僕は、転生できませんでした。

ふつかものですがヨロ

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俺好みの美少女に間違いない!

第21話 「妄想と現実とやらないか」

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 俺たちは『みんなの大衆浴場』に着いた。
 それほど大きな建物ではなく、浴槽なんかはひとつしかないんじゃないかと思わせるサイズだ……ひとつ……ホントにひとつしかなかったりして。
 ひょっとして、ひょっとしてだけど……混浴だったりして……
 俺は女子たちの方を見た。
 い、一緒にお風呂に入れたりして……皆んなの身体の洗いっこが見られるじゃありませんか?
 混浴だから甲冑少女は甲冑を着込んだままなのか? いや、それはない……はず。

 俺ひとり興奮していると、もうひとり興奮しているヤツがいた。

「い、一緒にに入れるの? アハハハ」

 鼻息を荒くして女子に聞くイマダン。

「オマエはアホか! オマエはアッチだ!」

 魔童女は玄関の中の二つのドアの向こう側を指差して怒鳴った。

 だよねぇ~、俺たちはガッカリして男湯の方へ入っていった。
 案の定、更衣室は狭く脱衣服置き場のセキュリティーも甘い。 

 イマダンは素早く服を脱いだ。

「替えの下着、どうしよう?」

 ここでやっと、お風呂セットの重要性に気付いたか。

「まっ、いいか」

 いいのか?

 イマダンは浴槽に続く扉を開いた。
 予想通りの狭さだ。
 浴室は五人も入ればギュウギュウなスペースで、浴槽も二人で満杯だ。
 壁は木の板で地面はタイルで敷き詰められていた。
 客もオジサンひとりだけだ。
 イマダンは身体を軽く洗って湯船に浸かった。

「あぁ~」

 お爺さんのような腑抜けた声が、小さな浴場に響き渡った。
 なんて気持ちよさそうな雄叫びなんだ。
 俺もお湯に触ってみたが、濡れも熱くもない。
 俺、見えるけど実体はないんだ……
 触れてみても浴槽のお湯が波立たないのを見て、改めて実感する虚しさ……

 操作盤の上に積み上がったコイン……操作盤を揺らしても、叩いてもコインは落ちない。 
 でも一枚一枚手で取って持てる。
 俺やゲーム操作盤などは物理法則など関係ないのだろう……

 お風呂に来たのに入る事が出来ない俺は、せめて妄想だけでもと目を閉じた。
 テレビで見た、人が滅多に訪れない山奥の岩に囲まれた秘境温泉……
 誰にもジャマされずにのんびりとお湯に浸る解放感……ああ、極楽極楽……でも、なんだか少し……寂しい……
 チャプチャプ……お湯が動く音……ピチャンと水滴の音……キャッキャウフフ……えっ?
 女の子の声?

 俺は目を見開き、木の板で仕切られた壁を見た。
 女性の声がする方の木の壁は、ほかと構造が違ってあとから改修した感じで板が薄い感じがする。
 その板は浴槽を横断し半分にしているかのようだ。
 そうか、元々ひとつの浴場を男湯と女湯に分けたんだ。
 それで浴室を広くするため隔てた板を薄くしたんだ、きっと!
 
 そうだよ、隣は女湯じゃないか! この薄い壁の向こうに彼女たちがキャッキャウフフと洗いっこをしている……天国だ……妄想だけなら怒られないぞ、相棒!
 俺はワクワクしながら相棒を見た。

 わっ! 相棒は薄い壁に、思いっきり耳を当てて彼女らの楽しそうな声を聞いているではないか!
 しかも木の板に隙間がないか、隈なくチェックしている。
 俺を超える行動力、ヤツに身体を取られて負けたのはこういう所だったのか! 
 ……悔しい!

 俺も木の板の隙間を探したが、びっしりと塞がっていて向こう側が見えない。
 木の壁の向こうから女子の声がする……でもなにを話しているかまでは分からない。
 
 ガッカリした相棒は勢いよく浴槽から出た。
 相棒の目はギンギンに見開き、下の相棒もギンギンだ!
 まったくコイツは……羨ましいな!

 その時、ひとりしかいない客のオジサンがギンギンの相棒のギンギンの相棒を見て、笑みを浮かべて興奮するように声をかけた。

「おまえもコッチ系か、おれとやらないか?」

 オジサンはどうやらソッチ系で男湯で興奮しているイマダンを仲間だと思ったらしい。
 アッチ系ではないイマダンは急いで浴室から出て、速攻で服を着て男湯を飛び出した。
 本来なら出口で皆んなが出て来るのを待っているのが正しいがオジサンか彼女たちか、ドッチが先に出て来るか分からない。
 オジサンに待っていると勘違いされたらたまったものではない。

