25 / 25
乙女ゲームの王子様
怒らせてはいけない家族
しおりを挟むザワザワと人混みが続く、王都の大通り。
正門を真っ直ぐに少し進んだ其の先に、無骨な外観をした大きな建物が冒険者ギルドと呼ばれる冒険者の集まる場所。扉を開けると屈強な男たちが犇めき合い、暑苦しさと息苦しさを感じる。そんなギルドの中で一人、のんびりとテーブルでお菓子を食べているローブを纏った男の側へと、冒険者ギルドのギルド長が頭を下げてきた。
「ルシアン、頼む!この依頼直ぐに出来ねーか?」
「んー?ああ、石系のゴーレムかぁ~。五体って多いね、何かあったの~?」
「急に捻じ込まれて困ってるんだよ、何でも新しい採掘場を開拓したら出てきたらしくてな?ゴーレムが塞いでてどうにも出来ないらしいんだ。打撃系の上位ランクの冒険者はフローライト領でレベリングしてるのは常識なのに、わざわざ王都のギルドに持ってくるんだ。いい迷惑だっての」
「王都のギルドは初心者育成に力を入れているって報告してるのにね~?打撃系を鍛えるならうちの領地の黒の森が一番だもんね~」
王都のギルド長に手渡された一枚の依頼書を見ると、その場所に目が留まる。そして納得してしまった。どうして此処にいきなり捻じ込まれたのか。
「ごめんねー、ギルド長ー」
「ん?どうした?」
「これ、僕は受けれないかな?」
「は!?ルシアンが受けなきゃ誰が受けるんだよ!」
「えー?しらなーい」
ニコニコと笑顔を浮かべていると、依頼書を奪われてしまう。もう一度依頼書を確認しなおしたギルド長の顔色が、一瞬にして真っ青に変化した。
依頼の内容はおかしくない、キチンと不備無しに書かれているのに、その依頼を受けられないのは、その依頼先の討伐地にあった。
「ごめんね~?ギルド長」
「全然悪いと思ってねぇだろう?ティファーナそっくりの笑い方しやがって…っ」
「だって母親だから仕方無いよね?なにー?ギルド長母様にも虐められてたのー?忘れられない人って奴じゃないんだよね~?」
「それこそ止めてくれ!お前らの父親の辺境侯に殺されっから!」
僕の言葉に鳥肌が立ったのか、ごっつい自分の両腕を擦って身体を温めているけど、失礼だよね?父様は思っているって口に出してないなら殺すまではしないと思うんだよね~、多分。
ずっと腕を擦っているギルド長に生温い瞳を向けつつも、手元に取り返した依頼書を眺めてみた。討伐地『メルギフト』勿論、フローライト一族を『狂戦士』呼ばわりしたメルギフト宰相の治める領地。
(此処の特産は鉱山から出る鉄鉱石だよねぇ~)
この土地の鉱山は他の鉱山と比べると、品質は中級といったところ。家庭用のちょっといいお鍋とかの日用品や、初級から中級の冒険者にとっては主要装備にも使えるちょっといい鉄鉱石。
身の丈にあった装備というものは絶対に必要で、そういう物を加工する鍛冶屋も職人だって育てる為に必要なものだ。その最適な鉱山の新しい採取地にゴーレムが五体も出た。
「う~ん、暫くは仕事は出来ないかもねぇ…」
「それが一番困るんだよ!育成に力入れてるって言ってんだろ!」
「だぁって~、僕の所為じゃないし~?」
(そっかぁ…、これじゃ暫くは王都の物価は上がる一方だね。品不足にもなるよね)
王都が品不足になると、物価が高くなるのは常識。フローライト領は魔獣や魔物の素材に魔石、鉱山は一応有るけど高価なミスリルにオリハルコンに金と銀。鉄鉱石が出ない土地なのは、魔物の強さも関係しているんだろうか?
自領の品物を卸すにしても、鉱物が高価なら値段だって上がるのは当然。メルギフトよりも品質の良い物を出してしまうと、前の品質には戻れなくなる。
(自分で自分の首を絞めてるんだよねぇ、馬鹿なのかな?)
「あ、そうか~。何でリアン兄さんが僕達だけじゃなくて、フローライト領出身者と活動したい冒険者って付け加えたんだろって思ってたら。そうだよね、無理だよね」
「なにがだよ」
「この依頼、どうするの?ゴーレムって石だとは思うけど、打撃系の冒険者ってメインの活動場所はフローライト領だよ?」
「!?」
「あ、今気がついたって顔だ」
「いや、待て!何だその、フローライト領出身者と活動したい冒険者ってのは!?其処までの規制はグリンディアは一度もやってなかったぞ!?」
「うん、だって指示はリアン兄さんだもの」
にっこりと笑みを浮かべて言い切ると、ギルド長が床に手を着いて項垂れた。これから極貧になって領主としての評価は最悪にもなる宰相のことは知らないけど、ギルド長はちょーっと可哀想かな。まぁ、お城の騎士団と、低ランクの冒険者を十人単位で派遣すればいけるいける。宰相の信頼と懐が痛むだけだろうしね。
(今の宰相さんは、いい加減引退してもいい年齢だもんね~。うちの祖父様だって父様に領主を任してるんだから、さっさと引退すればいいのに)
「何だよルシアン、依頼は受けてくれるのか?」
「うん、フローライト領の隣の国にね。ちょっと友達と約束してたのがあったんだぁ~」
「フローライト領の隣って、魔族の国か」
ギルド長に突撃されながらも食べていたお菓子の最後の一欠けらを口へと放り込み、メルギフトではない依頼書を手にとって、ウキウキと楽しげに受付へと向かって歩き出した。
(魔族の国に、召喚術を使える友達が待ってるのは内緒だけどね)
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる