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いくら王道といえど、決してふざけてはいけないこともあるのです
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しおりを挟む「皇君。お~い」
名を呼ばないと決めていたわけですが、お寝坊さんなら一応声を掛けてやるべきでしょう。僕はそこまで非道ではありません。嘘です。お寝坊さんな奴が珍しく、ちょっとからかいたくなっただけです。
「起きてますか? お~い。皇君。すめらぎ~。わか~。バ会長~「ガツン!」いだいっ!?」
な、何事!? おでこに何かが当たりましたよ!?
涙目になりながらおでこに手を宛がうと、シーツから頭と手を出している皇くんを目にしました。しかも彼、なぜか手を手刀の形で構えていますっ! これで攻撃されたのか!? 超痛ぇ!
ビリビリと痛いおでこを摩りながら、僕はその場にうずくまりました。う~っ! せっかく起こしてやろうと声を掛けてやったのに~。
「う~っ」
「うるさい」
すると皇君。ようやくもぞもぞと上体を起こしました。シーツから出した顔は目覚めたばかりだというのに、間抜け面ではありません。無駄に整っています。ちくしょうっ!
しかしその身に纏っているのはパジャマではなく、いつものシャツに……え? セーター? なぜにセーター?
とうとうファッションセンスに異常をきたし始めたのかと思われる皇くんに疑問を抱きつつも、まだなおベッドから離れようとしない彼。いつになく、表情が険しいです。
せっかく起こしてあげたのに。
「ご機嫌ななめですね。どうしました?」
「別に」
あれ?
「声、変わってません?」
尋ねると、皇君は口元を抑えて黙りこくりました。いやいやいや。あきらかに変な声でしたよ? いつもなら声優さんのようによく透き通る声が、聞き辛い事この上ない濁声でしたよ?
考えられる理由としては。一、前日に声を出しまくった。二、遅かりし声変わり。三、体調不良。
体調、不良……。
これってもしかして。
「風邪ですか? もしや熱、あるんじゃないですか? ちょっと測りますよ」
どれどれ。僕は皇君に近づくと、彼のおでこに手を当て、僕も自分のおでこに手を当てました。
お? 一瞬、皇君の身体がびくりと竦んだ気がしましたが、どうしたんでしょう? 手が冷たかったかな。
いやいや、それよりも。やだなぁ、同室者が風邪だなんて。僕に移るじゃないですか。ったく。これだから不良さんは。
「あづいっ!? なんちゅー発熱してんですか! つか、どっから病魔を取りこんだんですか! インフルですか!?」
ガバッと。身の危険を感じた僕は皇君から離れました。いくら僕の手が冷たくてもはっきりとわかる発熱です! よくこれで「別に」なんて言えるな! 馬鹿じゃないの!?
「コホッ。煩いですね。ただの風邪です。ぎゃあぎゃあ騒がないでくれますか」
「いやいやいや。あんたのような傍若無人がただの風邪で済むはずがないでしょう。つか、体調が悪いんだったら言ってくださいよ」
これじゃ登校どころじゃないですね。とりあえず、寮長と保健医の神田先生に連絡して、学校の方はお休み……
「どいてください。着替えの邪魔です」
「って、何動いてんですか! まさか学校に行く気じゃ……」
「この程度で休むとでも? ケホケホ」
この程度って、どの程度なら休むんだこの馬鹿は!? 絶対に何かが狂ってますよ!
ちゃっちゃと着替え始める皇君を止めようと、僕はクローゼットの前に立ちはだかりました。何が何でも着替えさせまいと、もとい学校へ行かせまいと止めるためです。え? なんでこんなに必死なのかって? 馬鹿ですか。風邪ってのはすぐに治るもんだと思ってはならんのです。風邪で命を落とすこともあるんですよ。たかが風邪、されど風邪です。
しかし。
「邪魔」
「ぎゃふん!」
この野郎っ! 僕をぞんざいに避けやがりました。顔面を床にぶつけましたよ。ええ。めっちゃ痛いです。
「す、皇くっ……」
「学校で暴れるわけではないのです。今日中に片付けなければならない仕事もありますし。休んでいる暇などありません」
顔を抑える手の平から垣間見えた皇くんの顔は、やはり険しいものでした。体調が悪いから、ということもあるのでしょうが、それ以上に己の職務に対する責任感が勝っているんでしょう。やらなければならない、というこの「must」感。すごいと感心するのと同時に、馬鹿じゃないのかと心の中で突っ込みました。
しかしそれが届くはずもなく。
皇君は身なりを整えるなり、さっさと部屋を出て行きました。朝食は食堂で摂るものすが、あの様子じゃそのまま学校へ行くのでしょうね。
もう知るか! あのバ会長。ぶっ倒れてしまえ。
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