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部屋から出る方法
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「――かかったな!」
男のような、太い声が部屋に響く。
しかし、姿は見えない。
それに対し、少女は警戒するように、何もない部屋を見回した。
本当に何もない。
少女の周りにあるのは、ぐるりと囲む、石壁だ。
出入りするための扉などもなく、彼女は姿のみえない何者かにはめられ、状況はいまにいたるのである。
少女の名前はアメル。
冒険者だ。
身動きのとりやすい上下の服装に、最低限の荷物。
彼女はどうやら、素手で戦うタイプのようで、
「もう、きさまはこの部屋からでることはできんぞ。出入り口を隠してしまったから、外からの助けも期待できん。まあ、この城に来るような頭のいかれたやろうは、きさまぐらいだろうから。助けをあてにするのは、やめておいたほうがいいだろうがな」
がはは、と。
何者かが笑った。
すると、アメルは癖のある赤いセミロングの髪を、わしわしとかいて言った。
「けど、出る方法は、あるんだよな?」
「……あ?」
「じゃねえと、お前もこの部屋から出られないだろう?」
「…………」
押し黙る。
図星なのだろうか。
しばらくの沈黙が流れたあと、
「ない……」
何者かはそう言う。
その声に、アメルが「んー?」と返すと、何者かはふっふ、笑った。
「仮に、あったとしても。きさまには関係のないことだ。なぜなら――」
ぷううぅぅ……
「あ……」
それは――唐突だった。
放屁の音が部屋に響き。
やらかした、といわんばかりに――アメルが苦笑いをした。
「わるい。屁が出た」
「…………」
再び押し黙る、姿の見えぬ何者か。
その息遣いが、かすかに震えている。
戸惑っているのだろうか。あるいは怒りなのかもしれない。
姿が見えないので、感情をみてとることはできず。
そんな何者かの様子に、アメルは失態ごまかすようにあはは、とわらうと、
「そんなに、おこらないでくれよ。な? それに、屁ぐらい、誰だって――」
「きっ、きさまぁっ! 女だろうが! 少しは、慎みと……、いうものを……」
ふと、何者かの声がやみ、その様子に、アメルは「ん?」首をひねる。
すると、少ししてから――「うぅっ……!」という、苦しそうな何者かの声が響いた。
「ぐっ……、き、きさまっ……」
「ど、どうした?」
何事だ、と。疑問を覚えるアメル。
思いのほか深刻そうな声を受け、彼女は表情が少しだけ硬くした。
それから、少しの間があり、
「ま、まさか……、姿の見えない俺を、攻撃するために……っ!?」
驚愕、といったふうな何者かの声に、アメルは「は?」気の抜けた声を返す。
しかし、何者かの耳にそれは通らず、
「ど、毒ガス……? そ、そうか……、その手があったのか……」
「…………」
「確かに、この部屋は通気性が、うっ……、悪い……。その弱点をついたというわけか……。くっ……、おのれ……、よくも……」
と――そこで。
何者かは、「……っ!」と再び声を詰まらせると、
「――ぐはっ……!?!?!?」
ダメージを受けたかのような、何者かの声。
しかし、アメルが何かをしたということもなく――ドサァ、と。
人が倒れこむような音が部屋に響いた。
「ぃ……、さま……。また、屁を……?」
何者かが訊く。
すると、
「あ、あれ? ばれたか……」
少し恥ずかしそうに、アメルは顔をうっすらと赤らめて苦笑いをした。
「いやぁ。きっちり――すかせたと思ったんだけどなぁ……」
「なにを……、ふざけたことを……。きさま……、こんな、技を隠し持って……」
ますます苦しそうな、何者かの声。
それを受け、アメルは心外だと言いたげに「おいおい」と返した。
「ふざけてるのは、そっちだろ。こんなのが、技なわけ……。あ」
「……なんだ?」
不意にあげられたアメルの声に、何者かの声が止まる。
すると、
「もう一回……、でそう……」
アメルがそう言うと。
数秒ほど、沈黙が流れ――、
「よ! よせっ! この部屋は換気ができないんだ……! たのむっ! これ以上は……!」
はっきりとわかるほど、うろたえた様子の何者かの声。
その声に、アメルは少しむっとした表情を浮かべると、
「だったら。私を閉じ込めるのを諦めて、部屋をあければいいだろうが」
「そ、それは……」
「っていうかさ。あけないっていうんなら……、わかるよな?」
アメルはそういって、声の聞こえるほうへ、引き締まった尻を、くい、と向けた。
すると、
「ちょっ、ちょっとまて……! 待つんだ! ここは、落ち着いて話を……」
「いやいや。早くしないと、もう、でちゃうって」
「ひいぃぃ……」
はじめの様子など見る影もなく。
何者かは、弱った声を漏らす。
その様子に、アメルはため息をつくと、
「だから! 本当にでちゃうから! 早くして! なんか、やばそうな波が来ちゃったしさぁ! 早くどうにかしないと……」
アメルそういうと――ぺたぺた、と、はだしのような足音がなった。
もしかすると、姿の見えない何者かは、裸なのだろうか。
あるいは、人間とは違った種類のものかもしれない。
まあ、それはいいとして――。
足音から察するに、その者はどうやら、アメルから距離をとったようで。
その気配を感じたアメルは、何かをひらめくように、あっ、と声を上げると、
「そうか! 距離をとれば、少しはましに……!」
「うわっ! こっちくんなっ!」
アメルは距離をとろうと、適当に背後側の部屋の角へと向かったのだが。
その行動に何者かが慌てたように声をあげたのだった。
すると、アメルは何かに気づいたように、はっ、と声をもらし、部屋の角をみつめる。
「てめえ! 姿が見えないことをいいことに、今、隙をつこうとしやがっただろ!」
「ぐっ……」
「ぐっ、じゃねえ! もういい! こうなったらここで――」
むにぃ……
それは――偶然だった。
アメルが適当に突き出した部屋の角。
目には見えないが、そこから何かの感触が、アメルの尻へと返ってくる。
それはまるで、何かの頭部のような形をしていて――、
「むむうう!?!?」
と、何者の声がくぐもる。
その様子に、アメルは――にやりと笑みを浮かべると、
「ふうんっ!!!!」
ぷっすううううぅぅううぅぅううぅぅううぅぅ~~……
力強い声とは裏腹に。
それはそれは、完璧な――すかしっ屁だった。
アメルとしては、想定外の音だったようだが。
それはさておくとして――、
「んぶっ!? うっ――ぶうううぅぅ!?!?!」
断末魔のような、何者かの声。
その様子に、アメルは少し顔を赤くすると、
「いやいや。そこまでなのかよ……。っていうか、昨日、何食べたんだっけ……?」
アメルはそういって、「まあいっか……」と、ほほをかくと、
「それじゃあ、全部だしきっちゃうからな」
「……っ!?!?」
アメルの言葉に、驚愕した様子の、何者かの声。
その声に、アメルはやれやれと肩をすくめると、
「だからいっただろ。やばいのがきたって」
「ぁ! のむ……っ! こ、ょりを……!」
その声は、ほとんど言葉になっておらず。
アメルは、なにを言ってるんだ、という顔をすると、
「そんじゃ、とっととやっちまうか」
彼女はそういって――、
「ふんっ!」
ぶううううぅぅ……!
「ふうぅん!」
ぷううぅぅ……!
