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第八話 その名はアーサー(4)
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こうして、今に至る。
ライラの腹を満たした料理はドンチャン騒ぎの主、先ほど娼婦を伴って店内に大声で入ってきた派手な身なりの男の奢りなのだった。
「コミュ障とは失礼だな」
エドウィンがライラの目をまっすぐ見つめて言った。
「ホントですよ、お二方はともかく、僕はコミュ障じゃないですよ」
カドワロンが食い気味に付け足した。
「そうだな、カドワロンは常に笑顔のドライモンスターだな」
「うわーーーー」
ペンダの予想外な訂正にライラが半笑いで応えた。そして、笑顔のままペンダを睨むカドワロン。
「やあ、兄ちゃん達っ、楽しんでるかい?」
凍りついた空気に包まれたエドウィン一行のテーブルに、太陽のような男がやってきた。
「ああ、俺ぁもう腹いっぱいですぜ、旦那にはホント感謝してますわ」
ライラがいつもの調子で軽口を叩くと、カドワロンが次に続いた。
「路銀が少なかったものですから、助かりました、えーと・・・」
「ああ、おれっちの名かい?そうだな名乗ってなかったな」
言いながら、その男はテーブルの端についた。四人掛けのテーブルの通路側の一辺、いわゆるお誕生日席である。
「おれっちはなアーサーってんだ、よろしくな」
「「アーサー!?」」
ライラとカドワロンの驚愕した声が響いた。
「ああ、そうだ、珍しい名前だろ」
ニコッと笑いながらアーサーと名乗る男が二人の驚きを受け止めた。
「はは、そうですかアーサーさんですか」
カドワロンが言った。他の三人にとっては先祖の敵だが、カドワロンにとっては先祖の指導者、救国の大英雄である。だから、その名前には並々ならぬ感情が篭るのである。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、たまたま同じ名もしくは発音が似てるだけで異なる綴りの名前だろうと、自分の感情を処理した。
「いや、そうじゃあねえ、カドワロン君」
「!?」
四人はアーサーがカドワロンの名を知っていることに驚き、いっせいに身構えた。
「名前が似てるとかそういうのじゃねえってことよ、最初に驚いたとおり、おれっちはお前さんの先祖であるローマンケルトの兵を率いて、このブリテン島に侵略してきたサクソン人と戦い、ベイドン山で重傷を負った・・・」
アーサーは言葉を止めて、一気に深く息を吸い込んだ。
「アーサー王とはおれっちのことだ、グウィネズの王子、カドワロン君」
「あんた、何物だっ・・・って待てカドワロン、お前王族だったのか」
「あれまっ、知らなかったかい、ケント王国ベルガ姫の従士ライラ君、おっと今は王女になったんだっけ」
「なっ」
ライラは驚きのあまり声にならなかった。
「どうしたものかねぇ、まったく、こんなことで感情乱すなんて意気地の無え、マーシアの王位を狙うペンダ君のように冷静でいなくちゃな」
アーサーの言葉にペンダの瞼がピクリと動いた。
「おっと、そう逸るなよ」
アーサーが手元にあったナイフをエドウィンの顔に突きつけた。エドウィンの手は既に剣の柄を握っている。
「無粋なやつだね、まったく、こんな楽しい宴に刃物プラプラ振り回すんじゃないよ」
「くっ」
エドウィンはアーサーを睨みつけることしかできないでいる。
「憎いかい、エゼルフリッドが」
急にアーサーの口調がやさしくなった。
「憎いってのは大事だな、確かに、それがなくなっちまったらお仕舞えだよな」
アーサーの言葉が胸の中を抉るような、そんな感じがエドウィンにはあった。
「はぁっ!」
気合とともに剣を縦に一閃。しかし、アーサーは軽々とかわすと剣はテーブルをぶっ叩き、そのまま食い込んだ。そして、アーサーが片足を机まで上げるとそのままエドウィンの剣を踏んだ。
そして、その鈍い音とともに宴は唐突に終わった。先ほどまで飲めや歌えやの大騒ぎから一転。皆が隅にあるエドウィン達のテーブルを見つめている。
「だけどよぉ、憎いってだけじゃ、戦には勝てねえのさ」
言い終わると、アーサーが右手を頭上に掲げパチンと指を弾いた。すると、エドウィン達とアーサーを除く店内の人間は次々と倒れていった。
「心配すんな、眠ってるだけだ」
「いったい・・・あなたはなんなんですか!」
「だから、アーサー王だって言ってんだろうが、カドワロン、お前さんが今生きてるのだっておれっちが歯ぁ食い縛って戦ったからなんだぜ」
「せっかく、この大先輩がアドバイスをしてやろうと駆けつけてやったってのによ」
「先輩だと?」
「ああ、そうだよライラ君、このブリタニアの英雄としての先輩だろ、おれっちは」
アーサーがニコッと笑った。
「だがよぉ、言葉が分からねぇんだったら体に教えるしかねえよな」
アーサーは剣を踏んでいた足を降ろした。
「表へ出な、小僧ども、その根性叩き直してやる」
四人はゴクリと唾を呑みこんだ。
「おっと、せっかくだからお姉ちゃんのおっぱいだけでも揉んでおくか」
「・・・・」
