『下品注意』泡沫の熱

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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壊れた日常

【02】――一方的な知り合い

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 視界がくらくらする。おならという気体が、ここまで強烈だとは。と、この現象がおき始めてから、何度嗅いだかもわからないが、わりと頻繁に、驚かされることがある。
 まあ、おならが臭い、だなんてことは嗅がなくてもわかるが、こうして嗅ぐはめになって、改めて思い知らされたような気分だ。そうして、僕は鼻と脳へのしかかるような、卵臭さのある重みに吐き気を覚えならがら、

「どうしてこんな目に……」

 その理不尽に対して、少しだけ泣きそうになりながら、僕はコンビニのほうへと向かい、路地から恐る恐る顔を出した。すると、先ほどの二人組みが、コンビニから立ち去っていくのが見え、

「よかった……」

 店員は僕が店内に入ってきたことに気づくと、少し焦ったように、はっとした顔を浮かべ、表情を切り替えた。その様子に、僕はやれやれと、心中で苦笑いを浮べる。普段、よっぽど忙しいのか、彼はいつも眠そうにしていて、今もうとうととしていたらしい。そんな姿に、だらしないなと思うのがほとんどだろうが。僕としては、頑張れと思いつつ――自らを省みて、少しだけ凹んでしまうな複雑な気分になった。
 この時間であれば、そうそう客はいない。だからこそ、僕はこの時間帯を狙って、店へきたのだ。加えて、この店の夜勤の店員は大抵同じ――男の人で、今日も同じ人が働いているのを確認すると、僕はほっと息を吐いた。なぜなら、『あの現象』は――男は条件に当てはまらないからだ。

「……ぁ、いらっしゃいませ」

 店員は僕が店内に入ってきたことに気づくと、少し焦ったように、はっとした顔を浮かべ、表情を切り替えた。その様子に、僕はやれやれと、心中で苦笑いを浮べる。普段、よっぽど忙しいのか、彼はいつも眠そうにしていて、今もうとうととしていたらしい。そんな姿に、他の人はたぶん、だらしないなと思うだろうが。僕としては、頑張れと思いつつ――自らを省みて、少しだけ凹んでしまうな複雑な気分になった。
 と、僕はぼんやり考え事をしながら、めぼしいものを入口から持ってきたカゴに入れていき、それをレジへと持っていく。そして、疲れの影をすっかりと隠し、対応する店員さんに、僕は小さくお辞儀をしながら、生意気にも、僕は頑張れと思ったのだった。

 + + + + + +

 買い物を終えた僕は、道中何事もなく自宅のあるマンションへと戻ってきた。近所のコンビニに行くだけだというのに、どっと疲れが足に重さを加えており、僕は溜息をつきながらオートロックの自動ドアを作動させ、中へとはいった。そこで、僕は自分の部屋がある3階へいこうと、階段へ向かおうとしたが、なんとなく気だるさを感じ、やはりエレベータを使うことにした。
 この時間だったら、利用者はほとんどいない。人と出くわすことはそうそうないだろう。そう思って、僕は上へと向かうボタンをおした。
 扉の上にあるランプをみてみれば、どうやら5にいたようで、微妙に長く難じる時間を僕はぼんやりと過ごし、ようやく――エレベータが開く。

「っ……」

 思わず、声が漏れそうになった。5階で止まっていたように見えていたエレベータの中に、人が乗っていたからだ。そして、そこにいたのはショートカットのさらっとした髪をした、少し小柄で、たぼっとしたとがった感じ服装をした――女性で、彼女は初対面ではなく――『あの現象』を通して知り合ったことのある、網屋 《あみや》 千鶴《ちづる》さんという人だった。
 年は僕の二つ上で、二十歳。お酒と音楽が趣味というほどではないけど、好きといった感じ。まあ薄っぺらい表面的な部分をしってはいるが、向こうには、僕と知り合った記憶すらない。
 その彼女はイヤフォンで耳をふさぎ、そのコードの先にあるスマホに、つんとした視線を落としており、

「ぁ……」

 僕は逃げてしまいたくなるのをぐっと堪えながら、ご近所さんにするような、軽い挨拶をしようとした。今が『あの現象』の条件外だった場合、この時間は記憶に残る。つまり、挙動不審な行動をしてしまえば、その醜態も残ってしまうのだ。それは避けなければと、僕が慎重に彼女がおかしくなっていないかを観察していると、

「――」

 なんだこいつ、と言わんばかりに、彼女は無感情な目をこちらへ向ける。
 それを受け、なんとなく言葉を失ってしまった僕は――、

「……」

 結局何事もなく。ショートカットの女性は立ち去ってしまった。
 つまり――平常時だったようで。今は安堵する場面の名のだろうけど、こうなったらこうなったで、今挙動不審な対応をしてしまった感じを消して欲しいと、『あの現象』に、都合よく期待してしまったり、なんて。そんなことおもいながら、僕はげんなりとをエレベータに乗り、3階のボタンを押そうとして、

「ぁ――」

 押すつもりのなかった2階のボタンに指があたってしまった。

「めんど……」

 ぽつりと、誰もいない空間に、僕は思わずこぼしながら、やれやれと息を吐いた。そして――ポーン、と2階についたことを、機械音が教えてくれる。
 僕はドアが開いたのを確認すると、ドアを閉じるボタンを押そうとし――、

「……? これ、上に行くやつみたい」

 そんな風に喋りながら、もこもこっとしたツインテールの女の人と、

「あ、ほんとだ……。それじゃあ……」

 喋り声に、ウェーブのかかったロングヘアーの子が答え、疑問の表情を浮べながら、二人組みの少女が、エレベータに入ってくる。そして、僕はそんな二人の会話を聞きながら、『あの現象』が起きないことを、祈っていた。
 『あの現象』が起きるのには、何か条件が必要で、それは出会っただけでは、なんともないはず。だから、こんな状況の中にも確かに希望が――、

「ねえ、杏奈……」

 ロングヘアーの子がもう片方の子を呼ぶ。ちなみに、彼女の名前は天野《あまの》 由美《ゆみ》で、ツインテールの方が赤井《あかい》 杏奈《あんな》という名前だ。つまり――先ほどすれ違った女性と同様――『一方的な知り合い』であり、

「由美? 急に、どうしたの?」

「いや、なんていうか……。せっかくだし、ちょっと――嗅がせていこうかなって……」

「嗅がせる? って、なにを――、……ぁ、そういう」

 どうやら、この催眠術のような現象は、ゆっくりと彼女たちの脳を浸食している様子で、杏奈さんという子のほうは、時間差で――おかしくなっていった。
 だが、それに気づく者は、僕以外おらず――、

「――ひっ!?」

 ぬっと、伸びてきた手に、思わず声が漏れた。
 杏奈さんが、僕の方をつかんできたのだ。それから彼女は僕の背後へと回り込むと、

「ほら、抑えといてあげるから、さっさと済ませちゃなさいよ」

 なんの違和感もない様子で杏奈さんはそう言って、僕の体を押さえ込み、無理やりかがませる。それを受け、由美さんは笑みを浮べ「ありがとう」お礼を言うと、おもむろに僕の顔の前に尻が来るように、エレベータの入口側を向く。
 そして、重たげな機械音と共に出入り口にドアがしまっていき――。
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