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そしてコトコトと煮込んでいい匂いが漂ってくる頃になると、フラッとソヴァンが食堂にやってきた。
「あれ、ソヴァンじゃん。どうしたの? 食べ足りなかった?」
「……いや、そろそろアリアナがあいつの所に食事を持っていくかなと思って」
テーブルを拭いていたティオンが食堂にやってきたソヴァンに声をかけると、ソヴァンは少し言いづらそうにティオンに答えた。それを聞いたティオンは、他人に無関心だったソヴァンが自らアリアナとの時間を取ろうとする事に驚いて「えっ、ソヴァンが行くの?」と聞き返していた。
「いや……俺がロゼに命令をされた訳じゃない。でも、誰かに命令をしていた訳でもなさそうだったから来た」
「フーン、俺達が行っても良かったんだけどね。俺達だってアリアナちゃんの事、気に入ってるし」
「お前達は昨夜一緒に寝ていただろう」
「そういうソヴァンだってアリアナちゃんと何度も寝てるじゃん」
お互い自分がアリアナと一緒に行きたいと思っているため、次第に睨みあうような形となり、一触即発の空気が食堂内に満ちた。
「……接近戦では俺の方が強いって知ってるよね?」
「そうだな。だが、負ける気はしない」
「接近戦が苦手な上、怪我をしてる人が勝つ気でいるの? 随分と舐められたものだねっ」
ダンッと床を蹴って一気にティオンが距離を詰めると、ソヴァンに向かって殴りかかった。ソヴァンはその素早い動きに何とか反応して避けるが、左から来た蹴りは反応が遅れてしまい、怪我を負った腹に直接蹴りが叩き込まれた。あまりの激痛にソヴァンの額には脂汗が浮かび、腹の傷をかばいながらティオンから距離を取った。
「くっ……は、ぁ……」
「ほら、怪我人はさっさと部屋に戻って寝てなよ」
「……っ、この程度、何てことない」
ソヴァンは気丈にそう言うと大きく息を吐いて呼吸を整え、今度は自分から攻撃を仕掛けた。傷をかばいながら動くため、動きにキレが無く、どの攻撃もティオンには届かないが、それでも攻撃の手を止めることなく畳みかけていた。
「あのさ、無駄に動いたらまた傷口が開いてデュオに怒られるんじゃない?」
「そう思うなら、俺にアリアナの同行をさせろ。それで一件落着だ」
「えー、それは嫌だ。アリアナちゃんの事を好きなのはソヴァンだけじゃないんだよ」
そう言うやティオンはソヴァンの腕をつかむと力をいなしながら足を引っかけ、綺麗にソヴァンを転ばせて起き上がれないように背中に乗った。するとバタバタと食堂が騒がしいことに気付いたティタとアリアナが厨房から出てきて、二人の状況を見て眉をひそめた。
「ティオン、仕事をさぼって何をしている」
「ゲッ、タイミング悪っ! いや、これはソヴァンから吹っ掛けてきたんだよ」
「ちょ、ティオンさん、ソヴァンさんはケガ人ですよ!?」
「だーかーらー!」
「……ティオンにいじめられた」
弁解をしようとするティオンの言葉にかぶせるようにソヴァンがボソッと言うと、やっぱりと言うように二人は疑いの目をティオンに向けた。疑いの目を向けられたティオンは苛立たし気に頭を掻くと「あー、もう!」とソヴァンの上から退いてプイッとそっぽ向いた。アリアナの手を借りて起き上がったソヴァンは、じわっと自身の体から血が流れ出る感覚がして苦々しい表情で腹の傷を押さえた。
「ソヴァンさん、大丈夫ですか?」
「……あぁ、大したことないが……一応ドクターに見てもらう。一緒に医務室に行っていいか?」
「あ、ソヴァンずるいぞ! まさか最初からそのつもりで俺に喧嘩を吹っ掛けたんじゃないだろうな!」
「ティオン、今回は諦めろ。数の利はこっちにあるから焦らなくていい。俺とティオンの二人でアリアナを囲えばいいでしょ」
ぎゃんぎゃんと騒ぐティオンをティタが抑えると、そのまま首根っこをつかんで一度食堂へ下がらせた。そしてすぐにティオンが不貞腐れた顔でアリアナが作った雑炊を持って戻ってくると、アリアナに雑炊が乗った盆を渡した。
「熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
「……俺の事、嫌いにならないでよね」
すねた子供のような顔でそう言うティオンに、アリアナはくすっと笑って「はい」とうなずいた。
「大丈夫ですよ。でも、次から気をつけてください」
「だから、あれは……ん、分かった。気をつけるよ」
一瞬弁解をしようとしたが、それよりもうなずいた方が得と考えて続きの言葉を飲み込み、素直にうなずいてからアリアナの頬にキスをした。
「今日はこれで全部帳消しにするよ。じゃ、行ってらっしゃい」
パッと笑顔に戻り、ひらひらと手を振って厨房へ戻るティオンにアリアナは苦笑をしながらも「行ってきます」と言ってどこか不服そうなソヴァンと一緒に医務室へ向かった。
「あれ、ソヴァンじゃん。どうしたの? 食べ足りなかった?」
「……いや、そろそろアリアナがあいつの所に食事を持っていくかなと思って」
テーブルを拭いていたティオンが食堂にやってきたソヴァンに声をかけると、ソヴァンは少し言いづらそうにティオンに答えた。それを聞いたティオンは、他人に無関心だったソヴァンが自らアリアナとの時間を取ろうとする事に驚いて「えっ、ソヴァンが行くの?」と聞き返していた。
「いや……俺がロゼに命令をされた訳じゃない。でも、誰かに命令をしていた訳でもなさそうだったから来た」
「フーン、俺達が行っても良かったんだけどね。俺達だってアリアナちゃんの事、気に入ってるし」
「お前達は昨夜一緒に寝ていただろう」
「そういうソヴァンだってアリアナちゃんと何度も寝てるじゃん」
お互い自分がアリアナと一緒に行きたいと思っているため、次第に睨みあうような形となり、一触即発の空気が食堂内に満ちた。
「……接近戦では俺の方が強いって知ってるよね?」
「そうだな。だが、負ける気はしない」
「接近戦が苦手な上、怪我をしてる人が勝つ気でいるの? 随分と舐められたものだねっ」
ダンッと床を蹴って一気にティオンが距離を詰めると、ソヴァンに向かって殴りかかった。ソヴァンはその素早い動きに何とか反応して避けるが、左から来た蹴りは反応が遅れてしまい、怪我を負った腹に直接蹴りが叩き込まれた。あまりの激痛にソヴァンの額には脂汗が浮かび、腹の傷をかばいながらティオンから距離を取った。
「くっ……は、ぁ……」
「ほら、怪我人はさっさと部屋に戻って寝てなよ」
「……っ、この程度、何てことない」
ソヴァンは気丈にそう言うと大きく息を吐いて呼吸を整え、今度は自分から攻撃を仕掛けた。傷をかばいながら動くため、動きにキレが無く、どの攻撃もティオンには届かないが、それでも攻撃の手を止めることなく畳みかけていた。
「あのさ、無駄に動いたらまた傷口が開いてデュオに怒られるんじゃない?」
「そう思うなら、俺にアリアナの同行をさせろ。それで一件落着だ」
「えー、それは嫌だ。アリアナちゃんの事を好きなのはソヴァンだけじゃないんだよ」
そう言うやティオンはソヴァンの腕をつかむと力をいなしながら足を引っかけ、綺麗にソヴァンを転ばせて起き上がれないように背中に乗った。するとバタバタと食堂が騒がしいことに気付いたティタとアリアナが厨房から出てきて、二人の状況を見て眉をひそめた。
「ティオン、仕事をさぼって何をしている」
「ゲッ、タイミング悪っ! いや、これはソヴァンから吹っ掛けてきたんだよ」
「ちょ、ティオンさん、ソヴァンさんはケガ人ですよ!?」
「だーかーらー!」
「……ティオンにいじめられた」
弁解をしようとするティオンの言葉にかぶせるようにソヴァンがボソッと言うと、やっぱりと言うように二人は疑いの目をティオンに向けた。疑いの目を向けられたティオンは苛立たし気に頭を掻くと「あー、もう!」とソヴァンの上から退いてプイッとそっぽ向いた。アリアナの手を借りて起き上がったソヴァンは、じわっと自身の体から血が流れ出る感覚がして苦々しい表情で腹の傷を押さえた。
「ソヴァンさん、大丈夫ですか?」
「……あぁ、大したことないが……一応ドクターに見てもらう。一緒に医務室に行っていいか?」
「あ、ソヴァンずるいぞ! まさか最初からそのつもりで俺に喧嘩を吹っ掛けたんじゃないだろうな!」
「ティオン、今回は諦めろ。数の利はこっちにあるから焦らなくていい。俺とティオンの二人でアリアナを囲えばいいでしょ」
ぎゃんぎゃんと騒ぐティオンをティタが抑えると、そのまま首根っこをつかんで一度食堂へ下がらせた。そしてすぐにティオンが不貞腐れた顔でアリアナが作った雑炊を持って戻ってくると、アリアナに雑炊が乗った盆を渡した。
「熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
「……俺の事、嫌いにならないでよね」
すねた子供のような顔でそう言うティオンに、アリアナはくすっと笑って「はい」とうなずいた。
「大丈夫ですよ。でも、次から気をつけてください」
「だから、あれは……ん、分かった。気をつけるよ」
一瞬弁解をしようとしたが、それよりもうなずいた方が得と考えて続きの言葉を飲み込み、素直にうなずいてからアリアナの頬にキスをした。
「今日はこれで全部帳消しにするよ。じゃ、行ってらっしゃい」
パッと笑顔に戻り、ひらひらと手を振って厨房へ戻るティオンにアリアナは苦笑をしながらも「行ってきます」と言ってどこか不服そうなソヴァンと一緒に医務室へ向かった。
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