40 / 51
本格始動【4】
しおりを挟む(まさか魔法とスキルの判別がついてない奴がこの世にいるなんて……あれ、おかしいな、フリードリヒって元々騎士爵の家の子だよね? なおさら教わらない?)
と、思いながら黄色い部屋の扉の前に一度[瞬間転移]で移動する。
そして、フリードリヒが『勇者特科』に来た経緯も思い出した。
フリードリヒはかなり幼い頃に【勇者候補】の称号を天啓で与えられ、甘えたい盛りの幼少期に『勇者特科』に入れられたとか。
当然一般常識や、普通の子どものように友達と遊び回るなどの経験もないだろう。
ヘルベルトはあの通りの堅物なので、子どもと遊ぶなんて絶望的。
ロベルトはエリザベートよりもあとに『勇者特科』に入ってきたため、フリードリヒの境遇を心配していたようだが、彼もまた由緒正しい貴族出身。
平民同然の騎士爵の子どもが普通どんなふうに育つのか、など知る由もない。
最近はモナと一緒に冒険者としてお小遣いを稼ぎ、町で買い食いしてくることを覚えたようだが——果たして彼の中の『世界』はどんなふうに見えているのだろう?
【勇者】は世界を知らなければならない。
逆を言えば世界を知らずに【勇者】にはなれないのだ。
『勇者特科』の【勇者候補】たちは世間を知らなすぎるが、その中でもフリードリヒは特に無知がひどい。
(追い出すか)
それもありだな、と思いつつ、黄色い扉を開ける。
「あ! 管理人さん! ようやくきてくれたんだべか!」
「あの、この部屋はいったい……」
この部屋にいるのは魔法使い系のモナとロベルト。
二人とも困惑している。
まあ、突然飛ばしたのだからそれはそうだろうが、勇者たるもの自らの状況を正しく冷静に把握して打開策を導き出す……くらいのことはしてほしいものだ。
やはり彼らには実践経験が圧倒的に足りていない。
だがそれは、この場所の課題をクリアしてからでもいいだろう。
「あの浮いてる球あるでしょ?」
黄色い部屋には大きな球が浮いている。
それを指差して指先に魔力を凝縮して溜めていく。
「こうして、こう」
魔力の塊を撃ち出して、球を割る。
バァン! という派手な破裂音に思わず耳を塞ぐモナとロベルト。
破裂した球は破裂した途端再びぷくぅー、とどこからともなく現れる。
「えっ」
「見てたらわかると思うけど、破裂させたあとに現れたあの球は、ボクが今撃った魔力弾とは別な圧縮率と魔力量が別だ。それを瞬時に測定して、破壊して行く。こんな感じ」
ばん、ばん、ばん、と指先に部屋中の球を破壊するのに必要な魔力量とその圧縮を瞬時に行い、撃ち込んでいく。
当然ながら簡単にできることではない。
モナは「もんげぇー」とあんぐりと開ける。
絶対にロベルトのように、リズの行った球破りがいかに凄まじいか気づいていない。
「それを繰り返して魔力の調整と、魔法を使うのに必要な魔力量の測定速度、それを撃ち出すまでの速度、魔法弾そのものの速度などの反復練習になる。単純な練習だが、魔法を使うものにとって魔力量の操作とその圧縮、撃ち出す速度——すなわち魔法陣への変換、魔法使用の速度は、特に戦闘においては命に関わることもある」
「は、はい」
「モナ、ぼうけてないで。ちゃんと聞いてる?」
「ふぁぁい!?」
「……ロベルトはともかく、モナは基礎から怪しいんだよなぁ。マルレーネに課題を出し終わったら戻ってくるから、先に始めてて」
「は、はい」
ロベルトにそう指示を出して、赤い扉の中へと戻ってくる。
困り果てていたマルレーネが、だだっ広い訓練施設内をぼーっと眺めていたのでわざと真上から顔を覗かせてやった。
マルレーネからすれば、突然逆さ吊りのリズの顔が目の前に現れた状況だ。
「きゃーーー!」
「気を抜きすぎだよ。『邪泉』は消えてないんだから、ゴブリンやボアはまた増え始める。もう産まれ始めてるかもしれないのに」
「か、管理人さん……! す、すみません。でも……びっくりさせないでくださいよ! んもう!」
マルレーネ、いちいち言動が可愛い。
容姿が可愛らしいというのはまったくもって得である。
(……いや、別に……可愛らしさとか、ボクはいらんし。そういうのはアリアの担当だし)
ほんの少し、そういう女の子らしさというか、可愛げというのは羨ましい。と、思わないでもないリズ。
可愛げ。前世から無縁である。
だがそういうものは姉に丸投げしてきた。
今後も必要ないと思う。
「まあいいや、気を取り直して」
「は、はい」
「他の五人にはそれぞれ課題を出してきた。マルレーネにもこれから課題を出す。マルレーネだけここに隔離したのは理由がある。マルレーネの場合武器が弓矢で遠距離型だから、近接戦闘系の訓練場も魔法の訓練場も使って無駄なことはないが、それよりもっと学ぶべきことがあると思ったから分けた」
「……ワタシが、もっと学ぶべきこと、ですか?」
そう、マルレーネの武器は弓矢。
そしてマルレーネは意外と魔法の成績もいい。
ただし、どちらがより得意、というのがない。
よくいえばバランス型。悪くいえばどっちつかず。
あまり優しい言い方をしないと中途半端すぎて扱いづらい。
「前にゴブリン退治でマルレーネが戦ってるところも見てたけど、割と撃ち漏らしが多いんだよね」
「うっ!」
「的に当てるのは……まあ、できるんだけど、そこじゃないっていうか……一撃で沈められないっていうか。五回に三回は急所外すよね」
「う……」
「そしてそれは大体『的』が動いてる時だよね」
「ううっ!」
「うんうん、自覚があってなにより」
「…………」
がっくりと派手に項垂れるマルレーネ。
そう、彼女——マルレーネは弓士としての腕は決して悪くない。
ただ、動かない的でばかり練習していたため、動く的は失敗率が非常に高いだけで。
本人もそのことに自覚があるらしいので、改善は早そうだ。
「[スターバルーン]!」
キラキラと輝く大型、中型、小型の星が周囲を囲む。
ポカンとするマルレーネ。
わかる。わかるぞ。なんだこの魔法は、と言いたいんだろう。
そうだろう、そうだろう。
用途がわからないだろう。
「撹乱用の魔法だよ」
「撹乱用……」
「氷属性の魔法でね、周囲の光を利用してめちゃくちゃ輝く。ふわふわ動くし眩しいし、魔法は跳ね返すし、この見た目で結構凶悪なんだよね」
「ま、魔法跳ね返すんですか!?」
「跳ね返すし、当たりどころが悪いと——」
えい、と魔力弾を適当なところへ放つと、小さな魔力弾は跳ね返りを繰り返してリズとマルレーネの周りを一周した。
それでも消えることなく二周、三周する。
そのスピードはどんどん上がっていく。
リズはそれがこちらに向かって飛んできた瞬間、別の魔力弾を撃ってそれを破裂させる。
「っ」
「ゆっくりとはいえ、一応は動く的だ。矢は自動生成する矢筒を置いておくから、好きなだけ練習するといい。十個以上連続で当てたら、動きが速くなっていくようにしておいたから頑張ってね」
「え、ええっ!?」
0
あなたにおすすめの小説
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる