The ミリオネア 〜億万長者を創る方法〜

一 千之助

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 今日のブギーマン



「あの人達、大丈夫だったかな?」

「さあ?」

 再び部屋に戻された毅達は、抱き合うようにベッドに凭れて座っていた。

 あの時二人は、最下位になった者らが無理やり回収されていくのを目撃する。
 悲鳴に近い大声を上げて連れていかれるカップル。
 それを凍った眼で見送る二人の耳に、またもやアナウンスが聞こえた。

《最下位のお二方は売りにかけられます。かかった費用を回収せねばなりませんのでね。まあ、最初なのでこうなりましたが、今後は一ヶ月のトータルで最下位を決める予定です。皆様、こう御期待くださいっ!!》

 一ヶ月に一組脱落…… つまり、期間としては二年くらいか。

 現実離れしたショーのような空間が真っ暗になり、各自部屋へ戻るよう指示があったため、今はこうして寄り添っていた。

「私達どうなっちゃうのかな?」

 涙声な円香の頭を片手で抱き寄せ、毅も油断すれば挫けそうな己を奮い立たせる。

「わからない。でも、円香を守るよ。俺に出来る事なら何でもやるから」

 あのアナウンスの内容から察しただけでも、とんでもない状況のようだ。
 フィストファックとか平気でお題のルーレットに入れようとする奴等が相手なのだから。

 しかも一千二百万もの投げ銭。

 これを御布施と称して出す連中の考える事など、想像もしたくない。
 単純に視聴者が多いだけではあるまい。金に飽かせてスリルや興奮を買う、それだけの財力がある奴等が観客なのは間違いない。
 ただ調教を楽しむわけではなく、嫌がる人を無理やり従わせて、やらせる悪辣さ。
 追い詰めて平伏させる事を心から楽しんでいる。

 毅がギリリと奥歯を噛み締めた時、檻の扉の向こうにライトが点いた。

 はっと顔を強ばらせた二人の前に、シルクハットを被った派手な男が現れる。
 片側は真っ黒で、もう片側は市松模様の燕尾服。帽子も斜めにラインが入り、同じようにデザインされていた。
 ダーツの的のみたいなコインに矢を貫通させた紋章のボウタイをしめ、尖ったエナメルの靴で一歩づつ歩いてくる誰か。
 如何にもエンターテイナーな艶姿。そして近寄ってきたその顔には一枚の仮面。
 ピタリと張り付くデザインのそれは、鼻から上全面をおおっていた。
 星と涙のラメやクリスタルが雅やかで、一瞬、毅はサーカスにでも迷い込んだような気分になる。

 彼は部屋に入ると帽子を脱ぎ、胸に当てて仰々しく頭を下げた。

「今宵は見事なパフォーマンス、ありがとうございます」

「その声はっ?!」

 ショーのアナウンスの声だ。

 男性だと思われる人物は、ニヤリと不均等に口角を上げる。

「わたくし、このイベントを主催する..... そうですね、ブギーマンとでもしておきましょう。今宵の賞金の内訳説明とこれからの生活に関する注意に参りました」

「.....生活?」

「その通り。あなた方の素行を調査し、身体的な純潔を確認し、拉致してここに住まわせる。実に膨大な費用がかかっておりまして♪」

 言ってる意味は分かるが、理解が出来ない。

 そこにあるべき毅らの意思や人権は、どこへいった?

