悪役執事

梛桜

文字の大きさ
20 / 32
花の朔祭編

其の三

しおりを挟む

 ガラガラと車輪の音をさせて、公爵家の馬車が王都の中心へと目指していく。御者台に座っているのはイスラとゼルクです。急な対応をする時はゼルクの『直感力』とイスラの遠距離を攻撃できる力がとても役に立ちます。

「花の朔祭りなら、美味しい紅茶の茶葉が手に入るかしら?」
「そうですね、この時期でしたら花茶を初め沢山出ていると思いますよ。勿論お茶に合わせたお菓子も売っているはずです」
「楽しみだわ」

 馬止めについてみると、やはりごった返している祭り会場。予想はしていたので、前もって予約を取っていた高級宿屋へと向かい、其処から移動をするとことにしました。しかし、宿についてからゼルクの華やかな顔が何やら気難しそうです。
 こういう祭りに繰り出してしまうと、華やかな顔をしているゼルクは女性の目を惹き付けてしまいます。リーユお嬢様の執事を務める者としては、悩みの種ではありますがリーユお嬢様に並んで遜色ないのは有用です。

「ゼルク、何か?」
「…殺気には程遠いけれど、悪意には違いないってとこか」
「一番賑わう祭りですからね、私達はリーユお嬢様に何事も無いように御守りをするだけです」
「勿論です。ただ、この気配は覚えがありますよエアヴァル様」

 綺麗な顔が悪い顔をすると一気に悪役顔になりますね、実際は只の体力馬鹿なんですけどね。私が何を考えていたのか気付いたのか、ジッと睨み付けて来るゼルクに微笑みを向けると、肩を竦めて溜息を零して居ました。

「お待たせしました、準備出来ましたよ」
「本当にそっくりで、僕も吃驚しました!」

 宿に取ったリーユお嬢様の部屋から出てきたのは、リーユお嬢様と同じく艶やかな黒髪を束ねた小柄な女性。これは、祭り対策にやっているルファエルの変装です。

(背の高さは違えど、後姿はリーユお嬢様にそっくりですね)

「年々腕を上げてきてるとは思ってたけど…」
「そりゃ、只側に居るだけではありませんからね」
「では、今日の祭りは手筈通りにいきましょうか」
「はい!」

 祭り会場へと向かう前に、ルファエルの姿にリーユお嬢様も嬉しそうに抱き付いて居ました。侍女と祭り見学を装って頂く予定でしたが、友達のほうがいいと可愛い我が儘を言われたので、その様に行動する訂正をいれ、会場に歩き出しました。

「エアヴァル様」
「もう、ですか?」
「近寄っては着ていませんが、先にリーユお嬢様の目的の場所を済ませてから見物の方が宜しいかと」
「そうですね」

 折角楽しそうに笑みを浮かべるリーユお嬢様の表情を曇らせる事は、執事としてしてはならないことですからね。変装したルファエルと腕を組んで楽しそうに歩くリーユお嬢様の後ろを、私とゼルクとイスラで付き従い、様子を伺うことに致しましょう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...