ファーティング・マシーン

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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Farting machine

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 薄暗い蛍光灯の明かりが照らすその部屋には、大勢の人たちがいた。
 ぼんやりとした明りを受ける者たち、そして――ゲーム機。
 そう、そこはなんてことのない――ただのゲームセンターだった。
 ユーフォーキャッチャーにプリクラ、メダルゲームに対戦ゲームなどの筺体がずらりと並んでいる。
 恐らく、そのほとんどが、新しめな感じの機種だろう。
 種類も数も、ゲーム好きから見ても、申し分のないほどに、そろっていった。
 よっぽど繁盛しているのだろう。
 キャッチ層は二十代から三十、といったところで、インカムをつけたスタッフの服装に、しわは見受けられない。
 清潔感のただよう、大型――とまではいかないが、中型のゲームセンターといった、そんな感じのお店だった。
 と、そんな場所に、一人の女が入ってくる。
 大学生風の女だった。
 髪は長くオシャレな感じに、ほんのり明るい。
 ブラウスにスカートといった、シンプルな服に身を包む彼女は、絨毯の床を歩いていく。
 しかし、彼女はそのまま、ずらりとあるゲーム機を通り抜け、ある扉の前へと向かった。
 それはどうみても、関係者以外立ち入り禁止といった風な扉である。
 一般の人はまず見向きもしないその扉を、彼女はなんの躊躇もなく、おもむろに――開く。
 先には、細長く、薄暗い、重たい空気が流れる廊下が続いている。
 スタッフルームへと続いているのだろうか。
 なんとも雰囲気のある廊下である。
 そんな空間へ足を踏み入れた女は、かつかつとヒールを慣らしながら固い床の上を歩いた。
 そして彼女は、ただまっすぐに進んでいき、その先で――。

「あ、あの……」

 女は少し緊張の混じる声を発する。
 その視線の先には、一台の――ゲーム機ではなく。
 それらしい台の上に――スタッフの制服を着た人物が、上半身だけ出し、怪しげな雰囲気を漂わせて、立っていた。
 恐らく男だろう。
 断定できないのは、顔が見えないからだ。
 彼は頭に――“全方位を覆われた”、透明度のないメットを頭部に被っているのである。
 恐らく彼はいま、何もみえていないのだろう。
 そして、音も聞こえていないのか、部屋に女が入ってきたことにも気付かない様子で、ほんの少しだけ――震えていた。
 恐怖、だろうか。
 興奮ではないことは、間違いないだろう。
 まるで、なにかしらの罰を受けようしているか、そんな感じの震え方である。
 と、女はそこで、おもむろに台の横へと、視線を滑らせた。
 そこには、一枚の張り紙。
 彼女はその張り紙に近づいていくと、それを読み、ふむふむと頷く。
 それから台の方へと目を向けると、

「ここに、お金を入れればいいのね……」

 彼女はそう言って、肩にかけていたバックから財布をとり、そこから100円玉を一枚手にとる。
 そして、台に取り付けられていた小銭サイズの穴へと、そのお金を入れた。
 すると、

『――ご来店、ありがとうございます』

 その声は男の方から発せられた。
 だが、男が発したのではない。
 まるで彼が発したかのように、台に取り付けられていたスピーカーから聞こえてきたのである。

『100円、ということで――一回で、よろしいですか?』

「あ、いや……、どうしよう……。試しに、って感じで……」

 女が答えると、スピーカーからの声は、機械感のあるロボットのような声で――微笑んだ。

『かしこまりました。ちなみに、回数のカウントは、わりと大雑把ですので、硬くならず、お気軽に、ごゆっくりとお楽しみしてください』

「は、はあ……」

『次に、正面のドアですが。時間まで、“外からは”開けられなくなっておりますので、他の方がここへ入ってくることはありません』

「な、なるほど……」

『それから、お客様との不必要な会話のデータは削除させていただきます。“彼”も今、聴力と視力のない状態にありますので、その点に関しましても、配慮させていただいております』

 ざっくりとした説明だった。
 女はそれにたいして、心得ているといった風に納得する。
 というより、“そこらへんのこと”は、あらかじめに知っていたのだろう。
 準備していたかのように、女は頷いた。

『それでは、説明は以上となりますが。ご質問はなにかございますか?』

「い、いえ。ないです……」

『かしこまりました。では、お客様は初回のようなので、会員登録へと移らせていただきます』

 声はそう言って女へ対応する。
 それを受け、女は答えられる範囲で、自己のことを答えた。
 そして――、

『ありがとうございます。会員は以上となります。それでは――夏美様、あちらにドリンクバーなどもございますので、遠慮なく、ごゆっくりとお過ごしください』

「へ? ドリンクって……」

 女――夏美は、意外そうに、部屋の端へと目をやる。
 そこにはまるで、レストランになどあるような、食器、ドリンク、それ以外にも、食べ物なども、綺麗に並べられていた。

「ああ、どうりで……」

 と、たしかに、いい匂いがしていた――と夏美は納得するように頷く。
 ちなみに食べ物だが。
 バイキング形式のようで、肉や――なぜかサツマイモなどや、スイーツなどが並んでいる。
 空調もほどよく効いており、快適に過ごせそうな空間となっていた。

