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第1章 本章

第13話 事態は二転三転する・後編

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 運転している中島もそれに気づいたらしい。

「ん? なんだろ? まぁよくある事じゃないかなぁ。行き先が同じ車がいるなんて」

 私は平静を装いながら村瀬さんに目線で合図する。気づいてくれたらしい。
 村瀬さんが飯田に話しかける。

「あぁー……。飯田さん、すみません。私トイレ行きたくなってしまいまして」

「ん? あー、分かりました。じゃあ次のサービスエリアに寄りましょう。数分で着きますんで」

 とりあえず車はサービスエリアまで行くことになった。何も起こらなければいいが。
 と、急に後ろの車はスピードを上げ始め、私たちの車に近づいてくる。
 私たちの乗っている車に並走するように追い付いてくると、助手席の窓が開き、乗っている男が手を外にだし、手のひらをこちらに向けている。飯田もそれに気づいたようだ。

 すると男の手のひらから、電撃が放出され、私たちの車を攻撃してきた。
 飯田がビックリして叫ぶ。

「うおおお!? ナ、ナンダァ!?」

 しかし、その攻撃はさほど効果が無かったのか、私たちの車はまだ無事だ。

 私は飯田に声をかける。

「飯田! とりあえず次のサービスエリアまで急いで逃げよう!」

「そ、そうだな! よ、よし!」

 飯田も車のスピードを上げて逃げるように車は走る。

 犯罪者たちの車もそれに追い付いてくるように車のスピードを上げてくる。

 村瀬さんが、咄嗟に状況を判断する。

「飯田さん。車で体当たりされたら厄介だわ。気を付けて」

「お…、おう!」

 マリが現在の状況を見て、村瀬さんに対して提案を申し出る。

《私の力を使いますか。村瀬様。車の方向を変えるくらいならば出来ますが》

「いえ、それは危険よ。止めておきましょう」

《了解です》

 マリの能力は、物を操り飛ばす能力だ。恐らく、犯罪者の車を操り、妨害してくれようとしたのだろうが、それは無関係の人まで巻き込む事故になりかねない。
 ここは、サービスエリアまで逃げ切るしかない。もう少しでつく。

 犯罪者たちの車がスピードを上げて私たちの車に近づこうとするが、飯田が運転に集中してくれているおかげか、何とか安全を保てている。というより飯田の運転テクニックが凄い。私たちは無事にサービスエリアまで到着した。
 運よく、広く空いているスペースがあったので、そこに車を止める事ができた。

 私たちは車を降りて、追ってきた犯罪者たちの車の方を確認する。
 向こうも車から降りてきた。人数は、運転手含めて1,2,3,4人だ。

 村瀬さんが飯田に呼びかける。

「飯田さん。ここは私たちに任せて、警察に電話してきてくれないかしら?」

「い、いやしかしだな。女性を置いて逃げるわけには」

 私も合わせるように飯田に話す。

「大丈夫だ。俺もいる。すぐに警察を呼んでくれ」

「~~~~~ッ。誰か呼んでくる! それと携帯で警察呼んだらすぐ戻るからな!」

 飯田は走って建物の中に入って行った。

 犯罪者の一人が、薄暗い声で話し始めた。

「ここで、死んでもらう」

 村瀬さんが、あざ笑うように、冷ややかに言葉を返す。

「あら、随分物騒な事を言うのね? やってみなさい」

 男たちはその言葉にイラっとしたのか、一番前方に立っていた男が飛び出してきた。

 走ってきた男が両手の掌を前に突き出し、村瀬さんに攻撃をしようと勢いよく近づいてくる。

 男の両の掌から、電撃が、ほとばしる。

 よもや攻撃が当たるかと思ったその瞬間、マリが村瀬さんを守るように相手の前に立ち塞がり
 男の両腕を掴む。電撃がマリに流れるが、マリはお構いなしに男の顔面に思いっきり頭突きをした。
 言葉を発する間もなく男は崩れ落ちる。

