5 / 17
平和の国
四
しおりを挟む
アウラは、悲しそうにそう言った。
『でもあの神は、《麒麟》はまだ生きているだろう』
「もう死んだも同然だよ。あいつさえ、あいつさえ早く死んでくれれば…」
そこで、言葉を詰まらす。
一国の主神を、"あいつ"呼ばわりするとは。
ただ、この現状は珍しくない。
災厄によって神の信仰は失われつつある。
「あ、ミノ」
返答に困っていると、たった1人、こちらに駆けてくる子供がいた。
アウラはその子を「ミノ」と呼んだ。
ミノは今にも泣きそうな震え声で、アウラの服を掴みながら言った。
「ねえ、僕、かみさまが死んだら僕も死ぬんでしょ?
かみさまにしねってことは、僕にも死んでほしいってこと?」
アウラの瞳が、揺れたように見えた。
「…ちがう!!そんなことない、違うんだミノ、ごめんね…」
彼は掠れた声で、ごめんねと連呼しながら
ミノを抱きしめた。
ミノの腕は、見るに堪えない火傷の様なモノが皮膚を覆っていた。
「ミノ、お客さんいるんだからダメだよ!」
「ごめんね、お話終わったら遊ぼうね
いっておいで」
ミノを呼びに来た複数の子供たちが、不安そうな顔で僕を見つめていた。
アウラはもう一度彼を強く抱き締め、部屋の入口へと連れていった。
そして僕に向き直すと、ポツポツと語ってくれた。
「僕たちの神様は、災厄で亡くなった…はずなんだけど
加護を持たない亡骸として、燃えながらずっとずっと徘徊してるんだ。」
『…まるでゾンビだな』
「うん。それと同時に奇病が流行りだしてね
最初は小さかった火傷が全身に広がって、最後は焼け焦げて死ぬ病気。
原因も治療法も分からない。でも共通してるのは、災厄の後も《麒麟》を信仰してる人にだけかかる病気ってこと」
『神の信仰を捨てきれない人達が、神と一緒に燃えて亡くなっていってる…?』
「そう、ミノも…両親が熱心な信仰者だった。
どっちも焼け焦げて死んで、とうとうあいつも」
アウラはそこで嗚咽混じりに呟く。
「信仰を捨てさえすれば、治るんだ
でもイヴリスの民にとって、信仰を捨てることは」
『人生を捨てることと、同じ?』
僕のセリフに、彼は頷いた。
「ミノも、他の子供だって、自分が苦しいのは神のせいだって知ってるのに、信じるのをやめようとしない。健気でいい子なんだ。
なのに、なのに……
あいつは、神なんかじゃない
自分を信じる民と心中しようとしてる死に損ないだ」
アウラの語気が強くなる。
目の前で、どれくらいの人が死んでいったのだろうか。
この国で思った以上に悲惨な事が起きている。
早くあの神を鎮めなければこの子達も……
『わかった。ありがとう。僕が何とかする』
「え?お兄ちゃんが?」
アウラは訝しげにこちらを見る。
『弔いの為にここに来た。
何とかできるのは…多分僕しかいない』
『でもあの神は、《麒麟》はまだ生きているだろう』
「もう死んだも同然だよ。あいつさえ、あいつさえ早く死んでくれれば…」
そこで、言葉を詰まらす。
一国の主神を、"あいつ"呼ばわりするとは。
ただ、この現状は珍しくない。
災厄によって神の信仰は失われつつある。
「あ、ミノ」
返答に困っていると、たった1人、こちらに駆けてくる子供がいた。
アウラはその子を「ミノ」と呼んだ。
ミノは今にも泣きそうな震え声で、アウラの服を掴みながら言った。
「ねえ、僕、かみさまが死んだら僕も死ぬんでしょ?
かみさまにしねってことは、僕にも死んでほしいってこと?」
アウラの瞳が、揺れたように見えた。
「…ちがう!!そんなことない、違うんだミノ、ごめんね…」
彼は掠れた声で、ごめんねと連呼しながら
ミノを抱きしめた。
ミノの腕は、見るに堪えない火傷の様なモノが皮膚を覆っていた。
「ミノ、お客さんいるんだからダメだよ!」
「ごめんね、お話終わったら遊ぼうね
いっておいで」
ミノを呼びに来た複数の子供たちが、不安そうな顔で僕を見つめていた。
アウラはもう一度彼を強く抱き締め、部屋の入口へと連れていった。
そして僕に向き直すと、ポツポツと語ってくれた。
「僕たちの神様は、災厄で亡くなった…はずなんだけど
加護を持たない亡骸として、燃えながらずっとずっと徘徊してるんだ。」
『…まるでゾンビだな』
「うん。それと同時に奇病が流行りだしてね
最初は小さかった火傷が全身に広がって、最後は焼け焦げて死ぬ病気。
原因も治療法も分からない。でも共通してるのは、災厄の後も《麒麟》を信仰してる人にだけかかる病気ってこと」
『神の信仰を捨てきれない人達が、神と一緒に燃えて亡くなっていってる…?』
「そう、ミノも…両親が熱心な信仰者だった。
どっちも焼け焦げて死んで、とうとうあいつも」
アウラはそこで嗚咽混じりに呟く。
「信仰を捨てさえすれば、治るんだ
でもイヴリスの民にとって、信仰を捨てることは」
『人生を捨てることと、同じ?』
僕のセリフに、彼は頷いた。
「ミノも、他の子供だって、自分が苦しいのは神のせいだって知ってるのに、信じるのをやめようとしない。健気でいい子なんだ。
なのに、なのに……
あいつは、神なんかじゃない
自分を信じる民と心中しようとしてる死に損ないだ」
アウラの語気が強くなる。
目の前で、どれくらいの人が死んでいったのだろうか。
この国で思った以上に悲惨な事が起きている。
早くあの神を鎮めなければこの子達も……
『わかった。ありがとう。僕が何とかする』
「え?お兄ちゃんが?」
アウラは訝しげにこちらを見る。
『弔いの為にここに来た。
何とかできるのは…多分僕しかいない』
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる