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それは、何の変哲もない小屋だった――。
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――壷だ。
目の前には、何の変哲もない、壷があり。
そこにあるのは、壷だけで、壷のみだった。
サイズは、人の頭よりも一回り程大きいような、感じで。
形が、なんだか特徴的な壷だった。
下半分は、いたって普通の壷、といった風なのだが。
上半分が、どういう訳か、いびつな形をしているのである。
首の部分が不自然に――きゅ、っとすぼまっており。
一番特徴的なのが、口の部分、何かを受け止めるかのように。
包むかのように。
計算されたかのように、開きかけの花びらのように。
まるで――何かを、包み込むかのように。
ひらいていた――。
+ + + + + +
目の前にある壷は、どうして、そのような形をしているか。
それについて、考えてみれば、嫌な発想しか思い浮かばなかった。
俺はげんなりしながら壷の観察し、もう一つ、疑問に思ってたことについて理解した。
なぜ、臭いが漏れないのか。
まあ、小屋のつくり、というのもあるだろうが。
事実は、俺の想像よりも、ずっとシンプルで、ずっと恐ろしいものだった。
壷に、ずっしりとした――蓋がのっかっていたのだ。
これでは、臭いが漏れようがない。
漏れようがない――はずなのに。
俺をいまだに苦しめ続けているいるこの臭いは、なんなんだろうか。
いや、わかってはいるけれども。
そりゃあ、壷に、空気を吸引する機能でもついているのであれば、話は別だが。
目の前の壷は、どう見ても、ただの壷だ。
そんな特殊な機能などあるはずもなく、なにかの拍子に、臭いは当然、逃げていくだろう。
とはいえ、壷の外に漏れ出すぶんなんていうのは、本当に些細なものだろう。
もっといえば、小屋の外に漏れ出すのは、さらに些細なものになるということだ。
しかし、だとするなら。
男が嗅ぎ続けていた臭いは、どれほどまでに――。
恐らく、男がいる――その壷の中に。
うめき声は、確かに小屋の中から聞こえてきたのだから、その推測は、間違いないだろう。
じゃあ、胴体は。
まあそれも、簡単な仕掛けだろう。
ここにきて、いきなりグロテスクな展開、なんていうのは考えづらい。
もしそうであったなら、彼の命の火は、とっくのとうにきえているだろうし。
恐らく、首から下が、地中に埋まった状態になっている。
だから、男は逃げることができないのだ――。
本当に、考えただけでぞっとする。
まだ事実を、目にしているわけではないのだが。
俺の考えが、外れている気がしない。
ならば、急いで、壷の蓋を開けてやらなければ。
そう思い、小屋の中に足を踏み入れた俺は、木造の床の上にしゃがみ込み、壷の蓋あけようと手をのばした。
と――そこで、
――パッ
……。
なんだ。
唐突に、視界が明るくなった。
壷が、よく見える。
どういうことだろう。
天井が、やけに明るくなった。
俺はゆっくりと上を見る。
小屋が明るくなった理由が、すぐにわかった。
そりゃあ――電球がついているんだから。明るいわけだ。
しかし、どうして――、
「あんた」
「――っ!?」
背後から聞こえてきた声に、俺の心臓が跳ねる。
見ると、そこにいたのは、成美さんだった。
「あんた。梅子のとこにきた、お客さんだね」
彼女は、戸のすぐ横の外側の壁へと、手を伸ばしながら言う。
なるほど。そこに、電気のスイッチがあったのか。
よっぽど気が動転していたんだろう。
視野が狭くなっていたみたいだ。
呆然と、俺がそんな考察をしていると、
チリィン……
唐突に、鈴のような音が聞こえてきた。
そしてそれは、一度ではなく。
チリィン……
やはり、村の何処かにスピーカーでもあるのか。
村中に響くかのような音で、その音は鳴っていた。
「ちなみになんだけど。この村のルールをやぶったら、どうなるのか。梅子からは聞いてる?」
成美の言葉に、俺は真っ白な思考のまま。
チリィン……
ただ首を横に振った。
チリィン……
成美さんは、「そう」とだけつぶやくと、
「まあでも、その壷をみたあとなら――わかるわよね?」
成美さんがそう言ったあと。
どこからともなく、村中から、複数の足音が聞こえてくる。
チリィン……
十? 百? 小屋のほうへと、足音が近づいてくる。
チリィン……
足が震えてくる。
逃げないと。
男のことを考えている余裕は、もうない。
とにかく、早く――。
あれ。
動かない。
足が。
これは、
「まさか……、梅子さんに……」
盛られたか。
毒を?
痺れさせるような毒?
いや、眠気を誘う毒かもしれない。
だんだん、瞼を開けているのが、つらくなってきた。
「へぇ。梅子ってば、こうなることを、予想してたのかしら」
俺の様子を見て、成美さんが感心したようにつぶやくが、
「うーん……。けどあの子に、そんな計算なんて……」
自分の考えにしっくりきていないのか、成美さんは首をかしげると、
「まあ、なんにせよ。捕まえる手間が省けたんだから。いいか」
成美さんは思考を中断し、少しずつ集まってくる村人達と、なにやら会話を始める。
だが、俺の意識はそこで限界を向かえ、村人たちの会話を耳にすることなく、途切れることとなった――。
+ + + + + +
――そこは、なんの変哲もない、村だった。
そして、なんの面白みのない、ただの村だった。
自然に囲まれ。
綺麗な空気にかこまれ。
ただぼんやりとしていて。
のんびりと過ごすには、丁度いい、そんな村だ。
村民は、建物を円状に建て、静かに暮らしているようだ。
建物の並び方としては、些か歪とも思えるよう形だが、原因は村の中央にある、建物が原因だろう。
人が住むには小さすぎるような、そんな建物だった。
それが、何かを祀るかのように、ぽつんと、たれられているのだった――。
そして――ある晴れた日のこと。
「はあ……。ガスで、お腹がはっちゃってるよぉ……」
可愛らしいおかっぱの女性が、その小屋へと入っていく。
それから、しばらくして――、
ぼぶうぅっ!!
どう聞いてもそれは、放屁音以外のないものでもないような音だった。
目に見える確証はないが、小屋の中に入っていった女性が、放屁したのは間違いないだろう。
小屋が揺れたかと思うような風圧と共に、そんな音が、その建物の中から聞こえてきた。
もし、それが本当に屁だとしたら、小屋の中は、恐らく屁の臭気で隅々まで満たされたことだろう。
今しがた響いた音は、そう思えるような。
短く、爆風のような一発だった――。
目の前には、何の変哲もない、壷があり。
そこにあるのは、壷だけで、壷のみだった。
サイズは、人の頭よりも一回り程大きいような、感じで。
形が、なんだか特徴的な壷だった。
下半分は、いたって普通の壷、といった風なのだが。
上半分が、どういう訳か、いびつな形をしているのである。
首の部分が不自然に――きゅ、っとすぼまっており。
一番特徴的なのが、口の部分、何かを受け止めるかのように。
包むかのように。
計算されたかのように、開きかけの花びらのように。
まるで――何かを、包み込むかのように。
ひらいていた――。
+ + + + + +
目の前にある壷は、どうして、そのような形をしているか。
それについて、考えてみれば、嫌な発想しか思い浮かばなかった。
俺はげんなりしながら壷の観察し、もう一つ、疑問に思ってたことについて理解した。
なぜ、臭いが漏れないのか。
まあ、小屋のつくり、というのもあるだろうが。
事実は、俺の想像よりも、ずっとシンプルで、ずっと恐ろしいものだった。
壷に、ずっしりとした――蓋がのっかっていたのだ。
これでは、臭いが漏れようがない。
漏れようがない――はずなのに。
俺をいまだに苦しめ続けているいるこの臭いは、なんなんだろうか。
いや、わかってはいるけれども。
そりゃあ、壷に、空気を吸引する機能でもついているのであれば、話は別だが。
目の前の壷は、どう見ても、ただの壷だ。
そんな特殊な機能などあるはずもなく、なにかの拍子に、臭いは当然、逃げていくだろう。
とはいえ、壷の外に漏れ出すぶんなんていうのは、本当に些細なものだろう。
もっといえば、小屋の外に漏れ出すのは、さらに些細なものになるということだ。
しかし、だとするなら。
男が嗅ぎ続けていた臭いは、どれほどまでに――。
恐らく、男がいる――その壷の中に。
うめき声は、確かに小屋の中から聞こえてきたのだから、その推測は、間違いないだろう。
じゃあ、胴体は。
まあそれも、簡単な仕掛けだろう。
ここにきて、いきなりグロテスクな展開、なんていうのは考えづらい。
もしそうであったなら、彼の命の火は、とっくのとうにきえているだろうし。
恐らく、首から下が、地中に埋まった状態になっている。
だから、男は逃げることができないのだ――。
本当に、考えただけでぞっとする。
まだ事実を、目にしているわけではないのだが。
俺の考えが、外れている気がしない。
ならば、急いで、壷の蓋を開けてやらなければ。
そう思い、小屋の中に足を踏み入れた俺は、木造の床の上にしゃがみ込み、壷の蓋あけようと手をのばした。
と――そこで、
――パッ
……。
なんだ。
唐突に、視界が明るくなった。
壷が、よく見える。
どういうことだろう。
天井が、やけに明るくなった。
俺はゆっくりと上を見る。
小屋が明るくなった理由が、すぐにわかった。
そりゃあ――電球がついているんだから。明るいわけだ。
しかし、どうして――、
「あんた」
「――っ!?」
背後から聞こえてきた声に、俺の心臓が跳ねる。
見ると、そこにいたのは、成美さんだった。
「あんた。梅子のとこにきた、お客さんだね」
彼女は、戸のすぐ横の外側の壁へと、手を伸ばしながら言う。
なるほど。そこに、電気のスイッチがあったのか。
よっぽど気が動転していたんだろう。
視野が狭くなっていたみたいだ。
呆然と、俺がそんな考察をしていると、
チリィン……
唐突に、鈴のような音が聞こえてきた。
そしてそれは、一度ではなく。
チリィン……
やはり、村の何処かにスピーカーでもあるのか。
村中に響くかのような音で、その音は鳴っていた。
「ちなみになんだけど。この村のルールをやぶったら、どうなるのか。梅子からは聞いてる?」
成美の言葉に、俺は真っ白な思考のまま。
チリィン……
ただ首を横に振った。
チリィン……
成美さんは、「そう」とだけつぶやくと、
「まあでも、その壷をみたあとなら――わかるわよね?」
成美さんがそう言ったあと。
どこからともなく、村中から、複数の足音が聞こえてくる。
チリィン……
十? 百? 小屋のほうへと、足音が近づいてくる。
チリィン……
足が震えてくる。
逃げないと。
男のことを考えている余裕は、もうない。
とにかく、早く――。
あれ。
動かない。
足が。
これは、
「まさか……、梅子さんに……」
盛られたか。
毒を?
痺れさせるような毒?
いや、眠気を誘う毒かもしれない。
だんだん、瞼を開けているのが、つらくなってきた。
「へぇ。梅子ってば、こうなることを、予想してたのかしら」
俺の様子を見て、成美さんが感心したようにつぶやくが、
「うーん……。けどあの子に、そんな計算なんて……」
自分の考えにしっくりきていないのか、成美さんは首をかしげると、
「まあ、なんにせよ。捕まえる手間が省けたんだから。いいか」
成美さんは思考を中断し、少しずつ集まってくる村人達と、なにやら会話を始める。
だが、俺の意識はそこで限界を向かえ、村人たちの会話を耳にすることなく、途切れることとなった――。
+ + + + + +
――そこは、なんの変哲もない、村だった。
そして、なんの面白みのない、ただの村だった。
自然に囲まれ。
綺麗な空気にかこまれ。
ただぼんやりとしていて。
のんびりと過ごすには、丁度いい、そんな村だ。
村民は、建物を円状に建て、静かに暮らしているようだ。
建物の並び方としては、些か歪とも思えるよう形だが、原因は村の中央にある、建物が原因だろう。
人が住むには小さすぎるような、そんな建物だった。
それが、何かを祀るかのように、ぽつんと、たれられているのだった――。
そして――ある晴れた日のこと。
「はあ……。ガスで、お腹がはっちゃってるよぉ……」
可愛らしいおかっぱの女性が、その小屋へと入っていく。
それから、しばらくして――、
ぼぶうぅっ!!
どう聞いてもそれは、放屁音以外のないものでもないような音だった。
目に見える確証はないが、小屋の中に入っていった女性が、放屁したのは間違いないだろう。
小屋が揺れたかと思うような風圧と共に、そんな音が、その建物の中から聞こえてきた。
もし、それが本当に屁だとしたら、小屋の中は、恐らく屁の臭気で隅々まで満たされたことだろう。
今しがた響いた音は、そう思えるような。
短く、爆風のような一発だった――。
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