 無論、そんなモノはある訳ないとばかりに、ブギーマンは然も愉快げな眼差しで二人を見つめた。

「まあ、まずは金銭問題。ここはちゃんとしておかないと、後々のトラブルになりますから♪」

 すでに大トラブルの渦中だろっと毅は突っ込みたいが、取り敢えずは素直に聞いておく事にした。

 今は少しでも情報が欲しい。

 そして聞いた彼の話によれば、各カップルにかかった費用は約二千万。一人あたり一千万。
 これらを賞金で払えるならば、己の身を買い戻せるらしい。

「売っても二束三文なんて事もありますしね。幸い今回の最下位二人は純潔だったため、好事家に高く売れましたが」

 毅達の顔が強ばる。

「ゲームが進むにつれ傷物にもなります。ここからは個人的な高値は見込めません。賞金を稼いでおかないと..... まあ、無理やり付加価値をつけて売る事になります」

「付加価値.....?」

「女性なら四肢を切り落として、達磨女とかにすると、バカ高く売れるんですよ♪」

 にやぁ~っと歪に歪むブギーマンの顔。

 ひっと小さな悲鳴が円香から上がる。

「しかし、わたくしも鬼ではないのでね。キチンと費用を払っていただけるのであれば問題はないです、うん。なので賞金の内訳を御話しします」

 そういってされた説明によれば、賞金の八割はブギーマンが徴収。残り二割が毅らのモノになる。

 とんだピンハネだが、そうやって莫大な儲けにならないのなら、こんな大掛かりな真似をしないだろう。

「で、そこ。カウンターにある数字が、今のあなた方の所持金です。それを使って、ここで生活してくださいね」

 言われて視線を振ると、そこには液晶メーターのようなモノがあり、二百ちょいの数字が出されていた。

「光熱費などの面倒はみます。食事などは自分で賄ってください。これは個人によって差があるし、お金を貯めたいなら粗食で頑張るとかを応援したいですから」

 ブギーマンの手に、ぴっと出されたメニューには弁当系や定食系、コース料理からジャンクフードまで各種揃っていた。
 中には単品やサイドメニュー的なモノもある。

「今日の稼ぎが乏しかった人は、そこのオニギリひとつにしてました。涙ぐましいですね♪」

 見ればオニギリ各種、一個二百円。やや高い感じは受けるが暴利と言うほどでもない。

「食事の説明は終わりです。あとはあちらに並んだカタログから好きなモノを購入も出来ます」

 言われて棚を見れば、家電や生活雑貨、他色々なカタログが並んでいた。

「全ては賞金から天引きされます。ゼロにならない限り自由に買い物して過ごせますから」

 毅は訝しげに男性を見た。

 監禁しておいて、自由を与える意味は、賞金をすり減らすためだろう。
 過剰なストレスで散財させ、結局は売りに出す口実を作るために。
 こんなガチ犯罪に手を染めているのだ。被害者達を解放なんてする訳がない。
 自由になれる的な雰囲気にさせて、その実、蟻地獄のように、じっくりと絡め取るつもりに違いないのだ。
 そういった被害者達の葛藤すらも、視聴者らを楽しませるドラマの一つなのかもしれない。

「さ、これで御話は御仕舞いてす。食事でもして、明日に備えてくださいませ♪」

 満面の笑みで、ブギーマンは毅達の前に各食事のメニューを並べた。

「トップを取られたあなた方に、わたくしからの御祝いです。何でも好きなモノを御馳走しますよ?」

 にこにこと宣う男性を胡散臭げに警戒しつつ、それでも食事は必要だろうと毅は円香に眼を向ける。

「円香、何か腹に入れないと」

「食欲ない..... 毅、選んで?」

 言われて毅は、数種のスープとグラタンとドリア。それと温野菜のサラダを頼んだ。

「たったそれだけ? せっかくなのですから、ぱーっとコース料理でも頼んだら良いのに。まあ、無理強いはいたしません。注文用のタブレットで、いくらでも追加して良いですからね? では、わたくしはこれで♪」

 恭しく礼をして退場しようとした男性は、ふと思い出したかのように二人を振り返った。

「そうそう、もう一つ伝え忘れてました」

 軽く指を立ててシルクハットのツバを持ち上げ、にいっと嗤うブギーマン。

「くれぐれも純潔は散らさないように。前も後ろもね。初花は高価ですから、リクエストで売れる場合もあります。せっかくこちらが純潔を調べてから拉致したのを無にされた場合、ペナルティもありますので、お気をつけて♪」

 ぞわりと肌を粟立たせる二人を尻目に、それでは~♪と立ち去る男性。

 届いた食事を突っつきながら、二人は言葉少なに食べた。
 食欲は湧かないが、身体はカロリーを欲していたらしく、それなりの量を食べる毅。
 反面、円香は殆ど食べられずスープを舐める程度である。

「無理しても食べな?」

 毅が匙でスープを掬い、円香の口元へ運んだ。
 それを素直に口に含み、円香はポロポロと泣き出す。

「どうなっちゃうのかなぁ..... 達磨女ってなに? 手足を切り落とすって..... 怖いよ、毅ぃぃぃ」

 毅は匙を置き、あやすように円香を抱き締めて背中を叩いた。

「させないよ、そんな事。だから円香も我慢して? 嫌な事になるかもしれない。俺がするかもしれない。それでも我慢して?」

「する?」

「うん。逆に円香にさせるかもしれない。その時は円香もやるんだ。お題によっては、俺が肩代わり出来るモノもあるだろうから」

 今回のフェラチオは円香にやらせるしかなかった。
 だがお題が口淫とか、イカせるとかであれば、逆に毅がやれたのだ。
 どちらでもやれるお題なら、極力毅がやるつもりである。なるべく円香に負担はかけたくない。
 そのように毅が話すと、円香は真っ赤な顔を俯けて小さく頷いた。

「分かった。.....頑張るね?」

「じゃ、まずは御飯からだな。頑張って?」

 ちゃかすように匙を運ぶ毅に、自分で食べると頬を膨らます円香。
 幼馴染みに可愛らしい仕種が戻り、一安心の毅である。
 本人達は気づいていないが、素晴らしい順応力だった。

 通常、このような異常事態に巻き込まれた被害者らは、極度の恐怖やストレスから食事などとれはしない。
 眠る事もままならずに衰弱していくケースも珍しくはないのだ。

 なのに、この日常感。大枚叩いて選び抜いた二人だけな事はある。

 優秀な捜索員を心の中で誉め讃える男性は、ニヤニヤと愉しげな眼差しで二人の部屋を観察していた。



「.....甘酸っぱいねぇ。これも良いお金になりそうだ♪」

 一人ほくそ笑むブギーマン。

 毅達は知らない。

 その一部始終が視聴者らに流されていて、見聞きされている事を。
 気に入った奴隷達の日常を盗み見るのも有料でサービスされている。

 カチカチと上がる賞金メーターに二人が気がついたのは、疲労困憊で泥のように眠った翌朝だった。
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