「オジサン、怖い‼︎」

 イマダンは一目散に『みんなの大衆浴場』から逃げ出した。


   ***


 全速力で村を走り抜けた。

「はぁ、はぁ、はぁ!
 ここまで来ればもう安全だ……ここはどこだ?」

 イマダンは迷子になった。
 人っ子一人歩いていない周りを不安げに見渡した。
 空は日が沈みかけ、丸い月が見え始めた。
 帰る宿を探すのをやめたイマダンは月を見つめながら当てもなく歩き出した。

「ああ、ここ……異世界なんだ……
 おれ、ちゃんと生きていけるのかな……」

 ああ、そうなんだ、コイツも俺と同じ境遇なんだよな……
 俺も丸い満月を見上げた。

「皆んなもキツイよな……あんなにコキ使わなくてもいいのに……」

 あはは……確かに。
 女子の中に男ひとりだと、こうなり易いんじゃないかな……

「あっ!」

 イマダンは人里離れた場所にベンチがあるのを発見し、そこに腰を下ろした。

「ふ~!」

 木に囲まれたベンチは昼間でも日が当たらず、さらに見通しが悪そうなので、人目を気にせずゴロ寝出来そうだ。
 
「おれ……戦ったよな……それであのサンタさん、倒したよな……」

 イマダンは自分の手を見ながら、あの戦闘を思い出していた。
 神はどのような記憶をイマダンに与えたのかは知らないが彼はイマイチ納得はしていないようだ。

「まさに無双、チート、おれTUEEEじゃないか!
 おれ、勇者になれるんじゃねえ」

 納得していないんじゃなくて、満足していたのか!
 妄想も大概にしろよ!
 言っておくけど俺の力だからな、俺がゲームをしたおかげだからな!
 ……ゲームのおかげなのか……
 俺はゲーム操作盤を見て、この中のゲームソフトのおかげ……俺の強さは関係ない……確かに操作盤を操っていたのは俺だが、攻撃力自体はゲームのパラメーターの強さ、これが現実なんだ……
 神からもらったチート能力は本来の自分の力ではなく、本当に神からもらったものなんだ……

「お、おれ……勇者なんだから……ハーレム作ったってイイよな!
 彼女たちだって、ハーレム要員だから側にいるんだよな」

 コラ! モトダンはグランドマザコンだから手を出すはずがないだろ!

「あ~、ヤリて~」

 勇者はハーレムなんか作らない。 
 コイツの監視をしっかりやらなくては。

「君、今『ヤリて~』って言わなかったかい」

 目の前に見知らぬオジサンが現れて声を掛けて来た。

「は、はぁ~」

 イマダンは意味が分からず、軽く返事をした。

「このベンチはねぇ、僕と同じ趣味の人専用のベンチなんだ。
 君もヤリたいんだろ、男の中の男をやりたいんだろ」

 男の中の男! イマダンは夜の大人の店の勧誘と思ったのだろう、顔がニヤけて浮き足立った。
 コイツ、俺の目の前で大人の階段を登る気か。

「そうか! 
 僕も我慢出来なかったんだ! 君は若くてイケメンだからね。
 僕とやらないか」

「えっ?」

 俺もイマダンも要領が掴めない。
 オジサンはさっそくズボンを脱ぎ出し、おしりをこちらに向けた。

「さあ! 男の中に男を突っ込んでくれ!」

「うわーー‼︎」

 イマダンは一目散に逃げ出した。


   ***


 走り抜けた先に宿屋があり、部屋に飛び込んだ。

「はぁーはぁーはぁー! 嫌な汗をかいてしまった、はぁーはぁー!」

 風呂に入ったばかりなのに、もう汗びっしょりなイマダン。
 彼は服を全部脱いで、全裸でベッドにダイブした。
 しかし、この村の男たちは皆んなそうなのか?
 一日に二人も、しかも短時間に出会うなんて。
 
 イマダンはしばらく大人しくしていたが、なんだかイヤな声がする。
 これだけ汗をかいて散々な目にあったんだから、もう寝ろ!

「み、皆んなでお風呂……裸でお風呂……キャッキャウフフ……オッパイ……」

 止めろぉ! またオッパじめるつもりかぁ!

「オ、オッパイ……」
 “ドンドン!”
「オ、オジサン……⁉︎」
 “ドンドン”
「キュピ!」

 また激しくドアを叩く音がした。
 今、レッドキャップのカワイイ悲鳴が? どこだ、どこにいる! イマダンの悲鳴か……
 いや、その前にオジサンって言ったよな!
 どういう事だ。
 慌てふためきながら服を着替えて、ドアを開けた。
 そこには女子たちがそろっていた。

「ち、違うんだ!」

 魔童女はイマダンにツッコまずに、言い放った。

「オマエはクビだ![You're fired!]」

 え~! なんでぇ~⁉︎
「え~! なんでぇ~⁉︎」

 俺はまたトランプのカードを思い出した。
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