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第0章 前日譚
第3話 来訪者・前編
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通話を終えた私は、部屋の片づけを始める事にした。
初対面の人が部屋に来る。こういう時に限って、普段は掃除しない所まで手を付けてしまう。いくら左腕が治っているとはいえ、ギプスをつけたままなので動きづらい。もういっそのこと、自分で外してしまうかと思ったが、専用の切断カッターが無いと苦労するものがある。
玄関のチャイムが鳴った。時計に目をやると結構な時間が立っている。いつの間にか掃除に夢中になっていたようだ。最低限の準備は出来たか急いで最終確認を済ませ、玄関へと足を運び、私は返事をしながらドアを開けた。
「初めまして。先ほどお電話した村瀬と申します」
(美しい人だ……)
「こちらこそ初めまして。中島と申します」
「これ、つまらないものですが」
そう言って粗品を渡されたのでお礼を述べる。
「上がってもよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞお上がりください」
普段、女性が自分の部屋に入る事などないので、若干緊張している。予め用意しておいたお茶菓子が乗ったテーブルを前にして、着席を勧める。お互いが席に着いた所で会話が始まった。
「先ずは改めまして、助けて頂きありがとうございました。おかげ様で怪我も無く」
「いえ、こちらもすぐに気を失ってしまい、そちらが無事だったか不明だったので安心しました」
「病院に入院されていると聞いたとき、本当はすぐにでも伺わせて頂こうかと思ったのですが、諸事情で機会が無く、申し訳なく思っておりました」
別にお礼を言われたかったわけではないが、目の前に車に轢かれそうな人がいたから反射的に動いてしまったのである。しかしなるほど、事故を起こした車の人は私の病室に謝罪の来訪があったが、彼女は何か理由があって顔を出せなかったという事か。他に話題も無いので直接聞いてみる。
「なるほど、そうでしたか。差し支えなければ諸事情とは何か聞いてもよろしいでしょうか?」
「………」
「いえ、無理に聞こうとは思っておりません。ただの世間話だと思って頂ければ」
少し考えこんだ後、彼女は言葉を発した。
「実は、とある探し物をしていました」
「探し物ですか? どんなものでしょう?」
「詳しいことはお話しできないのですが、私はあの時、そのとある物を探していて、中島さんを交通事故に遭わせてしまったのです」
そうだったのか。探し物か……。
その時、私の脳裏に浮かんだ言葉は、神様に言われた言葉だった。
【困っている人がいたら、自分のできる範囲で人助けをしなさい】
今が、その時という事なのか。
「村瀬さん。何か力になれる事はございませんか?」
「力ですか? いえ、そのような事を頼むためにここに来たのではありません。あくまで私はお礼を言いに来ただけですので」
若干、困惑の表情を見せた彼女に対し、私は返事をする。
「そうですね…。しかし、これも何かの縁かもしれません。詳しいお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
「それは、しかし……」
「では、こうしましょう。私も村瀬さんにお話しする事がひとつあります」
「お話ですか?」
「ええ、そうです。私の秘密です。まぁ、それも村瀬さんのおかげとも言える秘密ですが」
「私のおかげ? 一体、何のことでしょうか」
私は深呼吸をし、台所にむかい、右手で包丁を取り出し、自分の首につけて彼女の方を向く。
「中島さん!? 何を為さるのですか!?」
私は自分の首に包丁で勢いよく傷をつけた。カッターで試し切りした時とは違い、今度は軽い怪我では済まされない。
「!?」
首に切り傷をつけた後、私はすぐに頭の中で<<カルマ>>と念じていた。
焦る彼女に対して僕は声をかける。
「村瀬さん、見てください。僕の首を」
「え!!? ……。血が止まって、傷……が……治った……?」
「私はあの交通事故があった後、この不思議な力を手に入れました。見ての通り、怪我をしたり、骨折をしたとしても、この不思議な力のおかげで治癒してしまうのです」