「いや、違うぞ、さっき金払ったんだからな、もともと抱くことになってたんだからな、だからこれは痴漢とかそういうんじゃねえからなっ」
「でも君らみたいな青少年は真似しちゃだめだぞっ」
ライラの腹を満たした料理はドンチャン騒ぎの主、先ほど娼婦を伴って店内に大声で入ってきた派手な身なりの男の奢りなのだった。
「コミュ障とは失礼だな」
エドウィンがライラの目をまっすぐ見つめて言った。
「ホントですよ、お二方はともかく、僕はコミュ障じゃないですよ」
カドワロンが食い気味に付け足した。
「そうだな、カドワロンは常に笑顔のドライモンスターだな」
「うわーーーー」
ペンダの予想外な訂正にライラが半笑いで応えた。そして、笑顔のままペンダを睨むカドワロン。
「やあ、兄ちゃん達っ、楽しんでるかい?」
凍りついた空気に包まれたエドウィン一行のテーブルに、太陽のような男がやってきた。
「ああ、俺ぁもう腹いっぱいですぜ、旦那にはホント感謝してますわ」
ライラがいつもの調子で軽口を叩くと、カドワロンが次に続いた。
「路銀が少なかったものですから、助かりました、えーと・・・」
「ああ、おれっちの名かい?そうだな名乗ってなかったな」
言いながら、その男はテーブルの端についた。四人掛けのテーブルの通路側の一辺、いわゆるお誕生日席である。
「おれっちはなアーサーってんだ、よろしくな」
「「アーサー!?」」
ライラとカドワロンの驚愕した声が響いた。
「ああ、そうだ、珍しい名前だろ」
ニコッと笑いながらアーサーと名乗る男が二人の驚きを受け止めた。
「はは、そうですかアーサーさんですか」
カドワロンが言った。他の三人にとっては先祖の敵だが、カドワロンにとっては先祖の指導者、救国の大英雄である。だから、その名前には並々ならぬ感情が篭るのである。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、たまたま同じ名もしくは発音が似てるだけで異なる綴りの名前だろうと、自分の感情を処理した。
「いや、そうじゃあねえ、カドワロン君」
「!?」
四人はアーサーがカドワロンの名を知っていることに驚き、いっせいに身構えた。
「名前が似てるとかそういうのじゃねえってことよ、最初に驚いたとおり、おれっちはお前さんの先祖であるローマンケルトの兵を率いて、このブリテン島に侵略してきたサクソン人と戦い、ベイドン山で重傷を負った・・・」
アーサーは言葉を止めて、一気に深く息を吸い込んだ。
「アーサー王とはおれっちのことだ、グウィネズの王子、カドワロン君」
「あんた、何物だっ・・・って待てカドワロン、お前王族だったのか」
「あれまっ、知らなかったかい、ケント王国ベルガ姫の従士ライラ君、おっと今は王女になったんだっけ」
「なっ」
ライラは驚きのあまり声にならなかった。
「どうしたものかねぇ、まったく、こんなことで感情乱すなんて意気地の無え、マーシアの王位を狙うペンダ君のように冷静でいなくちゃな」
アーサーの言葉にペンダの瞼がピクリと動いた。
「おっと、そう逸るなよ」
アーサーが手元にあったナイフをエドウィンの顔に突きつけた。エドウィンの手は既に剣の柄を握っている。
「無粋なやつだね、まったく、こんな楽しい宴に刃物プラプラ振り回すんじゃないよ」
「くっ」
エドウィンはアーサーを睨みつけることしかできないでいる。
「憎いかい、エゼルフリッドが」
急にアーサーの口調がやさしくなった。
「憎いってのは大事だな、確かに、それがなくなっちまったらお仕舞えだよな」
アーサーの言葉が胸の中を抉るような、そんな感じがエドウィンにはあった。
「はぁっ!」
気合とともに剣を縦に一閃。しかし、アーサーは軽々とかわすと剣はテーブルをぶっ叩き、そのまま食い込んだ。そして、アーサーが片足を机まで上げるとそのままエドウィンの剣を踏んだ。
そして、その鈍い音とともに宴は唐突に終わった。先ほどまで飲めや歌えやの大騒ぎから一転。皆が隅にあるエドウィン達のテーブルを見つめている。
「だけどよぉ、憎いってだけじゃ、戦には勝てねえのさ」
言い終わると、アーサーが右手を頭上に掲げパチンと指を弾いた。すると、エドウィン達とアーサーを除く店内の人間は次々と倒れていった。
「心配すんな、眠ってるだけだ」
「いったい・・・あなたはなんなんですか!」
「だから、アーサー王だって言ってんだろうが、カドワロン、お前さんが今生きてるのだっておれっちが歯ぁ食い縛って戦ったからなんだぜ」
「せっかく、この大先輩がアドバイスをしてやろうと駆けつけてやったってのによ」
「先輩だと?」
「ああ、そうだよライラ君、このブリタニアの英雄としての先輩だろ、おれっちは」
アーサーがニコッと笑った。
「だがよぉ、言葉が分からねぇんだったら体に教えるしかねえよな」
アーサーは剣を踏んでいた足を降ろした。
「表へ出な、小僧ども、その根性叩き直してやる」
四人はゴクリと唾を呑みこんだ。
「おっと、せっかくだからお姉ちゃんのおっぱいだけでも揉んでおくか」
「・・・・」
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