卵風

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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 ――昼をとうに過ぎたあとの、そんな気配が漂う空の下。
 人気のない川原のトンネルの下を、心地の良い風が通り抜けていく。
 そこには一つの人影。
 赤みがかった黒い髪をした、ショートボブの少女が、誰かを待っているかの様子で、薄い土の上に腰をつけないようにしゃがみ込んでいた。
 服装は、シンプルなシャツにショートパンツ。
 近所にでかけるような、ラフだ服装をしている。
 と、そこへ、二人分の足音が近づいてきた。
 少女は足音に気付くと、

「あら、逃げずによく来たじゃない。――玲緒奈れおな

 彼女はおもむろに立ち上がり、歩いてきた二人の、片方へと視線を向ける。

「逃げる? それはこっちの台詞だよ。理恵りえ

 玲緒奈と呼ばれた少女は、パーカーのぽっけに手をつっこみながら答えた。
 ふんわりのした髪をした彼女の髪色は、オレンジがかった茶をしていて、柔らかい雰囲気を漂わせている。
 彼女は少しだけつんとした目を細めると、

「ほら――聞こえる?」

 ポケットの中で腹をなでる玲緒奈。
 するとそこから――ぐぎゅぐぐる……。
 腹痛のような――あるいは、唸り声のような音だ。
 それを受けて、理恵はどういうわけか、うっ、と少し押されるように、冷や汗をかく。
 まるで、玲緒奈の腹の中にあるものに対して、少々怖じ気ているような様子である。
 と、そこへ、

「あ、あの……、すみません」

 緊張の空気が漂う中。
 声を挟んだのは、気弱そうな少年だった。
 格好は、清潔感のあるシャツとパンツ。
 二人と同い年か、ひとつした、といった感じの、学生風の見た目だ。
 彼は困惑したような視線を二人へ向けると、

「その……、僕は、なんのために……」

「ああ。あんたには――審判をやってもらうつもりだよ」

 玲緒奈は答える。
 だが、少年は疑問の色を濃くすると、「……審判?」と尋ねた。
 そんな二人のやり取りに、

「っていうか。彼――誰なの?」

 疑問の表情を浮べる理恵。
 どうやら彼は、二人の共通の知り合いではないようだ。
 彼女の問うと、玲緒奈は「さあ?」――と、肩をすくめて言った。

「そこらへんで拾ってきたから、よくわかんない」

「は? 拾ってきたって……」

 呆れた様子の理恵。
 彼女は口をつぐむと、自己紹介を促すように、少年へと視線を向ける。
 それを受け、

「あ、ああ、僕は……、じゅんと言います。漢字は、純粋の純で……」

 少年は戸惑いつつも、雰囲気に流されるように応じた。
 そんな彼に、玲緒奈は「へえ」と興味なさそうに返すと、

「とにかく、あなたにはこのゲームの審判をやってもらうから、よろしくね」

「ゲーム?」

 純の問いに、玲緒奈は「そう」と肯定する。

「これからやるゲームは、私か理恵のどっちかが――最後に立っていたほうの勝ち、っていうゲームなんだけど。終わりのほうになると、両方とも意識がおぼろげになっちゃって、勝敗がわからなくなっちゃうんだよね。だからそれを、あんたにしっかりと見届けてもらうつもりなんだけど……」

「そ、そうなんだ……。けどごめん。僕、ちょっと用事があるからこの辺で――ぐえっ!」

 立ち去ろうとした純が、首根っこを掴まれ、苦しげな声を上げる。
 掴んでいたのは、玲緒奈の手だった。
 彼女は片手の腕力で強引に純を元の位置へと戻すと、

「審判なんだから、勝手にどっかいっちゃだめだよ」

「玲緒奈に捕まっちゃったんなら、もう最後まで付き合う覚悟をわしておいた方がいいよ」

 げほごほ、と咳き込む純に、玲緒奈は肩をすくめて言い、理恵が苦笑いを浮べた。

「それにしても……」

 と、理恵はなにやら思案するように、純へと視線を向ける。
 そして唐突に、「――ああ、そうだ」と、声をもらすと、彼女は視線を向けてきた玲緒奈に、意味深な笑みを向け、口を開いた――。
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