2 / 6
2
しおりを挟むしっかし、わざわざ東京から来たってのに、クラスの連中は吉良に話しかけることをしねえ。どころか、女子は徒党を組んで吉良を見ながらコソコソと話し合っている。大方、陰口でも叩いてるんだろう。デブだからってそれはねえだろうに。
これがもしも明るいデブだったら、まだ見込みはあっただろう。同じ条件でも笑顔さえあれば印象はまるで違う。これからおよそ一年半、俺達はこのちっせぇ学舎で苦楽を共にする仲になる。
何が言いてえのかっていうと、俺は暗くて小声のデブが嫌いだってことだ。
「お……おま、たせ……」
吉良が鞄を持って席を立つと同時に、俺は教室を後にする。続いて、吉良も教室を出た。
俺が先頭で、吉良が二、三歩後からついてくる形で下校する。校外に出れば歩道と車道の区別がつかないアスファルトの上をただ歩いていくだけ。周りは木々と田んぼに囲まれつつも、時折戸建ての民家が姿を現す。
途中、近所のババが俺と吉良の姿を見て「ちゃんと仲良くしんさいよ」と、俺に向かって叱責してきた。傍目から俺は吉良を従えているように見えるらしい。横に並んで手を繋いで歩けってか? 気持ち悪いにも程があるだろ。
かといって、何も喋らねえのは正直キツい。何かこう、こいつが喋り出すようなネタはねえか?
「んお?」
視線を泳がすと、田んぼの端にいたアレが目に入った。それも結構デカいのが。
俺は道を外れて田んぼの方へと向かう。怪訝に思った吉良が立ち止まり俺の様子を見守った。
俺は首だけ吉良へと振り返り、こっちに来るよう手招きする。バッグのショルダーテープを両手で握りしめながら、吉良はおずおずと俺に近付いた。
ちょっと脅かしてやろ。そんな軽い悪戯心で、俺は捕まえたブツを吉良の前に翳してやった。
「なあ見てみ。このガマガエル、でかくね?」
「ゲコゲコ」
「うわあああっ!?」
「うおっ!?」
手の平いっぱいのガマガエルを見せてやったら、吉良が悲鳴をあげて地べたに尻餅をついた。その悲鳴に驚いて、俺もつい声を上げてしまう。
どっから声を出した? 透き通るような高い悲鳴がマイクも無いのに響き渡った。ガマガエルを田んぼへ逃がしてやると、吉良は俺に怒鳴った。
「やめてよ! びっくりさせないでっ!」
「悪い……けどお前、ちゃんと声出るじゃねえか」
しかもすげえイイ声。誰が誰だかわからんような声じゃなくて、はっきりとこいつだってわかるそんな声を。何て言うんだ? こういうの……ああ、あれだ。
「アニメ声」
「してない!」
「ほらそれ! すげえ良い声じゃん。勿体ねえ」
「そ、そんなことない……」
俺が褒めると、吉良は自分の声を抑えるように小さく否定した。自分の声が嫌なのか? 握っていたショルダーテープを一層強く握りしめる。
なーんとなくだが。俺はこいつがこんな田舎に引っ越してきた理由がそれに関わってるんじゃねえかと思った。妙な勘繰りを入れちまうのが俺の悪い癖だ。
そして深入りしてしまうのも。
「何で抑えてんのか知らんけど、こんな田舎じゃそうそう悪い奴いねえよ? 都会じゃどうだったか知らねえけどさ……もうちょい自分出してみ?」
このアニメ声で、デブで、根暗……きっとイジメだろう。都会のイジメは陰惨だって聞くし、自分を抑え込んでもおかしくはない。
俺は根暗なデブを好かないが、イジメる奴はもっと好かん。こんな見た目で説得力ねえけど。
俺がしゃがんで目線(どこが目なのかわからんが)を合わせてやると、少しだけ警戒を解いてくれたのか俺に訥々と話してくれた。
「ぼ、僕……前の学校で、この声……イジメられてて……そんな風に受け入れてくれる、人……いなくて……」
あー、めっちゃイイ声。蚊の羽音よかぜんっぜん、いいわぁ。そして都会はクソか! んな下らねえ理由でイジメんな!
「明日からホントの声で話してみ。俺が言うのもなんだけど、あんま悪い奴いねえから。そんでもし、お前のことを悪く言う奴が出てきたら、俺がぶん殴ってやっからさ」
そう言ってやると、吉良は顔を少しだけ上げて俺にぎこちなく微笑んだ。
「ありがとう……山木、くん」
こう見えてオタク趣味がある俺。声優張りのアニメ声に聞き惚れていると、田んぼ向こうのジジから「カツアゲすんなよ!」と一喝された。してねえよ。
前の学校でイジメの要因となった声を俺が受け入れたことからか、その後控えめではあるが本来の声で滑舌よく話す吉良に、俺は最初に抱いた印象をすっかり忘れていた。おまけに趣味も合う。根暗デブという垣根を越え、すっかり仲良くなった俺達。家も近所どころか三軒先だった。そういや引っ越し業者が来てると母ちゃんが騒いでたわ。
これから登校も一緒にしようぜと誘ったら、コクコクと首を振って頷かれた。ちょっと可愛いとか思っちまった。
10
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる