを調書を取っていたリーヴァイから教えられた時には、怪我人には申し訳ないが思いのほか被害が小さくて驚いたものだった。
ダリアはクレイシーが魔獣と共に去る場に鉢合わせしたらしく、そのままクレイシーと共に行く事を決めたとの事だった。ダリアはクレイシーに恋慕の念を抱いていたようだったとジャスパーは言っていた。
「またここにいたんですね。先生? 大丈夫ですか?」
メリベルは大きな木の下で横になっている銀色狼の尻尾にそっと触れた。その瞬間、物凄い速さで尻尾が仕舞われる。ちらりとだけこちらに視線を移したが、またすぐに目を瞑ってしまった。
あの時ルナ神はクレイシーの体から抜けると、自らの意志でどこかに消え去ってしまった。先生はといえば最後の浄化で力を使い果たしてしまったのか、気が付いた時にはこの姿になっていた。
「あ! イーライ! ずるいぞメリベル嬢にだけ触らせて!」
ヒョイッと顔を覗かせたのは少し前にオーウェン領に到着したノルン大公だった。イーライは心底嫌そうな溜息を吐くと、もう諦めているのか、ノルン大公が背中を撫でようが尻尾を撫でようがじっと寝た振りを決め込んでいた。
「それにしても王都まで魔獣に襲われていたなんて驚きでした」
「でも街の中にまでは入って来なかったし、今思えば王都で我々の気を引いている間にルナ神が復活する手はずだったのだろうね。全く恐ろしいものだよ、魔素というのは」
そう言う声と動きが合っていない。ノルン大公は嬉しそうに背中を撫で続けていた。
「ルナ神はじわじわと魔素に取り込まれていったのだろうね。それでもこれまで保っていられたのは神だったからなのだと思うよ。今王都では、ルナ神のみを祀る聖堂の建設が始まっているんだよ。今まではどうしてもソル神を中心に祀ってしまっていたからね」
「それは喜ばしい事ですね」
「今回の事はルナ神への信仰を疎かにしたせいで起きた事だったと陛下はお考えで、これからは改めてソル神とルナ神を同等の尊い二神として信仰していくお考えのようだよ」
「それならもうルナ神も魔素に飲まれる心配は無いんですよね?」
「信仰は何よりの浄化だと信じよう。でも急にソル神と同等の神というのは納得しない者達も出てくるだろうね。いくらソル神とルナ神が同時に世界を作ったと言っても、魔素と共にある神を嫌がる者もいるだろう」
「そんなのおかしいです! ルナ神が魔素の大半を引き取って下さったから私達は今こうして生きていられるのに」
すると先生を撫でていた手がふわりと頭に乗った。
「君は本当にいい子だね。もう何も心配せずに後は大人達に任せなさい」
「人の婚約者に触れるのは止めてもらいたいのですが、叔父上」
いつの間に来ていたのか、後ろにはジャスパーが立っていた。ノルン大公の手を払うと、間に割って入ってきた。
「嫉妬深い婚約者は嫌われるよ」
「俺は嫉妬深くなどありません」
「ははッ。それでもう体調はいいのかい? 随分と魔素を浴びたのだろう?」
魔素が充満していた場所にいて無事だった理由は唯一つ。メリベルが付与した剣を持ち歩いていたからだった。剣に付与した力が結界となり持ち主を守っていた。力を付与した時はまさかジャスパーの剣だとは思いもしなかったのだが。
「お陰様で。あのあと王都から駆け付けてくれた魔術師達の浄化も受けましたし、そろそろ王都に戻ろうと思います」
ふと後ろで繋がれていた手の力が強くなる。顔が熱くなり、空いている手でそっと頬を押さえた。
「メリベル嬢も一緒に戻るんだろう? アークトゥラス侯爵も首を長くして待っているだろうしね」
「はい、手紙でも随分心配しているようでしたのでそろそろ帰らないと、痺れを切らして本人が来そうですから」
ノルン大公は声を上げて笑うと頷いた。
「実際に来る事は難しいだろうけど、仕事に身を入れてもらう為にも帰った方がいいだろうね。クレリック侯爵家の分家の地下室から魔素を濃縮した石や、地下通路から続く祈りの為の部屋であろう空間を発見したんだよ。おそらく遥か昔からクレリック侯爵家の一族は公には出来ない神を祀っていたのだろうね」
「黒い石ってまさかアークトゥラス夫人の故郷の村で発見された物ですか?」
ノルン大公は深く溜息を吐くと口元を擦った。
「おそらく奪った魔廻に溜まった魔素を濃縮する技術を持っていたのだろう。ある程度親しければ、アークトゥラス侯爵家の者でなくても、ジャスパーとメリベル嬢が決まった日に外出をするという情報は得られるだろうしね」
確かに隠していてもどこからから話が漏れる事はあるだろう。それに例えばそれが人からだとは限らない。
「うちにあるお母様の肖像画なんですけれど、あの絵はもしかしたら叔父様が描いた物なのではと思っていたんです。あの肖像画を使って家の内情を知る事も出来たのかと思うと恐ろしいですよね」
「夫人は弟と二人暮らしだったというし、王家としてもミーシャ殿を王都に呼んで姉弟を引き裂いたようなものだから、今回の件は感慨深いね。ただあの時は陛下も即位したばかりで魔術団の質を高める事に躍起になっていた時期だったんだ。何より王都にまで名が届くような魔術師を放っておくのは危険だという認識だったんだよ」
「……王都に帰ったら、父に母や叔父様の事を聞いてみようと思います」
「それがいいね。約束は出来ないがいつかタウに面会が出来るよう取り計らおう。もちろん君が望めばだが」
「その時はぜひお願い致します」
ふと、今まで眠っている振りをしていたイーライがぴくりと動き、立ち上がった。
「先生? どうしたの?」
先生が向かった先には、銀色の美しい髪を輝かせながら立つルナ神の姿があった。先生はルナ神の周囲を忙しなく回るとその掌に鼻先を当てている。ルナ神もそんな先生を優しく見つめていた。
『世界を見て回ってきたが、私が思っていたよりも美しい世界のようね』
「すっかり元のお姿に戻られたのですね」
『ほれこの通り。それであの娘は?』
メリベルは首を振った。クレイシーはまるで抜け殻のようだった。何を話し掛けても返事はなく、食事もほとんど取らなかった。濃い魔素をその身に受けて生きているだけでも奇跡だっが、果たして今の姿が生きていると言えるのだろうか。例え以前のように話せるようになったとしても、今後はオーウェン辺境伯の元で一生軟禁生活を送る事になる。その監視が、オーウェン辺境伯に課せられた今回の罰でもあった。
オーウェン辺境伯は爵位を返上すると言い張ったが、この地を任せられる後任が現状いないという事と、息子であるダリアの行動は突発的なものであり、オーウェン辺境伯は知り得なかったというのが陛下の下した決断だった。
「いつか話が出来る日が来ると信じています」
『その祈りはきっといつか通じるでしょう。私が邪神に落ちずに済んだのはお前達のお陰よ。とはいっても、魔素事態が悪い訳ではないの』
「え?」
全員が目を丸くする中、ルナ神は優しい笑みを浮かべて言った。
『言うならば、魔素は剥き出しの本能そのものなのよ。そこに意思が加わるから大抵のものが悪となってしまうだけの事で、悪いのは魔素を悪と化してしまう意思ある者達の方なのかもしれないわね』
「魔素は悪くない……私もそう思います」
『ほう?』
「確かに魔素で命を落とした人達は沢山います。でもそれは災害も同じで、魔素もそういった類の物なんじゃないかと。私達が上手く付き合っていくものだと、今はそう思っています。もしですけど、私達が魔素と上手く付き合っていけるようになったら、ルナ様のいる場所は少しでも過ごしやすくなりますか?」
するとほんのり光を放つ表情が驚いたような気がした。
『私のいる場所には生き物がいない。今回は私が飲まれてしまった、ただそれだけの事よ』
「でもそこはお寂しい場所ではありませんか?」
『お前は優しい子だね。さあもう行くとしよう。イーライ、留守を頼んだよ』
追いやるようにイーライの背を押した。するとルナ神の足元が割れていく。その下からは魔素が吹き出ようとしていた。しかしルナ神の輝きが魔素を圧している。誰ともなく、その場にいた全員が頭を下げた。
その瞬間、軽い足音がして顔を上げた。こちらに戻り掛けていた先生はルナ神のそばに駆け寄ると、ルナ神と共に割れた足元に飲まれていく。ルナ神は最初こそ驚いたようだったが、すぐに笑ってその頭を撫でた。先生はどこか誇らしげにこちらを見た。
“鍵はお前に託した”
「託したって? どういう事ですか先生!」
「なんだって? イーライが何か言ったのかい!?」
慌てるノルン大公を押しのけると、メリベルは走り出そうとした。
“来るな! それ以上は進むな”
びくりとして足を止めると、先生の綺麗な緑色の瞳が優しく細まった。
“お前になら視えるはずだ。クレアボヤンスの力を受け継ぐ僕の愛弟子”
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