7 / 51
冒険者になろう!【前編】
しおりを挟む『東和海国』は大陸最東端の国。
独自の言語を使うため、あの近辺と隣接する地域は独特の言葉や訛りが入る。
モナはそのあたりから来たらしい。
そりゃあ口数も少なくなるだろうし、この国の中心部で生まれ育ったお嬢様たちからは「言葉もまともに話せないなんて」みたいな扱いをされることだろう。
めちゃくちゃ動揺してしまったが、偏見があるわけではない。
言葉とは文化。
無理に変えるものではないと思っている。
「それに、うちは一番新しくここさ来たから……」
「ほーん、一番後輩なのか。フリードリヒは最年少と言われていたな?」
「おう! おれっち十五歳だ!」
「ほう」
こいつ、口が軽そうだな。
キュピーン、と目を光らせて、この際ここの生徒たちの情報を引き出すのがよいかもしれない。
その方が色々やりやすくなる。色々。
情報は武器。
貴族たちはそのあたりよく分かっていそうだが、平民相手なら口も滑らせていそうだ。
「せっかくだ、今日は色々話を聞きながら魔物討伐と洒落込もう。冒険者登録を済ませたらパーティー登録をして、分け前は三等分。どうだ?」
「おれっち冒険者登録って初めてだから分かんない! 任せるよ!」
「う、うちも」
「そうか」
フリードリヒよ、冒険者登録は基本的に一人一回だ。
笑顔でそう心の中で突っ込みを入れ、彼がその『常識』を知らないことに全身からぶわりと変な汗が出た。
(……貴族連中はともかく、ボクはもしかしたら早まったのではないだろうか? 勇者特科の施設に入る子たち、下に年齢制限はなかったよね?)
出る時の年齢はある。
しかし勇者特科の施設へ入るのは、天啓にて【勇者候補】の称号が与えられたと発覚したら、だ。
だからたとえば、生まれながらにその称号を持っていたら常識を覚える前に入れられることもあるということ。
あの中だけで育てられ、外へ放り出される者がいるのかと思うと身の毛もよだつ。
「フ、フリードリヒはいつから勇者特科にいるんだ?」
「おれっち? おれっちは七歳の時にあそこに入ったんだ! だから、八年前かな! おれっち、こう見えても一番古株なんだぜ!」
「そうなのか……」
フリードリヒが勇者特科に入った時、二人の候補がいた。
しかし彼らは当時すでに十九と十七で、間もなく一人が卒業し、もう一人も三年でいなくなったそうだ。
入れ違いに入ってきたのがエリザベートとヘルベルト。
二人はものすごく困惑したそうだ。
子どもの世話など、したことがなかったからだろう。
その次の年に入ってきたマルレーネ。
彼女は比較的子どもの世話が得意で、フリードリヒはマルレーネを一時期「姉ちゃん」と呼んでいたらしい。
しかし、高位貴族のヘルベルトとエリザベートが「平民とか貴族」の違いを教えられて呼ぶのはやめてしまった。
少し寂しいけれど、卒業後のことを考えるとそれがいいと判断されたのだ。
今はフリードリヒもその意味が分かる。
「そんで、おれっちが十三歳の時にロベルトが入ってきて、モナは今年入ってきたんだよな!」
「そうなのか……じゃあ今が一番多い感じか」
「うん! そうだな!」
彼らが入ってきた順番を聞き終えてから、思考を一巡させた。
つまり、フリードリヒは完全に世間知らずの部類に入れて問題なさそう、ということ。
そしてエリザベートとヘルベルトもなかなかの世間知らず。
マルレーネは未知数だが、入ってきてからの年数を考えると同じくらい世間知らずなのではなかろうか。
庶民感覚がない、という意味でならロベルトも怪しい。
(うーーん、こいつぁヤバいぞー)
改めて、近いうちなにがなんでも六人全員に外の常識を叩き込まねばなるまい。
自分の生活のためにも。
彼らの卒業後のためにも、だ。
「よし、では今日はお前たちに一般的な仕事なども説明しながら魔物の狩り方なども教えよう。ボクは教員免許がないから、授業とかではなく、冒険者として学ぶ感じで頼む」
「? よく分からんけど分かったぞ!」
「は、はい」
「じゃあ出かけるぞ」
「おーーう!」
フリードリヒのテンションがものすごく高い。
彼からすれば八年ぶりの外の世界。
門を出ると、途端に瞳の輝きが増す。
本当ならば、彼はあと五年、ここから出ることはできなかったのだ。
そう思えばなんとも微笑ましい。
「道をちゃんと覚えるんだぞ」
「うん! うん!」
「こんなに早くまた施設から外さ出られると、思わんかったべさ」
「そうだなぁ」
それからテンションの高いフリードリヒが「おれっちのことはフリードって呼んでもいいよ!」とか「おれっちの父ちゃん、騎士団にいるんだ」など色々と話し始めた。
それに呼応するかのように、モナも「うちの実家はこんなところで~」と止まらなくなる。
いや、喋るのはいい。
彼らの情報は今後の役に立つと思うので。
(でもこいつらちゃんと周りの景色とか道順とか覚えてるのか? ボクみたいに[探索]の魔法が使えるならいいけど……使えなさそうだよな。迷子になりそう)
しっかり見ていてやらねばダメだな、と強く思う八歳。
八歳にそう思われている十五歳男子と十六歳女子。
一応きちんとついてはくるのだが、お喋りに夢中で人が増える大通りに出ると人にぶつかりそうになる。
なので二人の尻を引っ叩き、「落ち着け」と一喝してから冒険者協会の建物へと引き連れていく。
なんでそんなにお喋りが止まらないのか。
施設内でも喋る機会はありそうなものだが、モナはエリザベートがいる場所では訛りを注意されるので喋れず、フリードリヒはヘルベルトに「落ち着きがない!」と怒られるから喋るのを我慢しているらしい。
0
あなたにおすすめの小説
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる