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プロローグ
其の一
しおりを挟む朝の清浄な冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、顔を洗って自分の身支度を整えると、次にやるべき事は、届けられていた手紙や荷物の確認。
それを大切なお嬢様の目覚めに合わせて、寝室へと運んでいく。其れがお嬢様専属のハウス・スチュワードである、私エアヴァル=ギプソフィラの仕事です。
この国には四つの季節があり、暖かな花の月・暑い火の月・涼やかな水の月・寒い氷の月と其々呼ばれています。一つの月は90日で360日で一年となり、再び花の月へと戻ります。
其々の最初の月を朔の日と呼び、この日は世界中で祭りや催し物が開かれる日と決められております。
「エアヴァル様、今日の朝の紅茶は何にしましょうか?」
「ルファエルに任せる、お嬢様は朝は爽やかな物を好んでいるから、それを」
「はい」
揺れるふわふわの栗色の髪と、優しく細められる緑色の瞳。ルファエルもお嬢様の世話をする執事の一人でフットマンを務めている。礼をし、準備をする為に厨房へと歩き出した。
お嬢様の部屋の近くへ来ると、掃除をしているゼルクとイスラの姿。ゼルクは赤髪に琥珀色の瞳をした、背の高い華やかな顔をしている。
明るい性格なのはいいが、人をからかうのが好きなようで、今もイスラが遊ばれているようだった。
廊下を歩いてくる私に気が付いたゼルクがイスラを離し、にっこりと微笑みを浮かべて一礼する。それに合わせてイスラも一礼した。アッシュグレイの髪がふわっと揺れて、青い瞳と目が合った。
「エアヴァル様、今日の花は何にしましょうか?」
「イスラで遊んでいないで、キチンと掃除してくれ。花は百合がいいか」
「百合でしたら、庭師に頼んで一番いいのを分けてもらってきます!」
「元気なのはいいが、慌てないように」
「はい!」
元気に走り出したイスラに『廊下は走らない』と注意をして、今度は眠っているであろうお嬢様の部屋へと向かっていく。
屋敷の奥にある、一番日当たりの良い場所がお嬢様の部屋です。
ヴェルヴェーヌ家はライラクス国の公爵家なのですが、お嬢様が魔法を学びたいと仰るので、その道では有名な隣国のアイクロメア王国の学園へ通われている。
アイクロメア王国の王都に構えている借りの屋敷は、緑豊かな土地に建てられていて、雑多な街中に比べれば住み心地がとても良い。
(お嬢様が優秀な方なので、学園を飛び級されているし通う頻度も少ないからな。安全な場所で暮らされるのが一番だ)
そろそろ、長期休暇に合わせてライラクス国へと戻る準備を考えないといけない。公爵である旦那様も、溺愛しているお嬢様のお帰りをお待ちだからです。
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