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04 やってきたのは、メス狼さんたちの群れでした
「……ぇ?」
薫の口の中に、ザラりとした粉の感覚があった。
最初は生地の中にざらめが混ぜ込んであると思った薫だったが、どうやら違うようだ。
混ぜ込んだというよりも、空洞の中に――混入させたような食感だったのである。
何かがおかしい――と、薫がそう思った次の瞬間、
「っ、うええぇっ……」
薫は慌ててパンを吐き出そうとする。
舌が――痺れたのだ。
危険を感じた薫は、飲み込んでしまう前に、「ぺっ、ぺっ」と吐き出していく。
「ひどいなぁ。私のパンを、そんなふうに吐き出しちゃうなんて」
声のトーンを落とし少女はそう言うが、その言葉に耳を傾ける余裕が薫にはない。
舌に残るざらざらしたものを吐き出すのに必死なのだ。
ちなみに、まだしっかりとは、パンを飲み込んではおらず、ならばまだ間に合うと、薫は丁寧につばを飛ばし続けた。
しかし――、
「ぁ、っ……!?」
薫の体が少しずつ痺れていく。
とはいえ、飲んでしまったのが少量だったためか、まだそれなりに、体の自由は利いている。
そのことに一縷の希望を得た薫は、首を精一杯の力で動かし、少女を睨みつけ――ようとして、固まった。
毒が回ったからではない。もっと別の理由――少女の背後を見て、薫は思考を停止してしまったのである。
「どう……じで……」
「あーりゃりゃ、時間切れみたいだね」
毒をもったブロンドの少女は、薫と同じ方を向くと、残念そうに言う。
その視線の先にいるのは――大勢の女性達であり、その視線が全て、見ず知らずであるはずの、薫という人間へ向けられているという――異様な光景だった。
「ちょっと、流石に独り占めはずるいでしょ」
「本当に、こんな機会、めったにないことなんだから」
「私なんて、初めて見たわ」
女性達は口々に言いながら、薫のほうへと向かっていく。
「いや、それが普通でしょ?」
「すごい! あれが、男?」
「っていうか、あの子、痺れてない?」
その人の数は次々と増えていく。何人いるかもわからないほどに――
「捕まえたいって言う気持ちはわかるけどさ」
「流石に、毒は可愛そうだよ」
と、誰かの声に、ブロンドの少女は慌てた様子で答えた。
「いやいや! 痺れてるだけだって! 流石に、体に害のあるものは使ってないから!」
「まあ、それならいいんだけど」
別の誰かの声に、ブロンドの少女はほっと胸撫で下ろす。
「とはいっても、毒といえば……ある意味こっちのも――毒、だよね」
「まあ、害はないだろうけど。人数が人数だからね……彼、大丈夫かしら」
「うんうん。噂はもう広まってるだろうし……ちょっと、可哀想かも」
薫の目の前を埋め尽くさんとばかりに迫ってくる女性達。
その数は――、
「うわぁ……。これって、どのくらい集まってるんだろう?」
「ほんと、凄い人だかりだね」
「いやいや! 街中から来るだろうし! こんなんで驚いてどうするのさぁ!?」
人通りのなかったはずの小道には、いつの間にか大勢の話し声が溢れていた。
そして、その話題の中心になっているのは、どういうわけだか――薫らしい。
しかし、当の本人はというと――目の前の光景についても、ぼんやりと聞こえてくる会話についても、何一つ理解できずに、だだ――体を震わせていた。
目の前の光景が、恐いのだ。
見知らぬ場所に飛ばされ、出会った少女達には奇妙な距離感のコミュニケーションをとられ、疑うのをやめた矢先に毒を盛られたのである。
薫のメンタルは、疑心暗鬼の感情で溢れていた。
彼の視界の先にいる少女達は皆、奇妙なほどに整った見た目をしているが――それは何の救いにもならない。
瞳を濁らせた薫の目には、恐怖の対象でしかないからだ。
こわい、コワイ、恐い、怖い。
コワイ、恐い、怖い、こわい。
恐い、怖い、こわい、コワイ。
と――そんな、様々な負の感情が、薫を心臓に触れるように、締め付けるように苦しめていき、実際に怪我をしたわけでもないのに、思わず傷むようで、薫は自分の左胸をぎゅっと鷲掴みにしようとした――が、左手に力を入れようとして、体の痺れが強くなってることに気付く。
そして、足の震えも、恐怖のせいなのか、痺れのせいなのか、よく分からなくなっていく。
だか、いつまでも呆けていては、状況は悪くなるだけだ。そこで、薫は意を決すると――、
「――あっ! 逃げた」
少女達の誰かが言う。
それを皮切りに、大勢の声が上がるが、薫はそれらを全て無視すると、震える足を引きずるようにして走り出したのだった。
