明日の彼岸花

河方 杞憂

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初めての再会

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 それから俊哉は仮想現実にいた頃のように時間を潰した。

運ばれてきたいかにも健康そうな昼食を食べ、AIとたわい無い話をしたりニュースやテレビ番組を確認させてもらったりしていた。

たまに歩く練習をしてみたがやはりローガンの説明通り足の筋肉が疲れているようで長くは続かず、またAIとの会話に勤しむことになっていた。
 昼食やテレビを見て気付くことは、仮想現実の世界とそこまで大きく変わったことは無く、日本の家庭的な献立があの世界と変わらず登場したり、美味しそうなハンバーガーやフライドチキンのコマーシャルや俊哉でも面白いと思えるお笑い番組が放映されていたりと特に疑問に思うことはないのだ。
それが俊哉に妙な不気味さを感じさせていた。

と言いながらもやはり200年後の技術力には驚かされた。AIにテレビを見たいと伝えるとAIは俊哉の前の壁に映像を投影させ始めた。それだけでなく、見ていたテレビの中でも会場でホログラムを投影し、その中で解説をする場面もあった。
そんな未来の技術の前に、俊哉は興奮しながら投影されている画面を見ていた。

時間が経ち夕方の17時頃になると近付いてくる二人分の足音が聞こえた。両親である。
「調子はどうだ?俊哉」
「顔色は良さそうね。俊くん」

あぁ、父と母だ。
父はもう少し若々しいと思ったが、二年も会ってないかのように時が過ぎたように感じる。
母は自分が知っていたよりも美しく、目元が乾いていた。
齢が17にもなり、もう両親の前で泣くようなことは無いだろうと強がっていたものの、何もかも失った世界で二人の変わらぬ存在は、彼にとって号哭を促す引き金であった。

それを見た父の目にも光るものがあった。
母には泣くだけの涙がなかったようだ。

ただただ泣いた。顔をクシャクシャにしながら。
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