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再婚約
しおりを挟む翌日、昼間。
地下食堂にて、「話がある」とロベルトとエリザベートに呼び出された一同。
「——というわけで、実はエリザベートとまた婚約することにしました」
と、照れ照れしたロベルトに報告された一同の、その驚いた顔よ。
リズはなんとなく気づいていたのでにこにことそれを祝福した。
「そうか、決意したのか」
「はい。管理人さん、わたくしの愚痴につき合ってくれて、ありがとうございました。昨日あのあとロベルトともちゃんと話し合って、婚約破棄の件で誤解があったとわかったの」
「僕はてっきり、エリーに嫌われて婚約破棄されたと思っていました。まさか家の事情だったなんて」
「親同士が決めた婚約なのだから、そんなの当たり前ですわ」
「でも、本当に、本当に、エリーに嫌われたわけじゃなくてよかった。本当に。すごく安心した。ここ数年ずっとつらかったんだ」
「そ、それは……そんなの、わたくしだって!」
シーン、と沈黙が流れる。
リズだけが見つめ合い、手を握りあう二人の姿に「よかったよかった」と手を叩く。
なお、最初に事態を把握して動き出したのはフリードリヒだった。
「いや! えええええっ!? ま、待ってください! よ、よくわからないことになってる!?」
「うん? なにがわからないんだ?」
「エリザベートさんとロベルトさんが婚約って、なにそれなにそれ! なんで昨日の今日でそんなことになるんですか!? なるんですかーーーっ!? なんでですか! なんでー!?」
「そんな大混乱することか? 説明されただろうが」
二人が元々婚約者同士だったこと。
エリザベートが先に【勇者候補】の天啓を与えられたため、エリザベートの実家がロベルトとの婚約を破棄した。
しかし、ロベルトはエリザベートが【勇者候補】の天啓を与えられたことを知らず、突然の婚約破棄は「自分がエリザベートに嫌われてしまったから」だと勘違いしたのだ。
その後ロベルトにも【勇者候補】の天啓が与えられてしまい、色々傷心な中『勇者特科』にやってきたらどうだ?
そこにはエリザベートがいるではないか!
婚約のことを彼女と話そうにも、申し訳なさからツンケンしてしまうエリザベートと話はしづらい。
当時の『勇者特科』の寮則では、不純異性交友は禁止されている。
元婚約者という立場。
再び彼女とそんな話をすることは憚られた。
それでもいつか、卒業したら。
いや、せめて今も想いだけは変わっていないと伝えたかった。
リズが赴任してきて、寮則も変更され、話し合う機会も得て、そして色々な誤解も解けた今——なにを我慢することがあるだろう?
「いいじゃないか。幸せになれるのなら、幸せになるべきだよ」
「そ、それは……そうですけど」
「そだな、あんな幸せそうなエリザベート様、初めて見たべさっ」
「ええ、いいんじゃないかしら? ワタシもアリだと思う。あの人、あんな可愛い顔もできたのね」
「む、むぅ……」
ヘルベルトがそんな風に言うマルレーネを見て、目許を赤くしつつ顔を背ける。
お前も頑張れ、とヘルベルトの思いを知っている者たちは意地の悪い笑みを浮かべた。
(よかったね、エリー、ロベルト。キミたちは幸せになりなよね)
ボクはダメだったけど。
と誰にも、自分にも届かないように、心の耳を塞いで否定して。
独り言としても消し去って。
「ま、まあ、いいのではないか。ところで管理人、聞きたいことがあったのだが」
「なんだい、ヘルベルト」
「あのボアの群れはなんだったんだ? 訓練施設とは聞いていたが、さすがにあれはきつすぎるような」
「あーあれね。あれは——」
そうだ、説明するの忘れてた、とリズはあの地下訓練施設に『邪泉』を転移させたことを話した。
『邪泉』を浄化できるのは勇者のみ。
つまりリズがあそこに『邪泉』を置いたのは、訓練にもなるし勇者たちの“本来の力”を引き出すのに一役買ってくれると思ったから。
「じゃ、『邪泉』を浄化……!? そんなことができるのか!?」
「逆に言うと勇者にしかできない。つまり本物の“勇者”に至るには『邪泉』を浄化できればいい、ということ。それにあの程度のボアに押されるようでは未熟も未熟。せめてボクが教員免許を取る前に、あの程度は一人でなんとかできるようにしてほしいなー」
「「「ひ、一人で!?」」」
さけんだのはヘルベルトとフリードリヒとモナ。
モナは回復役なので、厳しいだろうか?
「いいや、モナも回復魔法をやりようによってはできるよ」
「そ、そんなー! 無理だよー!」
「無理じゃないよ。[超回復]、[身体強化・天]、[身体強化・地]、[猛毒・強]、[吸収・強]を覚えればできる」
「ぜ、全部聞いたことないべさー!?」
「覚えな」
「ひょ、ひょぇ……」
「っ」
まだ二人の世界にいるロベルトとエリザベートは気づかない。
その代わり他の四人は表情を強張らせる。
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