乙女ゲームの世界では、王道パターンな行動は厳禁です! ~ヒロインは悪役令嬢を救いたい~

姫 沙羅(き さら)

文字の大きさ
1 / 7

① 乙女ゲームのヒロインに転生しました。

しおりを挟む
「アンジェ……」

 紫と碧のオッドアイ。
 金髪の整った顔が眼前に迫ってくる。

「……コーエン様……っ!」

 それを、私は必死で突っ張ねる。


 アンジェリーナ・ラッセン。今流行りの乙女ゲームの転生ヒロイン、18歳。ただ今、貞操のピンチです!




 *****




 ここは、乙女ゲーム「恋する君に誓いの口づけを」の世界。(今思うと、タイトル、さっむい……!)私がそれに気づいたのは、まだ幼い日のことだった。物心つく前からおかしな夢を見ていた私は、ある日それが前世の記憶であることを理解した。
 なんと言ってもヒロインだったので。これがモブだったりすれば気づかなかったかもしれないけれど、なにせ前世でやりこんだ乙女ゲームの、あろうことかヒロインだったので!(大事なことだから二回言ったよ!)
 はい。今流行りの「転生」ってヤツですね。しかもよくある悪役令嬢とかじゃなく、ヒロインだよ!ヒロイン!やったぁ!……なーんて思ったのは一瞬のこと。次の瞬間、私が思ったことは、「悪役令嬢を救わなくちゃ!」ということでした。
 メインルートの王子様と恋してる場合じゃないの!王子様は悪役令嬢とくっつかなくちゃ!
 だって、このゲームの悪役令嬢は、悲劇のヒロインなんだから。


「恋する君に誓いの口づけを」は、よくある中世ヨーロッパ風の学園恋愛モノ。期間は一年。
 この世界には魔法があって、魔力のある人は身分関係なく15~18歳の好きな時期に、魔法学園で過ごすことになる。
 魔法とひとえに言っても、そんなにすごい魔法が使えるわけじゃない。どんなに凄い火系魔法でも、キャンプファイアに火を灯せる程度のもの。
 だって、メインは恋愛ですからね!ストーリーに魔法はほとんど関係ないからね!年頃の少年少女を身分問わずに一所ひとところに集める為のご都合主義です、ようするに。
 ゲームは、伯爵家令嬢であるヒロイン――つまり私!が入学するところから始まる。
 攻略対象者は5人。まず、メインルートのこの国の王子様(同級生)。まぁ、王道だよね!
 それから、騎士団長の御令息(一つ年上)に、王子様の親友でもある宰相の御令息。平民だけど一つ年下の天才少年。最後に先生枠から一人。
 なにかものすごい波瀾万丈があるわけでもなく、攻略対象者に暗い過去があったりするわけでもなく。王道中の王道を突っ走る乙女ゲームです。考えようによっては面白味もなんにもない……、とか言っちゃダメ!
 まぁ、ストーリーはどうでもいいんです、とりあえず。問題は、ヒロインを虐め抜く悪役令嬢。こちらもパターンもパターンで、王子の婚約者である公爵令嬢様です。
 この子がまぁ……、プレイヤーに嫌われに嫌われました。悪役としては最高の賛辞とも言えるほどの悪女ぶり。だけど、ゲーム発売から一年後。公式ファンページで明かされた悪役令嬢サイドのお話に、ファンはみんな号泣した。
 よくある素直になれないツンデレさん!王子との仲を拗らせ、将来の王妃としてのプレッシャーを抱えて悩んでも、冷めた仲の王子はもちろん、友人にも本音を打ち明けられずに追い詰められる日々。
 そんな中で、ゲームには一切出てこなかった、闇の呪い?のようなものにかかって、悪感情を抑えられない性格に。そのせいでヒロインを虐め抜いていたわけなのですが、どうにもならない負の衝動に、心の中で誰か助けてと叫び声を上げている悪役令嬢の姿に、今まで彼女を叩きまくっていたファンは掌を返したように涙するという……。
 まさに悲劇のヒロイン!
 だから私は決めました!
 私自身は攻略対象者たちとのフラグを折りまくり、是非悪役令嬢には王子様と幸せになって貰いたい!
 え?王子様とのフラグだけ折ればいいんじゃないかって?まぁ、それも考えなかったわけではないのだけれど……。
 ゲームならいいのよ、ゲームなら。でも、よくよく考えたら本当の意味で私の好みのキャラがいないことに気づきました。実際彼らと恋愛するとなると……、なんか違う。なんか違うというより、ゲーム内での恋愛イベントのあれこれを私が彼らと繰り広げるのかと想像すると、ぞわりと肌の毛が逆立った。
 あー、無理無理!耐えられない!あんなイベントやこんなイベント、プレイヤーとして画面を見ている分にはいいけれど、実際に自分が体験するとなるとこそばゆくて拒絶反応が!

 そうして幼い日の私は、攻略対象者たちとのフラグを折りまくり、悪役令嬢を救うための決意をしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

美醜逆転の世界で騎士団長の娘はウサギ公爵様に恋をする

ゆな
恋愛
糸のような目、小さな鼻と口をした、なんとも地味な顔が美しいとされる美醜逆転の世界。ベルリナ・クラレンスはこの世界では絶世の美少女だが、美の感覚が他の人とズレていた。 結婚適齢期にも関わらず、どの令嬢からも忌避される容姿の公爵様が美形にしか見えず、歳の差を乗り越え、二人が幸せになるまでのお話。 🔳男女両視点でかいています。 場面が重複する場合があります。 🔳"美醜逆転の世界で純情騎士団長を愛でる"のスピンオフとなります。本作を読んでいなくてもお楽しみいただける内容となっています。 🔳R18は後半 ※を付けますので、苦手な方はご注意ください

処理中です...