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奥さまは旦那さまに恋をしました

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 あの新婚旅行から一ヶ月。僕は海さんとあのマンションの最上階で一緒に暮らしている。何だそれ、変わらないじゃないか。端から見ればきっとそう言われるんだろうね。

 でもまず一つ大きく変わったことといえば、僕は以前の僕ではなく、かといって二年前の僕でもなく。記憶が全部ではないものの、過去のそれらを取り戻しつつあるということ。思い出したくもないような怖い記憶も時折フラッシュバックはするものの、僕の傍に海さんや友達、僕を支えてくれる人たちがいるおかげでもう「真っ白」になることはなく過ごしている。龍一様から貰った眼鏡も、もう卒業した。

 一ヶ月前、僕は旅館で気を失って……目覚めたら海さんの記憶を失くしていた。それまで僕の中ではずっと警報みたいなのが鳴っていて、それがある一線を越えた途端にフッと海さんが目の前からいなくなった感じだった。

 その辺りがあやふやでどうしてそうなったのかは今でも思い出せないんだけど、海さんは僕が戻ってくると信じてちゃんと向き合ってくれた。その時のことを思い出すと、すごく申し訳ない気持ちになって……

「ごめんね。海さんを信じるって言ったのに僕、また忘れちゃって……逃げてばかりで」

「闘ってたんだよ。柳は柳の中で。あの頃の自分と、今の自分で。それでもお前は気を失う前に、オレに信じてと言ったんだよ。その言葉があったから、オレはお前と向き合えたんだ」

 そう言って、海さんは僕のほっぺを擽るように撫でてくれた。

 またこの一ヶ月の間に僕の身体はすごい早さで成長した。いや、今もしてるのかも。今まで止まってたものが一気に溢れるようにそれが始まったからか、身体中が痛くて痛くて寝込んだりもして大変だったけれど……成長したことが素直に嬉しかった。声も前より少しだけ低くなって、ほっぺも前のようには柔らかくなくなってしまったけれど、それでも変わらず触れてくれる海さんの手に僕の心は解される。

 身長もあれからだいぶ伸びて、体つきも少しだけ男らしくなった僕を海さんは変わらず受け入れてくれた。むしろ僕の成長を喜んでくれて、ますます美人になったって言ってくれた……でもどっちかっていうと男前になったって言われる方が僕的には嬉しいんだけど。

 とにかく僕の成長に伴って制服を始め服もたくさん新調した。特に今日は大切な日だからって、海さんがよくプレゼントしてくれた服のお店で。いつものお姉さんスタッフさんが嬉々としてコーディネートしてくれたお洋服は、今度は周りの人たちから妹と間違えられることなくお店を出ることが出来た。髪も伸びたとはいえもう金髪じゃないしね……でも、何だろう。海さんがきゃあきゃあ言われるのはもう定番なんだけど、最近じゃそのきゃあきゃあがさらにすごくなったような気がする。一緒に歩いてると特に。

 車が再び赤信号で停止すると、海さんが隣にいる僕のほっぺを撫でてきた。もう、ハンドルから手を離してるじゃん……

 でも……やっぱり撫でてもらうの気持ちいいなぁ。僕は心地よくて瞼を閉じながらポソッと呟いた。

「僕、おにいさんにほっぺ触られるの、すごく好き…………あ」

 パッと瞼を開けてギギギと海さんを見上げると……

 わあ! そこにはとっても素敵なスマイルが!

「誰がおにいさんですか? 誰が」

 撫でてくれてたほっぺをそのままむにっと掴まれて、思いっきり引っ張られた。

「いひゃっ! ごめんなひゃっ……ごめんなひゃいっ! 海ひゃん!」

 しょうがないじゃない! だって今までおにいさんって呼んでたんだもん! ポロッと出ちゃうことだってあるよっ!

 涙目になってごめんを繰り返すと、短く嘆息しつつも手を離してくれました……。

「全く」

「ううっ……伸びた……」

 ほっぺを擦る僕。これ、DVってやつじゃないの? 大丈夫なの? あんまり酷いと僕、実家に帰っちゃうからね。

 ……実家といえば。

「そういえば海さんはいつ、シドウに復帰するの?」

「そうだな……真城の方で立ち上げた店も商売をやっているという実感があって面白かったけど、そろそろ戻らないと奨が可哀想だしな」

 真城にいる誰かに引き継がせてシドウに復帰すると、海さんは言った。

 海さん、この二年はシドウグループから離れてほんとに個人でお店を経営してたらしい。シドウにいると仕事が忙しくて僕の様子も見られないから、という理由で。それはそれですごいよね?

 ありがたいやら、申し訳ないやらで複雑な気持ちだったけど、自分が好きでやっていたことだからと笑ってくれた。ちなみに、何のお店? と、前にも聞いたことを改めて聞いてみたら、「お前が成人したらね」とそれについてはやっぱり教えてくれなかった。

 未成年で知っちゃいけないお店ってどんなとこだろ……。
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