母を訪ねて[こうりがし]

ふつかものですがヨロ

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ななつ

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「オヨヨ~~ン‼︎」

 教室に母親の声が響いた。
 教室にいた生徒達が一言も話さなかったから余計に響いた。

“チャリッコーン! チャリッコーン!”

 静まり返ったまま終了のチャイムが鳴り響いた。

「今日の授業は終わりだ、感想はノートに書いて明日提出な」

「えーー!!!!」

 帰り支度をしながら生徒達が文句を垂らした。
 先生はブーイングを聞きまいと、先に教室から出ていったように見えた。
 廊下に出た先生に『さようなら』と生徒達が挨拶して来る。
 彼も『さようなら』と生徒達に返した。
 友達とお喋りしながら帰る子や、急いで走りながら帰る子を見送りながら、彼は立ち止まった。
 そこの廊下には大きな窓があり、景色を眺めるために足を止めたのだ。

 窓の外は満遍の星に埋め尽くされていた。
 景色に集中しようと彼は窓に近付き、息を止めた。
 ゆっくりと流れる星々は宇宙の壮大さを実感させる。
 突然、右側から大きな青い水の惑星が現れた。
 水の惑星……そう地球だ。

 ここから見える地球は、ちょうど夜になったばかりで色々な建物のライトの明かりで綺麗に輝き始めた。
 今、彼らのいる場所は、地球と月の間に浮かんでいるSFで言うところのスペースコロニーであった。

 時は二十二世紀、人類は宇宙に進出し生活を送れるレベルにまで達していた。
 先生が見ている窓はモニターでコロニーの外からの映像である。
 もちろんリアルタイムの映像だ。

 巨大な円筒型の筒の内側に沿って大勢の人々が生活を送るスペースコロニー。
 回転による遠心力で重力を産み、バランス良く建物や自然が配置されている。
 明かりは太陽光ではなく人工の光なのでUVケアはバッチリだ。

 そして彼等が授業で観ていた、さっきの親子の話は『タイムウォッチャー』というシステムで過去を見る事が出来るタイムマシンであった。
 まだ人を送り出す事は出来ないが任意の時間と場所を視聴する事が出来るようになっていた。

 その『タイムウォッチャー』を使って過去の事例を視聴して生徒達に考察させる道徳の授業で、彼はその先生だった。
 今日は昭和後半のある親子に起こった出来事の考察の授業であった。

 廊下から生徒の声がしなくなった。
 彼は窓の景色を見ながらこの時を、生徒が帰宅していなくなるのを待っていた。

「ぷぷぷぷっ! あーおかしい、笑った笑った!」

 先生は笑いを堪えていたのだ。
 彼はモニターに集中しながら息を止めていたのだ。
 生徒の前で笑ったら薄情だと思われてイメージが悪くなると思い我慢していたのだ。

「他人の不幸は蜜の味って言うけど本当だな、ぷぷっ」

 あの親子を授業に使うのは躊躇したが我慢できなかった。
 みんなに見せてやりたかった。
 自分だけが楽しんでいるだけでは満足できなかったのだ。
 生徒の反応を知りたかったが、子供にはまだ早かったかも知れない。

 だいたい送られて来る過去の映像の教材に、あんなのが混ざっているのがおかしいのだが。
 送って来たメーカーもみんなに見て欲しくて送って来たに違いない。

「はーっ」

 彼は落ち着こうと息を吐いてモニターの映像を眺めた。
 モニター越しだが宇宙はなんて美しいのだろうか。
 コロニーから見た地球はお気に入りの光景であった。
 彼はこの時間が大好きで何時間でも見ていられた。
 ただ、だんだん目の焦点が定まらなくなり、ぼ~っと目上げて眺めているだけになった。
 彼の癖であった。

「ぷぷっ、面白すぎ!」

 それにしても笑いが止まらない。
 冷静になろうと地球の景色に集中した。

「あれ、流れ星か?」

 モニターの映像はリアルタイムだ。
 いくつもの流れ星が地球に向かって飛んで来ている。

“ウィーー‼︎ ウィーー‼︎”

 突然アラームが鳴り響いた。
 理由はすぐ分かった。
 たった今、見ているからだ。
 いくつかの隕石が地球に落ちている。
 彼は木星に衝突した『シューメーカー・レヴィ第9彗星』の資料を思い出した。
 隕石が落ちた場所は大爆発を起こしている。

(他人の不幸を笑ったせいなのか?)

 科学的ではない考えが頭をよぎった。
 未来人らしからぬ発想は授業で過去の人達を観てきたせい?

 隕石が落ちている場所は見覚えがあった。

(あっ、あそこは父さん母さんが住んでいる地元じゃないか!)

 彼は居ても立っても居られなかった。
 でもここではなにも出来ない。
 彼は両親に連絡するため生体端末にアクセスした。
 スマホが体内に入っていると思えばいい。

「るーるるる、るーるるる」

 家族に繋がらない。
 目の前のモニターには次から次へと落ちていく隕石が映し出された。
 大気圏を突入した隕石は赤く尾を引き、昔住んでいた土地に衝突して大爆発ですべてを破壊つくしている。

 地元の友達にも繋がらない。
 彼は恐怖で体を震わせた。
 なにも考えられない。

「あぁ、父さん! 母さん! みんな……」
 
 モニターの映像が変わって地上の映像に切り替わった。
 そこには逃げ惑う人達が映っていた。
 現場のニュース映像だ。
 夕方であるが未来的大型照明で全体が昼間と変わらない明るさになっていた。
 レスキューしやすくするためだ。
 彼は血まなこになって家族や知人を探した。

(あっ、あれは!)

 モニターの隅に見えるのは両親ではないか。
 なにかしている。

「あっ!」

 なんと父は空に向かって拳銃を撃っているではないか。
 銃で隕石を撃ち落とそうとしているのだ。
 そして母は空に向かってホウキを振り回して隕石を追い払おうとしている。

 なにか言ってる。
 それにあわせてカメラは彼等にズームアップして音声も拾い出した。

「こっちに来ないでー! シッシッ!」

「パンパン! この銃で進路を変えてやる! パンパン!」

「パパ、凄いわ! ワタシもホウキで振り払うから! ゴミはゴミ箱に、パッパッ!」

「父さん……母さん……」

(ああ~、赤の他人なら笑える衝撃映像なのに……)

 政府の情報が生体端末に入って来た。
 被害は少なく大きな光は空中爆発だったそうだ。

「ぴーひょろ、ぴーひょろ」

 その時、地元に住む友達から連絡が来た。

「お前ん家、隕石が落ちて燃えたぜ」

「えっ!」

「それで、お前の両親が怒って暴れ出してさぁ」

「なっ!」

「それでみんなで、なだめたんだが……ぷっ、ぷぷぷぷっ! 
 あっ、ゴメンゴメン……ぷぷっ、お前の両親が……ぷぷぷっ、おかしくて……ゴメンな、ぶはぁ‼︎」

「はぁ……」

「いやぁ、人の不幸は蜜の味ってホントなんだな。
 あっ、ゴメン……ばぷわぁ‼︎」

「えっ!」

 モニターの画面が変わった。
 見知っている場所だ。

(家だ……実家が映し出されたー!)

 カメラに両親が映っており、カメラマンを呼んで家の内部を写すよう手招いている。

「おいおい……」

 彼は戸惑いながらも観ているしかない。
 友達は家が燃えたと言っていたが、火はもう消えているようだ。
 比較的、無事な部屋が映し出された。

(あれ、オレの部屋じゃないか!)

 部屋に侵入したカメラは思っていたより荒れている内部を映し出した。
 モニターにテロップが流れた。
 部屋の住民の名だ。

「あー‼︎」

(自分の名前とマイナンバーだ! オレの個人情報が流れたぁ!)

 知り合いの誰かが情報をリークしたに違いない……両親だ、きっと!
 テロップはすぐ消えた。

「結構やられてますね」

 カメラマンか、レポーターの声が聞こえた。
 勝手に部屋の物を物色している。

「ああっ! こ、これは!」

 なにか見つけたようだ。
 彼もモニター越しに見入った。

「これは本です! 紙媒体がまだあるのは珍しい……息子さんはコレクターですね」

 お宝な本を無造作に漁ってる。

(やめろ! オレのお宝を勝手に触るんじゃない!)

「いや凄い! この本、雑誌の数は……これは……ベースボール……野球選手の写真です。
 野球の情報雑誌です」

 レポーターは雑誌の一冊を手に取った。

「……こ……こうしえん?
 甲子園! これは日本の高校野球の情報誌です」

 懐かしい表紙がモニターに映った。

「ああ、息子はベースボールが好きでな、特に昔の日本の若者がやる高校野球が大好きなんだ。
 ちなみに息子はスペースコロニーで学校の先生をやっているんだがな」

(懐かしい……日本の高校野球に夢中だったなぁ。 
 それにしても、どんどんオレの個人情報が披露されてるぞ)

 レポーターはお宝の高校野球の雑誌を無造作に投げ捨てて、さらに奥をまさぐった。

(おい、オレのお宝、オレの青春時代の相棒を雑に扱うな!)

 さらに奥には大きなダンボール箱があった。
 それをレポーターは壊すが如く乱暴にこじ開けた。

(あっ! それって!)

 出て来たのは若くて綺麗な女性が表紙の雑誌だ。
 それもたくさん。

「あーっ! みなさん、見てください!
 レアです! グラビアの写真集です!」

 レポーターは大はしゃぎだ。
 調子に乗ってさらに雑誌を掘り出し始めた。
 なにか確信を持ったレポーターは懸命にダンボールの奥をあさり出したのだ。

(ちょ待てよ……その奥には……)

「ちょ待てよ!」

 本当のお宝を手にしたレポーターはカッコつけながら生意気に叫んだ。
 そしてカメラに向けて表紙のアップをドンと映した。

「こ・れ・は!
 女性の裸の写真ですよ! ヌード写真集です!
 息子さん……コレクターですね、お父さん、ぷぷっ」

「ワシャ知らん! なぜワシに見せて……いや、不健全だ!」

「こっちの写真集は……裸の女性がロープで縛られてますねぇ、SMですね!
 見てください、お母さん! 女性がムチで! お母さん、SMですよ! お母さん! ぷぷっ」

「ワタシも若い頃……いえ、息子が恥ずかしいわ」

 さらなるお宝を探そうとレポーターは血まなこで漁ってる。

「これは……大自然の中で……アオカンですね! ぷぷっ」

 まわりには友達や近所の顔見知りが集まって……笑ってる!
 思いっきり笑ってる!

「おっ、この写真集は……」

 レポーターはついにとっておきの秘蔵品を手にした。

「こ、これは凄い! 少女です! お宝です! 少女の裸です! 幼いです!
 息子さん……ロリコンですねぇ、ぷぷっ」

 彼の生体端末に連絡が入った。

「りん、りん、りりん」

「も、もしもし……」

「あなたが担任の女子生徒の親ですが、ちょっと話を聞きたいのだが……」

 男はパニック状態に陥った。

「あわわ、わー!」

 そして心が萎縮して精神薄弱な状態に陥った男は、こんな奇声を発したのだった。

「オヨヨ~~ン‼︎」




 *KAN(完)* 
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