11 / 31
11 黒髪美少年
しおりを挟む「アヤちゃん、リンネちゃんって子、知ってるんだよね?」
おばさんが部屋から出て行った途端、類がいきなり本題を切り出した。
「はぁ? なによいきなり。リンネって……ずいぶん懐かしい名前ね」
「凛音くん、リンネちゃんの生まれ変わりなんだってさ」
さっきの礼香のこともあるので、今回はオブラートに包みながらリンネの家のことだけ聞き出そうと思っていた凛音が固まる。
「……ほうほう、ちょっと待って。そういう設定? でもダメよ! 私は女だから、あなたとは付き合えない! あなたにはもっと相応しい男がいるはず……!」
いきなり芝居がかった口調で綾子は言い出した。
どうしよう。家もおばさんも全然変わっていないと思ったのに、綾子だけは変わってしまったらしい。
どう反応していいのかわからない。
「大丈夫だよ、アヤちゃん。凛音くんにはもういい感じの男がいるみたいだから」
綾子のこのテンションに慣れているらしい類は、さらりと言い出した。
「なんですって!? 詳しく聞かせなさい!」
三人で囲むには小さすぎるミニテーブルの前に、類と凛音は座らされることになった。
「相手は誰!? 同級生? 学校の先生!?」
同級生はともかく、学校の先生はまずい気がする。犯罪だ。その発想はどうなんだろう。
「いや、オレのスイミングスクールの先生。本業は選手の方みたいだけど」
「やばい。かなり年上じゃない。その人、何歳なの?」
「大学生だから……えっと、アヤちゃんの元同級生っていってたし、アヤちゃんと同い年じゃないかな」
「……まさか、森倉愁じゃないわよね?」
目に見えて、綾子のテンションが下がっていくのがわかった。
「森倉先生だよ」
類が答えると、綾子は深いため息を吐き出した。
「ダメよあの朴念仁は。恋愛とか向いてないわ。諦めなさい」
「ぼくねんじんってなに?」
「そっか、小学生にはまだわからないか。えーと……なんだっけ?」
自分で言い出しておいて説明が思いつかなかったのか、綾子はスマホの画面をポチポチ押して検索している。
「朴念仁……無口で愛想がない人。頑固で物の道理のわからない人……? お喋りではないけど別に無口ってほどではないわね。陽気ではないけど愛想がないってほどでもないし……あれ?」
「アヤちゃん、大学まで行ってなに勉強してるの?」
呆れた類は、小馬鹿にした口調で言う。
「うるさいわね、小学生! ニュアンスの問題よ!」
「ニュアンスって?」
「とにかく! あいつは恋愛不適合者だから! 落とすのは困難よ! 水泳と、死んだ女の子にしか興味ないやつだから!」
「死んだ女の子って……来栖リンネ?」
「そうよ。いや、でも待って。リンネの生まれ変わりっていう設定ならアリよね!? ていうかあんたたち、どこからリンネのこと聞いて……」
「……僕の名前は黒崎凛音。来栖リンネは、前世の名前だよ。……なんて急に言い出しても、信じてもらえないよね?」
意を決して、リンネは口を開いた。
すると、綾子は目を丸くする。
「ほんとに……!? ていうか君、声がリンネにそっくり……!?」
とんでもないことに気づいた、とばかりに綾子は両手で口元を覆う。
「あいつまさか、好きだった女の子と声がそっくりだっていう理由で小学生の男の子をたぶらかして……さ、最高……いや最低……! だめよ、ここは二次元の世界じゃないんだから!」
綾子はなにやら葛藤をはじめた様子で、自分の頭を抱えこんでいる。
いけない、このままでは礼香の時と同様、愁が変態扱いされてしまう。
「あ、アヤ……! 昔、スズメくんって名前の赤い髪の男の子が好きで、フィギュアがほしいけど高くて買えない、っていって、中古ショップのディスプレイケースにしょっちゅう張りついてたよね? お年玉もらったら買うって言ってたけど、買えた……? あの漫画、まだ連載続いてるの……?」
綾子に会ったことで蘇ってきた記憶をかき集めて、凛音は必死に言葉を紡いだ。
この話は、ごく一部の友人たちしか知らない話のはずだ。
「……なんでこの子がスズメくんのこと……」
呆然とした様子で、綾子は類の顔を見る。
類は即座に首を横に振った。
「オレは知らねーし。アヤちゃん、そんな人形持ってたっけ?」
「……カリスマストームのスズメくんは……私が小学生だった頃に流行ってた少年漫画で……アニメ化もされグッズもたくさん出たけど……私が中学一年の時に原作が完結」
静かに語りながら綾子は立ち上がると、押し入れをすっとあける。
「そのあと私は別の漫画にハマって、スズメくんのグッズはほとんどしまいこんでしまったわ」
押し入れの上半分は布団で、下半分には、ダンボール箱がいくつも収納されている。
手前のダンボールをいくつか出してから、綾子はようやく、奥にあった衣装ケースを取り出す。
大きな衣装ケースには漫画やアニメのグッズらしきものがたくさん詰め込まれているのが、半透明のケース越しでもわかった。
綾子は蓋を開けて、上に並んだぬいぐるみをどけてから、下の箱を取り出した。
「フィギュア、ちゃんとお年玉で買えたわよ! それもね、未開封のエクストラカラー版!」
にっこり笑って、綾子はフィギュアの箱を見せてくれた。
「私が中古ショップを見に行きたいと言うと、他のみんなはチラッと覗いただけですぐに隣のゲーセンに行ってしまうことがほとんどだったけど、私についてきてニコニコしながら私の話をいつも聞いてくれたのは、リンネだけだった。あなたは来栖リンネね!?」
決め台詞さながら、ビシッと凛音を指さしながら、綾子は高らかに宣言した。
「あ、アヤ~!」
信じてくれたことが嬉しくて、凛音は思わず綾子に抱きついてしまう。
「お、おう……私、黒髪美少年に抱きつかれてる……夢!?」
「アヤちゃん、気持ち悪い顔してるぞ」
「ごめんごめん。また会えて嬉しいよ、リンネ」
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる