ロイヤルウィッチ

乳酸菌

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第一王子 × 黒の魔力保持者

episode 001 : 「 リーウェンは甘いの好き? 」

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ぽかぽかの天気。ロイヤルウィッチの庭のお気に入り場所、図書館裏の小川が流れている丘に横になる。

僕はみんなみたいにきらきらしていないから…、この辺にいるのが妥当。

幼い頃から紋章が現れて、力の暴走が絶えなかった僕は早いうちに施設に棄てられ、施設からも追い出され、ロイヤルウィッチに流れ着いた。まだ歳にして5歳にも満たない頃、僕はここに来て10年の時を過ごした。

黒の魔力保持者は只でさえ忌み嫌われるというのに、容姿も秀でてなくて、友達さえいない。

唯一ここで話すのは、僕に魔力制御を教えてくれた、図書館の司書であり、魔力保持者最高位の " 知 " を持つ、先生と呼んでる人ぐらい。
先生といる時だけ、時間がゆっくりに感じられる。大好きな先生だ。

借りてきた本を寝転びながら読んでいたら、いつの間にか僕は夢の中にいた。


「 せんせえ、どうしてぼくだけ、まっくろなの?みぃんなきらきらしているのに、どうして? 」

先生は困った顔をしていた。
ああ、先生はあの時、なんて言ったんだっけ…?


髪の毛が流れている気がして、ふと目が覚める。
ぼやける視界で見えたのは、きらきら。

目元が撫でられ、甘い匂い。
砂糖みたいな美味しそうな匂い。


「 ん…きらきら…、う… 」
「 あ、起こしてしまったかな…?こんなところで寝ていると風邪を引いてしまうよ 」


きらきらが溶けて見えたのは、優しげな顔つきのお兄さん。
ゆっくり起き上がろうとすると、さりげなく背に手を当てて補助してくれる。やっぱり優しい…。
ふさっと肩から膝に落ちたのは、真っ白で金の刺繍が入ったローブ。

わ、わ、これって貴族とか位の高い方のだよね!?たぶん…きっとそう!

汚れが付いてないのを確認して皺にならないように畳み、頭を下げてお返しする。


「 よご、れは…ついてないと…!あの、すみませ… 」
「 ああ、丁寧にありがとう。君は、魔力保持者かな…? 」


綺麗に笑いながら問われ、白が似合うこの人に、僕なんかが…、いけないと思い、勢いよく頭を下げてその場から逃げた。
借りている寮の部屋に戻るなり、靴も脱がぬまま膝をついてその場にへたりこんだ。

走ったどきどきの他に、なんか、暖かい陽だまりのような気持ちが飛んでいる。
あの人の優しい笑顔、きらきらしてたなあ…。


何故かそれからというもの、行く先々で、彼に出会う。最初こそは僕如きに…と思っていたけれど、いつもあの笑顔で話しかけてくれる彼に、絆されたみたいだ。
誰もいない所でなら、と何度か、少しだけお話をするようになった。


「 リーウェンは甘いの好き? 」


不思議なんだ…。
彼が僕の名を呼ぶとき、とても優しく聞こえる。


「 あ、う、うん。すき… イヴは? 」
「 僕はあまり得意でなくてね。良ければこれ、もらってくれるかな?…気に入ってもらえると嬉しい。 」


そう言って渡してくれたのは、手のひらより少し大きめの長方形の箱。
ちらっとイヴを見れば、微笑みながら箱の紐を解いてくれた。

中身はどうやら、チョコレートのようだ。
綺麗に装飾され、どれもきらきら輝いて見えた。

でも、これ、絶対高価なものだ…。
僕なんかがもらっていいものじゃないよね…?


「 う、れしいけど…、あの、もったいないから… 」
「 うん。もったいないからもらって欲しいな。僕は食べれないし、それともチョコレートは嫌い? 」


はっとしてぶんぶん頭を振るう。
イヴは笑って僕の頭を撫で、チョコレートをひとつ摘み、僕の口に運んだ。


「 はい、どうぞ 」


そういうや否や、唇に押し当ててくるので、そのまま頂く。
口に入れた瞬間に広がる甘さと香りに、思わず声をあげてしまう。なにこれ…!こんなの食べたことない…!


「 …美味しい……っ! 」
「 ふふ、良かった。……うわ、甘いね 」


味わって食べていると、イヴはチョコレートを持っていた指先を、少し舐める。

そのまま流し目で僕に、 「 美味しい? 」 なんて聞いてくるなんて、ずるいと思う。
何故か身体が熱くなるのがわかって、たぶん、顔も赤いと思う。ただただ、恥ずかしい。


「 さて、そろそろ帰ろうかな?本当は寮まで送っていきたいけど…、気を付けて帰るんだよ? 」
「 う、うん…。……んっ 」


頭にぽんっと置かれた手は、そのまま滑って、僕の耳に。形を確かめるかのように、そのまま撫でられ、背中に変なのがぞわぞわした。
別れのときにいつもする、恒例の挨拶みたいなものなんだけれど、恥ずかしいからやめてほしい。

イヴは笑って、その場を去った。

いつもなら、熱が冷めるまでそこでゆっくりしているんだけど、今日はどうやら違うらしい。

幸せな気持ちで、手のひらに残るチョコレートを見る。
後は部屋に帰ってから、少しずつ食べよう。

そんなことを考えていたら、ばしゃっと音がして、いつの間にか僕はびしょ濡れだった。
頭が理解出来ずに、なんとなしにチョコレートを見れば、水浸しになっていた。自分よりもそれがショックで、言葉が何も出ない。


「 ねえ、黒持ちがイヴェント様とご一緒するなんて、身の程を知れば? 」
「 イヴェント様が呪われてしまうよ 」
「 お優しいから勘違いしてるんじゃない? 」


後ろを見れば、3人の魔力保持者が立って、真ん中の子がバケツを持っていた。


「 イヴェント…さま…? 」

「 知らない顔しても無駄だよ!!僕たちはずっと見てたんだからね!? 」
「 黒持ちにまでお優しいなんて… 」
「 なんでこの国の第一王子と黒持ちが…!」



もしかしてイヴのこと?
第一王子ってなんのこと…?
わからなくて、寒さなのかなんなのか、ずっと震えが止まらない。こわい、こわい…。


「 僕を!無視するな…! 」


大きな声にはっと顔をあげると、真ん中の彼がバケツを振り上げていた。ぎゅっと目を瞑る。
ばこんっと鈍い音がしたが、僕はあの香りと、暖かな何かに包まれていた。

静かに目を開けると、きらきらの少し長めの金色の髪の毛が見えた。


「 …イ、ヴ 」
「 怪我はない?それよりも寒そうだ。これ羽織って。 」


そう言って着ていた白のローブを僕に着させてくれた。
でも、これ絶対高価なもの…。いやいやとなんとか脱ごうとすれば、耳に手を当てられて、びくっと止まる。


「 いいこ…。ちょっと待っててね 」


耳元で囁かられ、温もりが離れる。
あれ?そういえばバケツ…!

バケツは小川の方に飛んでいた。
守ってくれ、た…?
寒いはずなのに、また、熱くなってきた。

イヴを見れば、3人となにやら話している様子。なんか、イヴの背後に龍が見えるのは気のせいかな…ちょっとこわい。


「 ん、ごめんね。忘れ物をして、戻った来て良かったよ。 」


話し合いが終わったのか、イヴが僕を腕に引き寄せながら耳元で話す。
ぞわっと何か走って、逃げるように顔をあげた瞬間、真ん中の子が僕を睨むように、その場を後にするのが見えて、思わずイヴの腕をぎゅっとする。


「 うん?どうしたの? 」
「 う、ううん…、忘れものって…? 」
「 ああ、次、会う約束…忘れていたから。 」


次、会う約束…。
その為に戻ってきてくれたんだ…。

あっ、でも…!


「 お、王子様って、知らなくて、あの、ごめんなさい…。イヴェントさま、やっぱり僕なんかが…! 」
「 イヴ。イヴって呼んで?それに、関係ないよ。僕は君に会いたくて、会いに来ているんだ。リーウェンは?リーウェンは、僕なんか、どうでもいい?」


いきなり低くなった声と、纏う空気が冷えて、怖さで震える。なんて言ったらいいかわからなくて、怖くて、身体を押し返す。
そうしたら、更に刺すような空気になって、息し辛くなる。


「 イヴェント様、リーウェン様が怯えてらっしゃいます。覇気をお緩めください。 」
「 お前如きがリーウェンの名を呼ぶな 」


どこからか、落ち着いた声が聞こえる。そして、イヴから聞いたこともない低い声。


「 …イヴ、あの、ごめんなさい。イヴ…? 」
「 リーウェン、ごめんね。騙していたわけではない。身分を明かしたら、リーウェンが逃げてしまう気がして。 」


纏う空気がすっとなくなり、いつもの温かいものになった。

確かに、イヴと話せるようになったのも、王族と知っていたら、僕は怖くて逃げ出していたと思う。
そんなことを考えていたら、耳筋を触りながら、顔中に唇を当ててくる。

イヴから香る匂いが強くなって、甘くて、身体に響いてくる。ぞわぞわが、ずっと…。


「 はっ、やっ、…イ、ヴ…。やっ、ねえ…! 」
「 リーウェン。ねえ、僕のこと嫌い?僕はずっと待っていたんだ。でも、あんなことになって、リーウェンが僕から離れるなら、我慢出来ない。」
「 あ、ん……、はっ、ふ 」


香りが、頭…くらくらする。


「 …イヴェント様。こうが強すぎます。リー…、セリス様がお困りのようです。 」


また彼の声。少しだけ他者がいると思うと、気持ちが違う。そして僕のラストネームまで知ってる…。あっそうか、王族だもん、わかるよね。
なんて、ふわふわした頭で考える。

名残惜しそうに最後に耳に唇を落とされ、香りもいつも通りに、身体を離す。

まだ、なんか残ってる…、あつい…。


「 ねえ、リーウェン。僕は君を愛してるよ。 」
「 イヴ…。でも、王族は、紋章が… 」


くすっと笑って、イヴは長い髪をかきあげ、耳の後ろを見せる。そこには、見覚えのある、紋章。
そう、イヴがいつも触る、僕の耳…。

思わず、確認するように、自分の耳を触る。


「 でも、そんなの関係なく、好きなんだ。ここで、寝ていた、あの時から… 」
「 …イヴ 」


我慢、しなくていい?
僕も、抱きついていいのかな?

何故か泣きそうに、イヴを見つめれば、あの優しい笑顔で腕を広げてくれている。
ゆっくり、ゆっくり、背中に手を回して、ぎゅうっと抱きつく。あったかくて、安心する場所。


「 リーウェン… 」
「 イヴ、だいすき 」


episode 001 「 リーウェンは甘いの好き? 」



 
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