【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜

天白

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今度こそ、ずっと一緒 1

 彼の正体がわかったことで、過去に熊田の口から語られたある情報を元に、藍時の中である仮説が立てられた。

(秀一さんと純に血の繋がりはない。でも、ふとした瞬間の顔がそっくりだ。もしかしたら……)

 その仮説が合っているのかを確かめるべく、続けて秀一に尋ねた。

「秀一さんの身内が……Ωだと、聞きました。もしかして、純は……秀一さんの……」

「ああ。俺の甥っ子だよ。純は俺の弟の子どもなんだ」

 やはりそうかと、腑に落ちた藍時は秀一の部屋で目にした、とある写真を思い出した。赤ん坊の頃の純をその手に抱く、若い男性の写真。秀一とは対照的に線が細く、顔立ちも女性寄りではあるものの、目元がよく似ていた。おそらくその人物が、秀一の弟なのだろう。

 秀一はあっけらかんに答えた。

「それまで兄弟の仲は良かった方なんだが、バース性診断でオレがα、弟がΩだとわかってからというもの、周りがオレらに差をつけ始めた。扱いに耐えきれなくなった弟はある日、家を飛び出した。それから数年後、やっと見つけた弟は酷いDV野郎の下で殴られる日々を送っていて、純を産んでから間もなく死んじまった」

 淡々と語られたその内容は、藍時の表情を曇らせた。家族のいない自分でも、肉親を失ったその辛さは想像ができた。

 やるせなかったことだろう。互いの仲が良かったのなら、なおさらだ。

 しかし、それ以上のことを聞いてもいいものだろうかと躊躇っていると、「気を遣わなくていい。過去のことだ」と秀一が付け足すように言った。

 藍時は遠慮がちに尋ねた。

「相手の……純の、父親は……?」

「元ホストだよ。今はもうないホストクラブのナンバーワンだった。外面はいいし、周りが放っておかない美丈夫だったが、その中身はギャンブル依存症かつ薬物依存症のどうしようもない野郎だった。その上、愛人として傍に置いていた弟が死んでも悲しまないわ、純を認知しないわで……ブチ切れたオレは奴に復讐することにした」

「ふ、復讐?」

 穏やかでない単語を耳にして、藍時はぎょっとした。すぐに、「法律の範囲内だから安心しろ」と返され、ホッと息を吐き、耳を傾けた。

「オレは奴の勤めていたクラブにホストとして入店した。見た目はでも口が回り、肝臓も馬鹿みたいに強いオレは、それまで奴が誇っていたナンバーワンの座をもぎ取った。そうして無駄に高かった奴のプライドをへし折り、散々こき下ろした後、頃合いを見計らって通報した。奴には前科があったし、違法薬物の使用だけでなく、それを流通させている元締めとの繋がりもあったんだ。今は高い塀の中だよ」

 検挙されていなかった犯罪も明るみになり、しばらくは出て来られないと、依然として秀一は淡々と語った。

「まあ、そんなこんなで、傷だらけのΩを見るとつい声をかけちまうんだ。熊田はダチで元は警察官だったんだけど、オレと一緒にこの活動をしたいと言って、わざわざ仕事を辞めて店長になってくれたんだ。理不尽なもんをたくさん見てきたんだろうな。あいつにはすごく感謝しているよ」

 暴れる陸を取り押さえていた熊田はやけに手慣れた様子だった。それが元とはいえ警察官だったのなら、その後の対処を秀一が任せていても不思議ではない。

 だからと続けて、秀一は藍時を見つめた。

「藍時もその中の一人だったし、当時は弟みたいに思ってたんだけど……ある日お前がヒートを発症して、フェロモンをもろに食らったオレは本能に抗えず、つい手を出しちまったんだ。一線を越えたってやつだな。この前みたいに」

「う……」

 途端、意地悪そうにニヤリと微笑む秀一と目が合い、先日の情事を思い出した藍時は、恥ずかしそうに視線を逸らした。

「ただ、勢いとはいえ、そこで番になっちまったのは早計だった」

 と、秀一は、すぐにバツが悪そうな表情を浮かべた。

「Ωによるフェロモンを感じたことは、これまでに何度もあったことだが、お前の時だけはなぜか抗えなかったんだ。オレのものにしたいっていう本能が、お前を組み敷いた。気づいたら番が成立していて、オレは責任を取るためにまだ勤めていたホストを辞めて、お前に結婚を申し込んだんだ」

 結婚という響きに、藍時の胸が一層高く弾んだ。

「じゃあ……秀一さんの首につけている、ネックレスの指輪は……」

「ああ。番がいますよーっていう、オレなりの意思表示だよ。虫除けにもなるしな。もちろん、お前の指のサイズに合わせた指輪も持っているよ……まあ、それを渡す前に、お前は鷹木の下に行っちまったんだけどな」

「えっ……?」

 藍時が驚き小さく声を漏らすと、秀一が即座に首を横に振った。

「別れ話を切り出しに行ったんだよ。すべてにケリをつけるべく、一人であの男の下に行ったんだ。義理堅いからな、お前」

 不貞行為は重罪。その意識は当時からあったらしい。秀一と番になり、結婚をするのであれば、形だけとはいえ付き合ったままの陸との関係を精算しに行ったことも、不思議ではない。

「オレを連れて行けばよかったんだ」

 と、秀一が当時のことを悔やむようにそう言った。きっと、何も言わずに出ていったのだろう。過去の自分は、秀一や純をあの男と接触させたくなかった。巻き込みたくなかったのだ。特に、幼い純だけは、指一本たりとも触れさせたくない。当時も今も、その想いは同じだった。

「それからずっと、オレと純はお前を探していた。純は母親のように慕っていたお前に会いたい一心だったけれど、オレは正直なところ複雑だった。お前が戻ってこないのは、根底ではオレと番になったことを後悔しているんじゃないかと思っていたからだ。友人でも、恋人でもなく、オレ達は一時的に共に過ごしただけの関係だ。フェロモンに当てられたオレ自身も、お前のことが好きなのかどうかわからなかった。番にしたのも、同情心からくるものだったんじゃないかってな」

 番は結婚よりも強い、αとΩだけの特別な関係だ。秀一のいう同情心とは、陸から暴力を受ける自分が秀一と番になることでそれを避けられるようになるのではないか、ということだろう。

 秀一は藍時へ、ずっと抱いていたのだろう本音を吐露し始めた。

「そのうちにお前を探しているのも、番を見つけなければならないという本能からくるものだと思い始めた。怖かったよ。自分の意志ではなく、本能に支配されて動いているようでな。すぐに見つけられないのも、本能よりもお前に対する気持ちが弱いんじゃないかって思い悩む日々だったし、お前もそんなオレから逃げているんじゃないかってな」

「ちが……違います……それは……!」

 気がつけば、口をついて出ていた。藍時は当時の記憶を思い出せないまま、秀一の言葉を否定した。それだけは違うと、断言ができた。

 しかし最後まで言わずとも、秀一はわかっている、と藍時に目で伝えた。

「でも、純が見つけた。オレみたいにああだこうだとごちゃごちゃ考えず、ただ会いたいってその気持ちだけで、お前を見つけてくれたんだよ」

 純の背丈は藍時よりもうんと小さい。目線を常に上げて生活している純だからこそ、見つけられたともいえる。秀一が見つけられなかったのは、髪色が変わったことに加えて、藍時の顔が彼の位置からでは把握できなかったからだろう。

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