《私に電撃は効きません》

 村瀬さんがやれやれと言った表情でマリに話しかける。

「もう、余計なことしなくても大丈夫なのに」

 咄嗟に横から手にナックルを付けた男が村瀬さんに殴りかかるが、その切っ先を逸らすかのように相手の攻撃を片手で弾く。

 男の上体は大きくバランスを崩し、拳は近くの外灯に当たり、外灯は大きく凹み、くの字に折れ曲がる。通常の人間の威力ではない。

「チッッッ!」

 男が再び村瀬さんを攻撃をしようとしてきたので、
 私はその男の手を掴み<<膂力のカルマ>>で、力任せに地面に叩き付ける。

 鈍い音がその男の体から響き渡り、倒れた男は動く気配は無い。ちょっとやりすぎたかな?

「クッソ! これでもくらえ!」

 戦闘に参加するタイミングを見計らっていた男が、悔しさを現わすように言葉を発したかと思うと

 その男が持っていたナイフが宙を舞い、村瀬さん目掛けて飛んでくる。

 風を切るように一直線に射出されたナイフは、村瀬さんに当たる前に空中で静止してしまった。

 ナイフを放った男は状況が理解できていない。

《飛び道具程度、問題ありません》

 マリの能力は物体の操作である。その力は身をもって知っている。

「あれ? な、なんでだ!? う、動け!」

《物体の所有権を奪われたものは操作できませんか? 私は(触らなくても)できますが》

 どうやら、物体の操作に関してはマリのほうが上のようである。

 間を置くことなく、その男に真正面に立った村瀬さんは、その男の水月に正拳突きを加え、

 お腹を支えるように差し出した頭に対し、天高く繰り出したその足は、振り下ろすと同時に相手の頭頂部を的確にとらえていた。

 倒れ込むと同時に地面と顎が衝突し、痛みと脳震盪が掛け合わさったその一撃は、

 立ち上がる事さえ許されなかった。つよい(確信)

「ヒ、ヒ!? な、なんなんだよオマエら!?」

 残った最後の一人が慌てて逃げ出そうと後ろを振り向き、車まで走り出す。

 私は<<疾走のカルマ>>を使い、瞬時に相手との距離を詰める。

 逃げようと駆け出した相手の首根っこを捕まえ、地面に抑え込んだ。

 村瀬さんとマリが、倒れている男たちのポケットから異物を回収している。

 遠くから、飯田の声が聞こえてきた。

「おーい! 偶然、自衛隊の人たちがいたから助けを呼んできた! ………あれ?」

 もう既に事態は終息していた。

 自衛隊の人たちがその光景を目に前にし、目を丸くしている。一人の自衛隊員が声を発した。

「こ、この倒れている人たちが、車で煽り運転してきた人たちかい?」

 村瀬さんが自衛隊員に状況を説明した。その事の顛末に驚きの声を上げる自衛隊員。

「いやはや、凄いな君たち。誰も怪我をしていないとは。後は私たちに任せなさい」

 私は、地面に抑え込んでいた男を自衛隊の人に渡した。

 じきに警察も来るだろう。しばらくしてやってきた警察の人たちに、改めて、起こった出来事の状況説明をし、私たちが次の目的地に向けて出発する頃には、大分時間が立っていた。

 車に乗って、引っ越し先へ走行中に私は思い出した。

「あ、引っ越し屋さん……。忘れてた。もう、先について待ってるよね……」

 飯田が、話に合わせて会話に混ざる。

「ああ、それなら心配ない。さっきのイザコザの後、すぐ連絡しておいたから」

 私は感嘆の声を上げる。

「おお~。や、やるな飯田」

 村瀬さんも見直したかのように飯田を誉める。

「あら、飯田さんも案外やる男ね♪」

《抜け目のない後処理。見事だと思います》

 運転しながら飯田は照れている。

 落ち着いた雰囲気を取り戻した中島一行いっこうは、引っ越し先へと向かう事が出来たのだった。
 
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