婚約破棄令嬢は健気だった

白雪みなと

文字の大きさ
1 / 1

婚約破棄令嬢は健気だった

しおりを挟む
「ごめん、他に好きな人が出来たんだ。婚約破棄してくれないかな?」

 唐突にそんなことを婚約者から言われた私ーーいや、前から分かってたんだ。それなのに私は知らないふりをしていただけ。
 本心では、『ああ、とうとう言われてしまったか……』という方が強いと思う。
 私はぎゅっと唇を固く結び、無理矢理笑顔を作ってこう答える。

「そうですか。私の他にいい人がいるならどうぞその方と幸せになってください」

 私は目を逸らさないで早口でそう言い、元婚約者の人に一言言おうとその場を離れる。
 その一言とは、『幸せになってください』ただそれだけだ。

 ーーいた。
 学園内を走り回っていると、ある豪華絢爛な服装をした少女がいた。
 こんな簡易なワンピースを来ている私とはやはり釣り合いが取れないのだろうか? そう思うとまた胸が苦しくなってくる。
 一言。そう、一言だけでいいの。それだけ言わせて欲しい。
 私はその少女を引き止める。

「ねえ、押し付けがましいとは思うんだけど、これだけは言わせて」
「な、何よ……」

 相手の娘はびっくりした様子で、目をパチパチさせている。
 私はそんなのもお構い無しに続ける。

「幸せになってね」

 そう一言いうと、不思議と笑みが浮かぶ。
 ああ、そうか私はあの人のことがこんなに……!

「ちょっと何よやりづらいわね……」

 そう言うと、苦虫を潰したような表情のまま走り去る少女。
 どうか、幸せに……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

婚約破棄は喜んで

nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」 他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。 え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。

手順を踏んだ愛ならばよろしいと存じます

Ruhuna
恋愛
フェリシアナ・レデスマ侯爵令嬢は10年と言う長い月日を王太子妃教育に注ぎ込んだ 婚約者であり王太子のロレンシオ・カルニセルとの仲は良くも悪くもなかったであろう 政略的な婚約を結んでいた2人の仲に暗雲が立ち込めたのは1人の女性の存在 巷で流行している身分差のある真実の恋の物語 フェリシアナは王太子の愚行があるのでは?と覚悟したがーーーー

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

処理中です...