来世で会おうと君は言った

詩条夏葵

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27 シュウ

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 今日、自分の葬式に出る夢を見た。
 ママに言ったら、『三十九度ぐらいの熱で、おおげさよ』と笑われた。
 綺麗で美人なママ。
 私と同じ髪と目の色をしていて、それでいていつも堂々としている、大好きなママ。

 ママが心配するから、吐き気をこらえながらなんとかおかゆを食べて、ふらつく脚をふるい立たせて一人でトイレにも行った。

 本当は知ってる。
 私はなにかの病気で、七歳まで生きられないかもしれない、って生まれてすぐの時に言われたことを。
 手術して私は七歳までに死ななくてよくなったけど、それでも慣れない場所に行ったり、疲れたりするだけで、毎回のように熱を出した。

 この間、四十度の熱を出した時は救急車を呼ばれた。

 死は、いつだって私に近い場所にあった。

 ある日、絵本を読み飽きて、パパの部屋にある本を読んでほしいと言ったら、パパは日本の神話の本を持ってきた。
 遙か昔にこの国にいたらしい、神様の話。
 その中の一つに、イザナキとイザナミの話があった。

 亡くなった大好きな奥さんを追いかけて黄泉の国までいった、イザナキの話。
 黄泉の国って、生きてるひとでも行けるんだ、と私はびっくりした。
 それとも、神様だから特別なんだろうか?

 とんでもないラブストーリーかと思って聞いていたら、イザナキが約束を破った挙げ句に奥さんの変わり果てた姿を見て逃げ出したという話になって、ガッカリした。

「じゃあ、イザナキがその黄泉の国と生の国にあった出入り口を岩で塞がなかったら、私たちは今でも生きたまま黄泉の国に行けたの?」
 ベッドで本を覗き込むながらそう聞くと、パパはおもしろそうに笑っていた。
「そうかもしれないね。でも、死んだ人と生きた人はずっと一緒にはいられないってことを、イザナキとイザナミは証明してくれたから、その岩は必要なものなんじゃないかな」


 そんな話をした数日後、幼稚園に行ったら、いつも元気なシュウちゃんがやけに静かだから、どうしたの、と聞いたら、「飼っていたインコが死んだんだ」と教えてくれた。
 その日の帰り、ママに頼み込んで、シュウちゃんの家に寄らせてもらうことになった。

 水色のインコは、真っ白なタオルの上で、冷たくなっていた。

 インコを部屋で放し飼いにしたまま遊んでいたら、おもちゃの滑り台から飛び降りた拍子に、インコを踏んづけて殺してしまったらしい。
 踏み殺されたとは思えないくらい綺麗な姿で、インコは静かに横たわっている。
 私にインコが死んだいきさつを話している間に、シュウちゃんはぽろぽろ泣き出していた。
 幼稚園で、乱暴な子に殴られても平然としていたシュウちゃんが泣く姿を見るのは、これがはじめてのことだった。

「……インコ、お墓に埋めないの?」
「埋めたら、お別れしなくちゃいけないから」
 鼻をすすりながら言うシュウちゃんの横で、「この子、インコの死体を枕元に置いて寝てるのよ。ぬいぐるみみたいに扱われても困るんだけどねぇ」とシュウちゃんのママが眉尻を下げながら顔で言う。

 埋めたら、インコは黄泉の国に行ってしまうんだろうか。
 でももう死んでるなら、体だけ残して黄泉の国に行ってしまっているんじゃないだろうか。
 インコの死体からは、かすかに腐臭がした。

 きっと埋めてあげた方がいいんだろう、と私は思ったけど、手放したくないと強く願うシュウちゃんの気持ちが伝わってきて、それ以上なにも言えずに帰宅した。

 その日は、私はパパが帰ってくるまでがんばって起きていた。
「死んだ人や……動物とまた会える方法は、絶対にないの!?」
 おかえりなさいを言うのも忘れて、玄関でいきなりそう聞いた私に、パパは優しく笑ってくれた。