『それでは、受付は以上になります。なにかこざいましたら、部屋の入口の方にある電話から、スタッフにつながりますので、なんなりとお申し付けください』

「はい、わかりました……」

 夏美が返事をすると、ふと、機械音の気配が消える。
 そのことに、夏美はほっと息を吐く。
 受付の際、ほんの少し緊張していたのだろう。
 それから夏美は、室内に、すわり心地の良さそうなソファがあることに気づくと、そこへ向かい、ひとまずといった様子でそこに腰を掛けた。

「さて、どうしようか……」

 そう言って、部屋の最奥にいる台の上の男に目をやると、思案するように呟く。
 それからメットに取り付けられていた――ホースに目をやった。
 ホースの先の口は、扇状に広がっている。
 まるでそこから、何かを中に送り込むような形だ。
 おそらく――気体。
 空気系の――何かを、通すのだろう。
 夏美はその使い方を知っている様子で、そのホースをじっくりと眺め、なぜか――ごくり、と喉を鳴らすと、

「いや……、少し気疲れしたし。もう少しゆっくりしてからにしよう……」

 夏美はすわり心地のいいソファに深々と体重を預けながら、ドリンクバーの方へと視線を向ける。

「っていうか、100円でこれは……、利益ないでしょ……。なんか、色々と胡散臭いけど……」

 少し眉を顰める夏見。
 だが、まあいっか――と、気を取り直す。

「とりあえず、食事は済ませてきちゃったし。飲み物と、甘いものだけでも、もらっとこっかな……」

 夏美はそう言って、ソファから移動する。
 それから――しばらくして。

 夏美は、部屋の最奥にある台の前へと向かった。
 彼女は、スタッフのメットからの伸びるホースを手にとると、

「よーし、それじゃあ……。って、いざやってみようって思うと、なんだか緊張してきちゃうな……」

 夏美はそう言いながら、おずおずと、ホースの入口を――お尻にあてる。

「おーい。本当に、聞こえてないの?」

 夏美は言うが、メットのスタッフは、一切の反応を返さない。

「ねえ。何も言わないと、ホースの中に――おなら、しちゃうよ?」

 とんでもないことを言い出す夏美。
 しかし、メットのスタッフはやはり、なんの反応も返さなかった。
 眠っているわけではないようだが、夏見の存在にすら、気づいていない様子である。

「ふーん……。む、無視するんだ?」

 聞こえていないのは理解しつつも、夏美は続けて言う。

「い、いいの? メットの中、大変なことになっちゃうよー?」

 少し芝居がかった、ぎこちない口調。

「わ、私のって、凄く強烈だから……。ずっと、こ、コンプレックスだったんだけどね……」

 声が少し震えているのは、恥ずかしさのせいだけではないだろう。

「そんなの、人に嗅がせちゃ駄目だよね?」

 夏見は頬を少しだけ火照らせて問う。

「返答がないってことは、嗅がせてもいいってこと?」

 なぜ、そんな反応になるのかは、

「ねえ? ……やっちゃうよ?」

 本人にしか、わからない。

「……後悔しても、もう許してあげないから」

 要は、性癖というのは――色々、なのである。

「それじゃあ、はじめちゃうからね……。はい。さん、にい、いち――」

 ~ ぶっ――ぶううぅぅううぅぅううぅぅ

 と――夏美の尻から、音鳴る。
 途端、

「……!? ……!?」

 突然暴れだす、メットのスタッフ。
 だが、台はびくともせず。
 よほど硬い素材が台に使われいてるのか、揺れているのは男の身体だけであった。
 そのスタッフの反応に、夏美は驚いたように目を見開き、すぐに平静を取り戻す。

「急に元気になっちゃって……、どうかしたの?」

 夏美はわざとらしく訊きながら、念のためにとポケットに用意していた100円玉を取り出し、機械の中に投入する。
 そして、再びホースの入口をしっかりとお尻でふさぐと、

「ふふっ……」

  ~ すううぅぅううぅぅううぅぅ

 すかしっ屁。
 彼女は小さく笑みを浮かべながら、にごった空気を、再びスタッフがかぶっているメットへと流し込んだ。

「……!? ……!?」

 暴れるメットのスタッフ。
 しかし、頑丈すぎる台に音は吸収され、声も、何かに遮音されているようで、場は静かだ。
 そんななか、必死で助けを呼ぶような動きを見せるスタッフ。
 だが――ちゃりん、と夏美は台に100円を入れると、

「ほら。お金、払ってるんだから。ちゃんとして」

  ~ むすううぅぅううぅぅ――

「あれ? 動かなくなっちゃった……」

 ~ ぶぶぼおっ!?

「だめだ……。しかたがない。――これで最後にしよう」

 ~ すかああぁぁああぁぁああ……。

 と――そんなこんながあり。
 スタッフの動きが完全に停止したのをきっかけに、どうやら夏美は満足したようだ。
 そうして――夏美はソファで一休みをしたあと。

「はあ……。なんでこんなのに、500円も使っちゃったんだろ……。まあ、アイスとか美味しかったし、それを思えば……。いや、まあ。うーん……」

 彼女はぼやくように言いながら、部屋を立ち去ったのだった。

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