沈む。

鳴沢 梓

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夏が来る度に、彼女の事を思い出す。
あまりにも短い記憶、夢だったのではないかと何度も繰り返し思い出しては、確かな彼女の手のひらの感触が脳裏から離れない。

骨張っているのに柔らかな指。キメ細やかな白い肌。
透き通るような彼女は、やっぱり幻想か、寂しい私の妄想だったのだろうか。



夏風が私の頬を撫ぜ、同じ音が砂浜を打ち付ける。
彼女に会いたい。
それだけの理由で、あれほど嫌いで憎かったこの土地にまた足を踏み入れてしまった。

目を瞑る。
照りつける太陽が、自らの肌をじんわりと温めていくのを感じて。
海の音楽を聞いて、あの日々の事を思い返した。
それは鮮明で、明瞭で、確かにあった記憶。


私と彼女の、たった2ヶ月の物語。
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