異世界転移は草原スタート!? 勇者はお城でVIP待遇、俺は草原でサバイバル

ノエ丸

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夢の続き⋯⋯編

240.VS空?③

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「俺を殺せ。だ、そうだ」

 今――なんて言った?
 俺を……殺せ?
 誰が?
 誰を?
 意味がわからない。
 空はそんなこと言わない。

 いつだってそうだ。僕が落ち込んでいると、必ず励ましてくれる。
 そのくせ、自分の弱みは決して見せようとしない。
 ほんの些細なことで、大袈裟に落ち込んでるふりをしたりするけど、本気で悩んでるときほど、誰にも言わずに笑ってみせる。

 空。僕は気づいてるよ。
 君は、誰かに迷惑をかけるくらいなら、自分の痛みを黙って呑み込むような奴なんだ。

 今回も、そうなんだろう。
 きっと、何か方法があるはずだ。
 それが何なのかはわからない。でも君は、また自分が犠牲になる道を選んだんだ。

「なぜ君と戦わなければいけないんだ!!」

 僕は叫んだ。
 本当は――戦いたくない。君を傷付けたくない。どうするのが正解なのかわからない。
 本当は、勇者なんてどうでもいい。僕は、君と一緒にいられるなら――それでいいんだ。
 もし、君の意識が戻るのなら……全てを捨てて、一緒に逃げてしまいたい。
 そう、本気でそう思ったから――僕は。

「他に……他にも、何か方法があったはずだ!」

 口から零れる言葉を止められない。
 まだ空の意識はある。
 できることは全て試したい、きっと他に方法がある筈だ。きっと。きっと――。

「悪いが、これ以外の方法が無いんだ」

 空が手をこちらに向けると、空中に魔法陣が浮かび上がる。そして、放たれる漆黒の矢。
 ――クソッ!
 寸前で身を捻って回避し、剣を強く握り直す。
 次の瞬間、目の前に幾つもの魔法陣が次々と浮かび上がる。
 まるで、僕に覚悟を決めろと告げるように――。
 その1つ1つが歯車のように噛み合いながら、漆黒の矢を一斉に撃ち放ってきた。

 咄嗟に身を翻して回避しながら、手に持つ剣へと魔力を一気に流し込む。
 だが、全ては避けきれない――。
 迫る漆黒の矢を、雷を纏った剣で薙ぎ払った。漆黒の残滓と雷光が弾け飛ぶ。
 雷を纏った剣なら、まだ何とか防げるか――いや、やめろ、考えるな。
 否定し続けてきた考えが、頭の中でじわじわと膨らんでいく。

 ……そうか。

 君はもう……。

 1つの考えが頭の中を支配する。やめろ、やめてくれ――。

 ああ、クソ! クソッ!!――覚悟を決めなければいけないのか?!
 君をこのまま放置してしまえば、きっと別の誰かに殺されてしまうかもしれない。
 それならば――いっそ、僕の手で。

「――〈雷撃らいげき〉」

 空気を裂いて、稲妻が僕の掌から弾け飛ぶ。空は寸前で、それを辛うじてかわした。
 地面に漆黒の魔法陣が浮かび上がる。

「〈エアリアル〉!」

 魔力で創った足場を一気に駆け上がる。それと同時に、地面から太く長い円錐状の棘が無数に突き出した。
 足場を蹴って跳躍し、空との距離を一気に取る。

 ――十分だ。距離は取れた。

 いくよ――空。

「〈神威・武甕槌神カムイ・タケミカヅチ〉」

 バチバチという音とともに、その身を雷が包み込む。
 ここからは――全力だ。手にした剣を強く握り直し、地を蹴って一気に詰め寄る。
 振り下ろした剣を空は軽々と受け止め、即座に魔法陣が浮かび上がる。
 今の僕なら余裕で避けられる。直ぐに飛び上がり、漆黒の矢を回避する。

「〈雷霆万鈞らいていばんきん〉!!」

 前方一帯へ向けて、広がる雷を一気に放つ。
 幾重にも枝分かれた雷の束が、逃げ場すら与えずに奔る。
 これは避けられない。

「ぐぅぉおお!」

 当たった!
 空は悲鳴を上げながら、幾つもの魔法陣を展開――放たれる魔法はどれも狙いが甘く、明後日の方角へ飛んでいく。
 体が痺れているんだ。このまま一気に――。

 ◆

「な、なんで⋯⋯」

 消え入りそうな声で、何とかそう呟いた。
 きっと僕は驚いた顔をして、男を見ているのだろう。
 あまりの事に、後づさり。その拍子に刺さった剣が胸から抜け。
 ガシャンと、手から零れ落ちた。

 男は口から血を吐きながら。
 前のめりに倒れそうになった。
 それを咄嗟に受け止める。
 受け止めた手の震えが止まらない。

「どうして⋯⋯。なんで、こんなことを⋯⋯」

 ◆

 不意に脳裏を過った、あの光景。
 そうだ。このままいけば、僕は――空を……いや、違う!
 今この瞬間こそが、僕と空の運命を決する岐路なんだ。

 別の道を――僕は選ぶ!!

「〈万雷神解けばんらいかみとけ〉!!」

 幾重にも重なった万雷の閃光が、容赦なく降り注ぐ。

「〈深淵の墓所アビス・グレイヴ〉」

 雷鳴が轟く前に、かすかに声が届いた。
 空の足元に漆黒の魔法陣が浮かび上がり、間髪入れず漆黒の棘が天へと突き出す。
 それはこれまでのものとは異なり、細く鋭く、天を貫くように伸び上がった。
 その刹那、僕の放った雷は、伸びきった棘に吸い寄せられるように直撃した。

 ……そうか。あれは“避雷針”だったのか。
 咄嗟のことに唖然とした僕に、落雷を搔い潜った空が肉薄する。
 ――っ! しまった!

 咄嗟に剣を構え、振り下ろされる一撃を受け止める。
 軋む腕に力を込め、食い込む刃を弾き返す。

 ――その瞬間。
 どうして、僕はあんな行動を取ってしまったんだ。
 空を拒むように、無意識に剣を突き出していた。

 その時――確かに聞こえた。

「〈盲目ブラインド〉」

 視界が黒く染まり。

 手に握った剣から、“確かな感触”がじわりと伝わってきた。

 黒く染まる視界が晴れ、映し出された光景は。

 僕の心を絶望の色に染上げた。
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