【完結】「+20キロ!?」〜優しい見た目ヤンキーとぽっちゃり男子のお話

天白

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 しっかし、わざわざ東京から来たってのに、クラスの連中は吉良に話しかけることをしねえ。どころか、女子は徒党を組んで吉良を見ながらコソコソと話し合っている。大方、陰口でも叩いてるんだろう。デブだからってそれはねえだろうに。

 これがもしも明るいデブだったら、まだ見込みはあっただろう。同じ条件でも笑顔さえあれば印象はまるで違う。これからおよそ一年半、俺達はこのちっせぇ学舎で苦楽を共にする仲になる。

 何が言いてえのかっていうと、俺は暗くて小声のデブが嫌いだってことだ。

「お……おま、たせ……」

 吉良が鞄を持って席を立つと同時に、俺は教室を後にする。続いて、吉良も教室を出た。

 俺が先頭で、吉良が二、三歩後からついてくる形で下校する。校外に出れば歩道と車道の区別がつかないアスファルトの上をただ歩いていくだけ。周りは木々と田んぼに囲まれつつも、時折戸建ての民家が姿を現す。

 途中、近所のババが俺と吉良の姿を見て「ちゃんと仲良くしんさいよ」と、俺に向かって叱責してきた。傍目から俺は吉良を従えているように見えるらしい。横に並んで手を繋いで歩けってか? 気持ち悪いにも程があるだろ。

 かといって、何も喋らねえのは正直キツい。何かこう、こいつが喋り出すようなネタはねえか?

「んお?」

 視線を泳がすと、田んぼの端にいたアレが目に入った。それも結構デカいのが。

 俺は道を外れて田んぼの方へと向かう。怪訝に思った吉良が立ち止まり俺の様子を見守った。

 俺は首だけ吉良へと振り返り、こっちに来るよう手招きする。バッグのショルダーテープを両手で握りしめながら、吉良はおずおずと俺に近付いた。

 ちょっと脅かしてやろ。そんな軽い悪戯心で、俺は捕まえたブツを吉良の前に翳してやった。

「なあ見てみ。このガマガエル、でかくね?」

「ゲコゲコ」

「うわあああっ!?」

「うおっ!?」

 手の平いっぱいのガマガエルを見せてやったら、吉良が悲鳴をあげて地べたに尻餅をついた。その悲鳴に驚いて、俺もつい声を上げてしまう。

 どっから声を出した? 透き通るような高い悲鳴がマイクも無いのに響き渡った。ガマガエルを田んぼへ逃がしてやると、吉良は俺に怒鳴った。

「やめてよ! びっくりさせないでっ!」

「悪い……けどお前、ちゃんと声出るじゃねえか」

 しかもすげえイイ声。誰が誰だかわからんような声じゃなくて、はっきりとこいつだってわかるそんな声を。何て言うんだ? こういうの……ああ、あれだ。

「アニメ声」

「してない!」

「ほらそれ! すげえ良い声じゃん。勿体ねえ」

「そ、そんなことない……」

 俺が褒めると、吉良は自分の声を抑えるように小さく否定した。自分の声が嫌なのか? 握っていたショルダーテープを一層強く握りしめる。

 なーんとなくだが。俺はこいつがこんな田舎に引っ越してきた理由がそれに関わってるんじゃねえかと思った。妙な勘繰りを入れちまうのが俺の悪い癖だ。

 そして深入りしてしまうのも。

「何で抑えてんのか知らんけど、こんな田舎じゃそうそう悪い奴いねえよ? 都会じゃどうだったか知らねえけどさ……もうちょい自分出してみ?」

 このアニメ声で、デブで、根暗……きっとイジメだろう。都会のイジメは陰惨だって聞くし、自分を抑え込んでもおかしくはない。

 俺は根暗なデブを好かないが、イジメる奴はもっと好かん。こんな見た目で説得力ねえけど。

 俺がしゃがんで目線(どこが目なのかわからんが)を合わせてやると、少しだけ警戒を解いてくれたのか俺に訥々と話してくれた。

「ぼ、僕……前の学校で、この声……イジメられてて……そんな風に受け入れてくれる、人……いなくて……」

 あー、めっちゃイイ声。蚊の羽音よかぜんっぜん、いいわぁ。そして都会はクソか! んな下らねえ理由でイジメんな!

「明日からホントの声で話してみ。俺が言うのもなんだけど、あんま悪い奴いねえから。そんでもし、お前のことを悪く言う奴が出てきたら、俺がぶん殴ってやっからさ」

 そう言ってやると、吉良は顔を少しだけ上げて俺にぎこちなく微笑んだ。

「ありがとう……山木、くん」

 こう見えてオタク趣味がある俺。声優張りのアニメ声に聞き惚れていると、田んぼ向こうのジジから「カツアゲすんなよ!」と一喝された。してねえよ。

 前の学校でイジメの要因となった声を俺が受け入れたことからか、その後控えめではあるが本来の声で滑舌よく話す吉良に、俺は最初に抱いた印象をすっかり忘れていた。おまけに趣味も合う。根暗デブという垣根を越え、すっかり仲良くなった俺達。家も近所どころか三軒先だった。そういや引っ越し業者が来てると母ちゃんが騒いでたわ。

 これから登校も一緒にしようぜと誘ったら、コクコクと首を振って頷かれた。ちょっと可愛いとか思っちまった。
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