「リンネ、仏教の教えの中で、輪廻転生という言葉がある」
「りんね……てんしょう……?」

「車輪がぐるぐる回るように……生と死が繰り返されることだ」
「死んじゃったらそこで終わりじゃないの?」
 部屋へと入っていくパパの背中を追いかけて、私は聞いた。

「そこで終わる、という考え方もある。でもパパは、人が何度も生死を繰り返して新しい生命に生まれ変わるという考え方が好きだから、きみに『リンネ』という名前をつけた」
「わたしの……名前……?」
「素敵な響きだと思わないか?」
 にっこり笑ったパパは、私に一冊の本を手渡してくれた。

 それは、パパがいつも読んでいる難しい専門書ではなく、小説のようだった。
「まだリンネには難しいかもしれない。読めるようになったら、いつか読んでくれ」
 分厚いハードカバーの小説だった。
 ページを開いたら、私にはまだ読めない文字がたくさん並んでいる。
「は……と……?」
 眉根を寄せて、かろうじて知っているひらがなだけを抜き出して読んでいたら、パパはくすくす笑った。
「その本はリンネにあげるよ」

 その日は、本の表紙の絵を撫でながら眠った。
 表紙には、一人の少年と大きな満月が描かれていた。

 次の日、幼稚園に行ったら、シュウちゃんが目を赤くしながら登園してきた。
 どうしたの、と声をかけたところ、「ママとケンカした」という。
 どうやら、死んだインコを埋めるようママに言われて、嫌だと主張したら怒られたらしい。

「あのね……シュウちゃん……シュウちゃん、生まれ変わり、って知ってる?」
「……生まれ、変わり?」
「生き物は死んだらそこで終わりじゃない。死後の世界に行って、次に生まれるための準備をするんだよ」
 パパからの受け売りをたどたどしい口調で語る私の言葉を、シュウちゃんはすぐに理解できないようだった。

「つまり、どういうこと?」
「ぴーちゃんを、ちゃんと土に埋めて、とむらってあげよう! ぴーちゃん、そのままじゃ、天国に行けないよ」
「……っ」
「大丈夫、死んでも生まれ変われるから! きっとまたシュウちゃんに会いにきてくれるよ!」
 私が珍しく大きな声を出していたからか、気になったらしい先生が覗き込んできた。

「そうねぇ。それに、生き物はみんな、土から生まれて土に還る、って言葉もあるわ。ぴーちゃんの体は、埋めたあと土に還って、他の微生物や植物を生かすための養分になるんじゃないかな」
「それも、りんねてんしょー?」
 先生の言葉に、私は首を傾げながら聞く。
「ううん、それは、自然の循環、かしら? 輪廻転生かぁ、リンネちゃん難しい言葉知ってるのね」
「うん、だって、リンネの名前の由来だっていうから」
 つい昨日知ったばかりのことだけど、私は得意げに胸を張って答えた。

「リンネの名前の……由来?」
 下唇を噛んでずっと俯いていたシュウちゃんが、そこでようやく興味を引かれたように顔を上げる。
「うん! 生と死は、ぐるぐるとずっとめぐってるんだって! だから、たとえばリンネが死んでも、また新しく生まれることができるんだよ! その時は、ぜったい、シュウちゃんにまた会いにくるね!」
「ば、ばか……かんたんに、死ぬとか言うなよ……」
 拳にした手で目元を拭うシュウちゃんの顔は、ほんのりと赤くなっていた。

「…………わかった。帰ったら、ちゃんと埋めるよ」
「私も手伝っていい?」
「リンネも?」
「うん! 立派なおはか、つくろう!」
「おはか……そうだな……」

 その日、幼稚園が終わったあと、庭で大きな石を探して、シュウちゃんが油性ペンで『ぴーちゃんのはか』と書き込んだ。
 ちゃんとしたお墓の文字に比べれば下手くそな字だったけど、私よりは上手な字で、なんかいいなぁ、とこっそり思った。


 パパからもらった本が読めるようになったのは、小学校二年生ぐらいの時だった。
 それまではずっと、表紙の絵を眺めて、どんな話なんだろうと想像を膨らませていた。


 物語の内容は――どんなだったっけ?
 あれ、おかしいな。
 何度も何度も読み返した大好きなお話だったはずなのに、思い出せない。
 本のタイトルも。

 潮風に吹かれながら、凛音は打ち寄せてはまた返す波を見つめて答えを探してみるけど、海は答えてくれない。

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