「ぐっ……」
ぶびぃ……
「くっ……」
ふっすううぅぅ~~……
と――そんなかんじで。
アメルはそのあとも――約、数十発。
放屁をしつづけた。
いったい体のどこに、そんなガスがあったのか、不思議だが。
アメルはひととおりの放屁を終えると、
「よし、おつかれさん。それじゃあ――これで最後だ……」
す――ふすうううぅぅううぅぅううぅぅううぅぅううぅ
すかああぁぁああぁぁああぁぁ~~……
そして、アメルが一息ついたころ――。
部屋の一部に。
いつのまにか、扉が出現していたのだった――。
男のような、太い声が部屋に響く。
しかし、姿は見えない。
それに対し、少女は警戒するように、何もない部屋を見回した。
本当に何もない。
少女の周りにあるのは、ぐるりと囲む、石壁だ。
出入りするための扉などもなく、彼女は姿のみえない何者かにはめられ、状況はいまにいたるのである。
少女の名前はアメル。
冒険者だ。
身動きのとりやすい上下の服装に、最低限の荷物。
彼女はどうやら、素手で戦うタイプのようで、
「もう、きさまはこの部屋からでることはできんぞ。出入り口を隠してしまったから、外からの助けも期待できん。まあ、この城に来るような頭のいかれたやろうは、きさまぐらいだろうから。助けをあてにするのは、やめておいたほうがいいだろうがな」
がはは、と。
何者かが笑った。
すると、アメルは癖のある赤いセミロングの髪を、わしわしとかいて言った。
「けど、出る方法は、あるんだよな?」
「……あ?」
「じゃねえと、お前もこの部屋から出られないだろう?」
「…………」
押し黙る。
図星なのだろうか。
しばらくの沈黙が流れたあと、
「ない……」
何者かはそう言う。
その声に、アメルが「んー?」と返すと、何者かはふっふ、笑った。
「仮に、あったとしても。きさまには関係のないことだ。なぜなら――」
ぷううぅぅ……
「あ……」
それは――唐突だった。
放屁の音が部屋に響き。
やらかした、といわんばかりに――アメルが苦笑いをした。
「わるい。屁が出た」
「…………」
再び押し黙る、姿の見えぬ何者か。
その息遣いが、かすかに震えている。
戸惑っているのだろうか。あるいは怒りなのかもしれない。
姿が見えないので、感情をみてとることはできず。
そんな何者かの様子に、アメルは失態ごまかすようにあはは、とわらうと、
「そんなに、おこらないでくれよ。な? それに、屁ぐらい、誰だって――」
「きっ、きさまぁっ! 女だろうが! 少しは、慎みと……、いうものを……」
ふと、何者かの声がやみ、その様子に、アメルは「ん?」首をひねる。
すると、少ししてから――「うぅっ……!」という、苦しそうな何者かの声が響いた。
「ぐっ……、き、きさまっ……」
「ど、どうした?」
何事だ、と。疑問を覚えるアメル。
思いのほか深刻そうな声を受け、彼女は表情が少しだけ硬くした。
それから、少しの間があり、
「ま、まさか……、姿の見えない俺を、攻撃するために……っ!?」
驚愕、といったふうな何者かの声に、アメルは「は?」気の抜けた声を返す。
しかし、何者かの耳にそれは通らず、
「ど、毒ガス……? そ、そうか……、その手があったのか……」
「…………」
「確かに、この部屋は通気性が、うっ……、悪い……。その弱点をついたというわけか……。くっ……、おのれ……、よくも……」
と――そこで。
何者かは、「……っ!」と再び声を詰まらせると、
「――ぐはっ……!?!?!?」
ダメージを受けたかのような、何者かの声。
しかし、アメルが何かをしたということもなく――ドサァ、と。
人が倒れこむような音が部屋に響いた。
「ぃ……、さま……。また、屁を……?」
何者かが訊く。
すると、
「あ、あれ? ばれたか……」
少し恥ずかしそうに、アメルは顔をうっすらと赤らめて苦笑いをした。
「いやぁ。きっちり――すかせたと思ったんだけどなぁ……」
「なにを……、ふざけたことを……。きさま……、こんな、技を隠し持って……」
ますます苦しそうな、何者かの声。
それを受け、アメルは心外だと言いたげに「おいおい」と返した。
「ふざけてるのは、そっちだろ。こんなのが、技なわけ……。あ」
