ほんの小さな好奇心

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

文字の大きさ
1 / 1

知らない方がいいこと

しおりを挟む
 ぼくの住む村の、端っこには、用途のわからない謎のツボが、ぽつんと置いてある。
 サイズは子供がすっぽりはいるような――要するに。
 ぼくぐらいなら、余裕で入れそうなほどの、まあまあの大きさをしたツボが置いてあった。

 そして、なぜそのツボについて何もしらないのかというと、本来そこは、男が入ってはいけない場所だからだ。
 だが、そういわれると、入りたくなるもので。
 ついに好奇心に負けてしまった、ぼくと、友達の雄介ゆうすけはそのツボの前にたっていた。

「じゃあ、あきら。あけるぞ」

 雄介はぼくの名前を名前を呼び、そう言う。
 それを受け、ぼくがうなずくと。
 雄介はツボの上にずっしりとのっていた蓋を、持ち上げた――。
 しかし、中には何も入っておらず、

「なんだ……。なにも……、――っ!?!?」

 唐突に短く悲鳴のような声を上げる雄介。
 その理由は、ぼくにもすぐにわかった――。

「うっ……!? お、おええええぇぇ! なんだこれ……!?!?」

 ツボの中から漏れ出してきた、恐ろしいほどの強烈な臭いに、ぼくは声をあげる。
 卵のようでもあり、漬物の酸味のある感じでもあり。
 とにかく、そういったものが――どろどろに腐ったかのような、臭いだ。

 それは、鼻が曲がるなんてものではない。
 下手すれば、意識も、ぐらりと持ってかれるのではないかと思えるような臭いだ。
 そして、ぼくと雄介が、そんな臭いに驚愕してると――、

「「――ぁ……」」

 ぼくと雄介が、同時に声をあげる。
 耳に、ある音が聞こえてきたのだ。

 ぼくと雄介は、ここにいてはいけない。
 それがばれてしまったら――と。ぼくと雄介は、慌てて逃げ出そうとした。
 しかし――、

「うあっ!?!?」

 と、雄介が声をあげる。
 重たいツボの蓋を持ちながら走り出そうとしたもんだから。
 その影響で、よろめいてしまったのだ。

 そして――ごんっ。
 いい音がした。
 雄介は慌てて蓋を捨て、その勢いで、ツボのそこに頭からダイブしてしまったようだ。

「お、おいっ! 大丈夫か!?」

 ぼくが思わずそう叫ぶと、

「ああ、うん……。だいじょう……、――うっ!?!?」

 得意大事には至らなかったようだが、雄介はその臭いに、苦しげな声を漏らした。
 と、そのとき――、

「誰かいるの?」

 その声は。
 近所の綺麗なお姉さんの声だった。
 足音の感じからして、まだ距離はあるようだが、ぼくの声が聞こえてしまったのかもしれない。
 うかつだった。
 しかし、そんなことを悩んでいる時間など、あるはずもなく――。

「ごめんっ……!」

 え――と。
 か細い声で、疑問を覚えた様子の雄介を置き去りに。
 ぼくは木々の陰へと、逃げたのだった。
 すると、そのすぐあとに――、

「あれ……? いま、声が聞こえた気がしたんだけど……」

 まあいいか、と。
 お姉さんは、長く綺麗な髪を揺らしながら、ツボのほうへと向かっていった。

 果たして、なんの用事があるんだろう。
 そんな疑問を覚えている目の先で。
 お姉さんは、ふとツボの中へと目を向けた。

 怒られるだろうか。
 そう思って様子を見ていると。
 お姉さんは、一度はっ、とした顔を浮かべたきり。
 無表情で、ツボのふちに腰をおろした。
 そして――「ふんっ……」と、お姉さんはいきみ、

 ぶっぶううううぅぅうぅうううぅぅうぅう~~……

 と、放屁。
 お姉さんは、まだ雄介が入っているはずのツボの中へおならをしたのだった。

 その様子に、ぼくは理解がおいつかず、ぽかんとする。
 雄介も同じことようにしているだろう。
 というか――、

「ううぅぅぐっ……!?!?」

 と、つぼの中から、雄介の声がもれてくる。
 臭そうな音だったと、ぼくが想像していたとおり。
 それはやはり強烈だったようで。

「ぐっ、ぐじゃぁ……」

 気の毒の思えるほどの、雄介の涙声。
 しかし、そんな雄介に、お姉さんはなおも――、

 ぶううぅ……! ぷうっ! ぶすうううぅぅ~~……

 三連発。
 と、そこで、ようやくお姉さんのガスが尽きたようで、

「ご、ごめ……、さい……」

 細々とした雄介の声が、つぼの中から聞こえてくる。
 だが、お姉さんは、ツボに蓋をすると、その上に、のっしりと、腰をおろし。
 おもむろに、スマートフォンをポケットから取り出した。

 ここはだいぶ田舎の方ではあるが、一応、電波があるのだ。
 まあそういった事情はさておき――。

 お姉さんはなにやら、誰かと連絡を取っているようで。
 そのまま――数十分間。

 ツボに雄介を閉じ込めたまま、しばらくゆったりと、なにやら指を動かしていた。
 そして――、

「由美……。さっきのって、ほんと?」

「あ、夏海……」

 足音ともに、お姉さんの友人らしき女性、夏海さんという人が姿を見せる。
 その人は驚いたようにツボへと近づいていくと、お姉さんに訊いた。

「うん、今なかにいる」

 どうやら、お姉さんの名前は、由利さんというようで。
 それを受け、由利さんは、よいしょ、と。ツボのふたを開けると、

「ご、ごめんなさい……」

 雄介の、か細い声。
 それに対して、二人はしばらく沈黙した。

 完全に怒っているのだろう。
 それほどのことをしてしまったのだろうか。
 ここのツボは、それほどの秘密だったのだろうか。

 そうぼくが疑問を覚えていると。
 由利さんが、やれやれといったふうに、ため息をついた。

「とりあえず、村のきまりだから、ちゃんと罰をうけて。そうしたら、皆ちゃんと許してくれるから……」

「そうそう。ちゃんと、おとなしくしていれば、別に、こっぴどくしかられる、とか。そういうのは、ないから……、ね、わかった?」

 夏海さんがさらに言うと、そこで雄介がうなずいたのか。
 二人の表情が少しだけ明るくなった。
 その様子に、ぼくは少しだけほっとする。

 思いのほか、深刻な状況ではなかったようだ。
 とはいえ――、

「ただ……、わかるよね? このツボは、そういう場所なの……」

 夏海さんはそう言って、ツボのふちに腰を下ろすと、

「だから、この臭いが罰だと思って――」

 ぷう――ふうううぅぅううううぅうぅぅぅううぅ~~……

 と、夏海さんのお尻から、鳴った。
 それはもちろん、臭いを伴っており。
 雄介が、小さく苦しそうな声をもらすと、

「しっかり、反省するんだよ……」

「ちなみに、ここのことを、誰かに話したら、もっと大変なことになるからね……」

 夏海さんの声に、由美さんは続けて言うと。
 彼女も夏海さんとは反対側のツボのふちに、腰を下ろした。
 そして、

「とりあえず、あと40分。時間はしっかりはかってあるから。それまでは、ちゃんと大人しくしてるんだよ……」

 由美さんはそういって――ん、と。いきみ、

 ふっすうううぅぅうううぅぅうぅぅ~~……

「うわっ……。由美ってば、すかし――っていうか……、くさぁ……」

「し、しょうがないでしょ。誰だってこういうこともあるって」

「……そうかな?」

「そうだよ。っていうか、夏海だってこのあいだ――」

「あー、もういいじゃん。この話はやめやめ……」

 とにかく――と。夏海さんは言葉を区切ると、

「あと40分……、私たち以外に、誰も来ないといいね。そうすれば、たいした罰にはならないと思うから……」

 と、夏海さんが言った、タイミングで――。

 いくつもの足音が響いてきた。

 数人分、いや十数人分かもしれない。
 偶然なのか、あるいは、何かしらの連絡が伝わったのか、ぼくにはさっぱりわからないが。
 なんにしても、沢山の女の人たちが――おそらくここへ集まってきているようで、その様子に、夏海さんは苦笑いをすると、

「ありゃりゃ……。これは、ご愁傷様だね……」

 そう言ったあと。
 夏海と由美さんは足音のするほうに目をむけると。
 複雑な表情で、笑みを浮かべ、

「それから……」

 由美さんはそういって――ぼくの方へ目を向けると、

「君も、ね」

 その言葉に、ぼくの頭は、真っ白になったのだった――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

三匹の○○○

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ とある家を襲おうとしている狼の、下品な話。

え?

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ え?っていう感じの、下品な話。

花畑の中の腐卵臭

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ ドアの向こう側のお話です。

おかしな家

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ おかしな家の、不思議で下品なお話です。

霧のように沈む

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 現実か、非現実か、よくわからない出来事のお話です。

どんなふうに感じた?

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ 真っ白な空間で出会った少女とのわけのわからない、下品なお話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...