薫の口の中に、ザラりとした粉の感覚があった。
最初は生地の中にざらめが混ぜ込んであると思った薫だったが、どうやら違うようだ。
混ぜ込んだというよりも、空洞の中に――混入させたような食感だったのである。
何かがおかしい――と、薫がそう思った次の瞬間、
「っ、うええぇっ……」
薫は慌ててパンを吐き出そうとする。
舌が――痺れたのだ。
危険を感じた薫は、飲み込んでしまう前に、「ぺっ、ぺっ」と吐き出していく。
「ひどいなぁ。私のパンを、そんなふうに吐き出しちゃうなんて」
声のトーンを落とし少女はそう言うが、その言葉に耳を傾ける余裕が薫にはない。
舌に残るざらざらしたものを吐き出すのに必死なのだ。
ちなみに、まだしっかりとは、パンを飲み込んではおらず、ならばまだ間に合うと、薫は丁寧につばを飛ばし続けた。
しかし――、
「ぁ、っ……!?」
薫の体が少しずつ痺れていく。
とはいえ、飲んでしまったのが少量だったためか、まだそれなりに、体の自由は利いている。
そのことに一縷の希望を得た薫は、首を精一杯の力で動かし、少女を睨みつけ――ようとして、固まった。
毒が回ったからではない。もっと別の理由――少女の背後を見て、薫は思考を停止してしまったのである。
「どう……じで……」
「あーりゃりゃ、時間切れみたいだね」
毒をもったブロンドの少女は、薫と同じ方を向くと、残念そうに言う。
その視線の先にいるのは――大勢の女性達であり、その視線が全て、見ず知らずであるはずの、薫という人間へ向けられているという――異様な光景だった。
「ちょっと、流石に独り占めはずるいでしょ」
「本当に、こんな機会、めったにないことなんだから」
「私なんて、初めて見たわ」
女性達は口々に言いながら、薫のほうへと向かっていく。
「いや、それが普通でしょ?」
「すごい! あれが、男?」
「っていうか、あの子、痺れてない?」
その人の数は次々と増えていく。何人いるかもわからないほどに――
「捕まえたいって言う気持ちはわかるけどさ」
「流石に、毒は可愛そうだよ」
と、誰かの声に、ブロンドの少女は慌てた様子で答えた。
「いやいや! 痺れてるだけだって! 流石に、体に害のあるものは使ってないから!」
「まあ、それならいいんだけど」
別の誰かの声に、ブロンドの少女はほっと胸撫で下ろす。
「とはいっても、毒といえば……ある意味こっちのも――毒、だよね」
「まあ、害はないだろうけど。人数が人数だからね……彼、大丈夫かしら」
「うんうん。噂はもう広まってるだろうし……ちょっと、可哀想かも」
薫の目の前を埋め尽くさんとばかりに迫ってくる女性達。
その数は――、
「うわぁ……。これって、どのくらい集まってるんだろう?」
「ほんと、凄い人だかりだね」
「いやいや! 街中から来るだろうし! こんなんで驚いてどうするのさぁ!?」
人通りのなかったはずの小道には、いつの間にか大勢の話し声が溢れていた。
そして、その話題の中心になっているのは、どういうわけだか――薫らしい。
しかし、当の本人はというと――目の前の光景についても、ぼんやりと聞こえてくる会話についても、何一つ理解できずに、だだ――体を震わせていた。
目の前の光景が、恐いのだ。
見知らぬ場所に飛ばされ、出会った少女達には奇妙な距離感のコミュニケーションをとられ、疑うのをやめた矢先に毒を盛られたのである。
薫のメンタルは、疑心暗鬼の感情で溢れていた。
彼の視界の先にいる少女達は皆、奇妙なほどに整った見た目をしているが――それは何の救いにもならない。
瞳を濁らせた薫の目には、恐怖の対象でしかないからだ。
こわい、コワイ、恐い、怖い。
コワイ、恐い、怖い、こわい。
恐い、怖い、こわい、コワイ。
と――そんな、様々な負の感情が、薫を心臓に触れるように、締め付けるように苦しめていき、実際に怪我をしたわけでもないのに、思わず傷むようで、薫は自分の左胸をぎゅっと鷲掴みにしようとした――が、左手に力を入れようとして、体の痺れが強くなってることに気付く。
そして、足の震えも、恐怖のせいなのか、痺れのせいなのか、よく分からなくなっていく。
だか、いつまでも呆けていては、状況は悪くなるだけだ。そこで、薫は意を決すると――、
「――あっ! 逃げた」
少女達の誰かが言う。
それを皮切りに、大勢の声が上がるが、薫はそれらを全て無視すると、震える足を引きずるようにして走り出したのだった。
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