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死の国
二
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青年の後をついていくと、小さな小屋にたどり着いた。
中には、ボロボロの布に包まれたものと、食料が置いてある。
青年は静かにドアを閉め、手招いた。
「先程はありがとうございました。
あなたは命の恩人です」
『気にするな。運が良かったな、僕はさっきこの国に来たばかりなんだ』
「本当ですか?……この惨状を見て、逃げなかったのですか?何故?」
『やらなければならない事がある。
それで、君に聞きたいことがあってな。』
青年は僕の言葉を聞いて、疑わしそうに首を傾げた。
「……僕はこの国の”王子”でした。アルと言います。
この子は……」
そう言うと、布を少し浮かせて包まれているものを見せてくれた。
それは人だった。
体はボコボコに変形し、細胞は所々壊死している。
血だらけで傷も癒えぬまま膿んでいた。
人間なのか鬼なのか、それとも違う何かなのか。
耐え難い光景に、思わず顔を背けてしまう。
「……この子は姫です。”リオ”といいます」
『…ありがとう。僕はヨルだ、よろしく』
運良く王子と姫に出会えたはいいものの、あまりにも酷すぎる惨状に、この先の言葉を言い淀んでしまった。
その空気を察したのか、先にアルが口を開いた。
「僕たちはもう、権力者として機能してません。
国ももうとっくに陥落しています。
あとは死ぬまでずっと、耐え続けるだけです」
『……この国の神は、死んだのか?』
「はい。
”正義の秤”の審判により死刑に処されたのですが
そこから悪夢が始まりました」
アルは俯きながら続けた。
「神が死んでから……亡骸から謎の瘴気が溢れ出しました。
あっという間にこの国を包み込んで、瘴気を吸った民は化け物になって
生き残った人たちを襲い始めました」
『今も亡骸は秤に?』
「はい。王宮の一番奥に。
もう誰も手をつけられません。
姫も、僕も瘴気を吸ってしまいました」
アルはそう言うと、右腕の裾をまくった。
ボコボコに変形し、膿んだ傷が顔を覗かせた。
『そうか………』
思っていた以上に。
いや、想像の範疇を大きく超えて、この国は絶望的な状態だ。
『その正義の秤は、厄災から守れなかった神を裁いたんだよな?この国の最高権力者は誰だ?』
「神です。秤は神の力によって運営されていました。
その力によって……自分自身が裁かれました」
『……そんなことがありえるのか?』
自らが作ったシステムで自らが罰せられる。
神ですら民と等しく平等だが、それでは王政の意味が薄れている。
本当に秤にかけられ処刑されたか。
もしくは、仕組まれたか。
今ではそれを確かめることすら出来ない。
「う…ゥア……」
アルの後ろから、姫のうめき声が聞こえる。
アルは僕に「すみません」と一声かけると、姫のもとへ向かった。
あんな姿になっても、献身的に支えている。
「ヨルさん、そこにある食料を何個か持ってきて貰えませんか?」
『ああ』
過去のことを考えるのは後だ。
今はとりあえず、目の前のことをひとつずつ片付けていくことにした。
中には、ボロボロの布に包まれたものと、食料が置いてある。
青年は静かにドアを閉め、手招いた。
「先程はありがとうございました。
あなたは命の恩人です」
『気にするな。運が良かったな、僕はさっきこの国に来たばかりなんだ』
「本当ですか?……この惨状を見て、逃げなかったのですか?何故?」
『やらなければならない事がある。
それで、君に聞きたいことがあってな。』
青年は僕の言葉を聞いて、疑わしそうに首を傾げた。
「……僕はこの国の”王子”でした。アルと言います。
この子は……」
そう言うと、布を少し浮かせて包まれているものを見せてくれた。
それは人だった。
体はボコボコに変形し、細胞は所々壊死している。
血だらけで傷も癒えぬまま膿んでいた。
人間なのか鬼なのか、それとも違う何かなのか。
耐え難い光景に、思わず顔を背けてしまう。
「……この子は姫です。”リオ”といいます」
『…ありがとう。僕はヨルだ、よろしく』
運良く王子と姫に出会えたはいいものの、あまりにも酷すぎる惨状に、この先の言葉を言い淀んでしまった。
その空気を察したのか、先にアルが口を開いた。
「僕たちはもう、権力者として機能してません。
国ももうとっくに陥落しています。
あとは死ぬまでずっと、耐え続けるだけです」
『……この国の神は、死んだのか?』
「はい。
”正義の秤”の審判により死刑に処されたのですが
そこから悪夢が始まりました」
アルは俯きながら続けた。
「神が死んでから……亡骸から謎の瘴気が溢れ出しました。
あっという間にこの国を包み込んで、瘴気を吸った民は化け物になって
生き残った人たちを襲い始めました」
『今も亡骸は秤に?』
「はい。王宮の一番奥に。
もう誰も手をつけられません。
姫も、僕も瘴気を吸ってしまいました」
アルはそう言うと、右腕の裾をまくった。
ボコボコに変形し、膿んだ傷が顔を覗かせた。
『そうか………』
思っていた以上に。
いや、想像の範疇を大きく超えて、この国は絶望的な状態だ。
『その正義の秤は、厄災から守れなかった神を裁いたんだよな?この国の最高権力者は誰だ?』
「神です。秤は神の力によって運営されていました。
その力によって……自分自身が裁かれました」
『……そんなことがありえるのか?』
自らが作ったシステムで自らが罰せられる。
神ですら民と等しく平等だが、それでは王政の意味が薄れている。
本当に秤にかけられ処刑されたか。
もしくは、仕組まれたか。
今ではそれを確かめることすら出来ない。
「う…ゥア……」
アルの後ろから、姫のうめき声が聞こえる。
アルは僕に「すみません」と一声かけると、姫のもとへ向かった。
あんな姿になっても、献身的に支えている。
「ヨルさん、そこにある食料を何個か持ってきて貰えませんか?」
『ああ』
過去のことを考えるのは後だ。
今はとりあえず、目の前のことをひとつずつ片付けていくことにした。
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