「……なんだ?」
不意にあげられたアメルの声に、何者かの声が止まる。
すると、
「もう一回……、でそう……」
アメルがそう言うと。
数秒ほど、沈黙が流れ――、
「よ! よせっ! この部屋は換気ができないんだ……! たのむっ! これ以上は……!」
はっきりとわかるほど、うろたえた様子の何者かの声。
その声に、アメルは少しむっとした表情を浮かべると、
「だったら。私を閉じ込めるのを諦めて、部屋をあければいいだろうが」
「そ、それは……」
「っていうかさ。あけないっていうんなら……、わかるよな?」
アメルはそういって、声の聞こえるほうへ、引き締まった尻を、くい、と向けた。
すると、
「ちょっ、ちょっとまて……! 待つんだ! ここは、落ち着いて話を……」
「いやいや。早くしないと、もう、でちゃうって」
「ひいぃぃ……」
はじめの様子など見る影もなく。
何者かは、弱った声を漏らす。
その様子に、アメルはため息をつくと、
「だから! 本当にでちゃうから! 早くして! なんか、やばそうな波が来ちゃったしさぁ! 早くどうにかしないと……」
アメルそういうと――ぺたぺた、と、はだしのような足音がなった。
もしかすると、姿の見えない何者かは、裸なのだろうか。
あるいは、人間とは違った種類のものかもしれない。
まあ、それはいいとして――。
足音から察するに、その者はどうやら、アメルから距離をとったようで。
その気配を感じたアメルは、何かをひらめくように、あっ、と声を上げると、
「そうか! 距離をとれば、少しはましに……!」
「うわっ! こっちくんなっ!」
アメルは距離をとろうと、適当に背後側の部屋の角へと向かったのだが。
その行動に何者かが慌てたように声をあげたのだった。
すると、アメルは何かに気づいたように、はっ、と声をもらし、部屋の角をみつめる。
「てめえ! 姿が見えないことをいいことに、今、隙をつこうとしやがっただろ!」
「ぐっ……」
「ぐっ、じゃねえ! もういい! こうなったらここで――」
むにぃ……
それは――偶然だった。
アメルが適当に突き出した部屋の角。
目には見えないが、そこから何かの感触が、アメルの尻へと返ってくる。
それはまるで、何かの頭部のような形をしていて――、
「むむうう!?!?」
と、何者の声がくぐもる。
その様子に、アメルは――にやりと笑みを浮かべると、
「ふうんっ!!!!」
ぷっすううううぅぅううぅぅううぅぅううぅぅ~~……
力強い声とは裏腹に。
それはそれは、完璧な――すかしっ屁だった。
アメルとしては、想定外の音だったようだが。
それはさておくとして――、
「んぶっ!? うっ――ぶうううぅぅ!?!?!」
断末魔のような、何者かの声。
その様子に、アメルは少し顔を赤くすると、
「いやいや。そこまでなのかよ……。っていうか、昨日、何食べたんだっけ……?」
アメルはそういって、「まあいっか……」と、ほほをかくと、
「それじゃあ、全部だしきっちゃうからな」
「……っ!?!?」
アメルの言葉に、驚愕した様子の、何者かの声。
その声に、アメルはやれやれと肩をすくめると、
「だからいっただろ。やばいのがきたって」
「ぁ! のむ……っ! こ、ょりを……!」
その声は、ほとんど言葉になっておらず。
アメルは、なにを言ってるんだ、という顔をすると、
「そんじゃ、とっととやっちまうか」
彼女はそういって――、
「ふんっ!」
ぶううううぅぅ……!
「ふうぅん!」
ぷううぅぅ……!
「ぐっ……」
ぶびぃ……
「くっ……」
ふっすううぅぅ~~……
と――そんなかんじで。
アメルはそのあとも――約、数十発。
放屁をしつづけた。
いったい体のどこに、そんなガスがあったのか、不思議だが。
アメルはひととおりの放屁を終えると、
「よし、おつかれさん。それじゃあ――これで最後だ……」
す――ふすうううぅぅううぅぅううぅぅううぅぅううぅ
すかああぁぁああぁぁああぁぁ~~……
そして、アメルが一息ついたころ――。
部屋の一部に。
いつのまにか、扉が出現していたのだった――。
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