驚きの表情を見せる彼女に対して言葉を続けた。
「どうでしょう。何かお力になれませんか?」
初対面の人が部屋に来る。こういう時に限って、普段は掃除しない所まで手を付けてしまう。いくら左腕が治っているとはいえ、ギプスをつけたままなので動きづらい。もういっそのこと、自分で外してしまうかと思ったが、専用の切断カッターが無いと苦労するものがある。
玄関のチャイムが鳴った。時計に目をやると結構な時間が立っている。いつの間にか掃除に夢中になっていたようだ。最低限の準備は出来たか急いで最終確認を済ませ、玄関へと足を運び、私は返事をしながらドアを開けた。
「初めまして。先ほどお電話した村瀬と申します」
(美しい人だ……)
「こちらこそ初めまして。中島と申します」
「これ、つまらないものですが」
そう言って粗品を渡されたのでお礼を述べる。
「上がってもよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞお上がりください」
普段、女性が自分の部屋に入る事などないので、若干緊張している。予め用意しておいたお茶菓子が乗ったテーブルを前にして、着席を勧める。お互いが席に着いた所で会話が始まった。
「先ずは改めまして、助けて頂きありがとうございました。おかげ様で怪我も無く」
「いえ、こちらもすぐに気を失ってしまい、そちらが無事だったか不明だったので安心しました」
「病院に入院されていると聞いたとき、本当はすぐにでも伺わせて頂こうかと思ったのですが、諸事情で機会が無く、申し訳なく思っておりました」
別にお礼を言われたかったわけではないが、目の前に車に轢かれそうな人がいたから反射的に動いてしまったのである。しかしなるほど、事故を起こした車の人は私の病室に謝罪の来訪があったが、彼女は何か理由があって顔を出せなかったという事か。他に話題も無いので直接聞いてみる。
「なるほど、そうでしたか。差し支えなければ諸事情とは何か聞いてもよろしいでしょうか?」
「………」
「いえ、無理に聞こうとは思っておりません。ただの世間話だと思って頂ければ」
少し考えこんだ後、彼女は言葉を発した。
「実は、とある探し物をしていました」
「探し物ですか? どんなものでしょう?」
「詳しいことはお話しできないのですが、私はあの時、そのとある物を探していて、中島さんを交通事故に遭わせてしまったのです」
そうだったのか。探し物か……。
その時、私の脳裏に浮かんだ言葉は、神様に言われた言葉だった。
【困っている人がいたら、自分のできる範囲で人助けをしなさい】
今が、その時という事なのか。
「村瀬さん。何か力になれる事はございませんか?」
「力ですか? いえ、そのような事を頼むためにここに来たのではありません。あくまで私はお礼を言いに来ただけですので」
若干、困惑の表情を見せた彼女に対し、私は返事をする。
「そうですね…。しかし、これも何かの縁かもしれません。詳しいお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
「それは、しかし……」
「では、こうしましょう。私も村瀬さんにお話しする事がひとつあります」
「お話ですか?」
「ええ、そうです。私の秘密です。まぁ、それも村瀬さんのおかげとも言える秘密ですが」
「私のおかげ? 一体、何のことでしょうか」
私は深呼吸をし、台所にむかい、右手で包丁を取り出し、自分の首につけて彼女の方を向く。
「中島さん!? 何を為さるのですか!?」
私は自分の首に包丁で勢いよく傷をつけた。カッターで試し切りした時とは違い、今度は軽い怪我では済まされない。
「!?」
首に切り傷をつけた後、私はすぐに頭の中で<<カルマ>>と念じていた。
焦る彼女に対して僕は声をかける。
「村瀬さん、見てください。僕の首を」
「え!!? ……。血が止まって、傷……が……治った……?」
「私はあの交通事故があった後、この不思議な力を手に入れました。見ての通り、怪我をしたり、骨折をしたとしても、この不思議な力のおかげで治癒してしまうのです」
驚きの表情を見せる彼女に対して言葉を続けた。
「どうでしょう。何かお力になれませんか?」
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